IoT元年から2年、先行者に学ぶ成功の秘訣


井原 敏宏=日経 xTECH/日経クラウドファースト

 2016年はIoT(インターネット・オブ・シングズ)元年になる――。   こう言われて早2年半が過ぎた。2016年は前評判ほど企業で導入が進まなかったものの、ここに来てクラウドサービスを使ったIoT事例がぐっと増 ている。

ディー・エヌ・エー(DeNA)はAmazon Web Services(AWS)のIoT基盤サービスである「AWS IoT」を使い、AI(人工知能)を使ったタクシー配車アプリ「タクベル」を開発した。

DeNAの小林篤執行役員システム本部本部長は2018年5月30日、アマゾン ウェブ サービス ジャパン主催の年次イベント「AWS Summit Tokyo 2018」の事例セッションで、タクベルにおけるAWS活用事例を説明した。


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 ヤンマーもAWS IoTを使い、IoTやAIを使った次世代の農業を実証するため、2017年10月からテストベッドのビニールハウスで農業IoTシステムを運用している。センサーから収集した温度やCO2濃度などのデータを基に、独自の計算式で適切な養分量を算出し、水耕栽培システムを制御して農作物に自動的に養液を投与するという取り組みだ。米マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」を使ったIoT事例もある。 横河電機はセンサーデータの収集や蓄積、計算、表示などを可能にするIoT基盤「Industrial IoT(IIoT) Foundation」の第1弾を、2018年4月に構築した。IIoT Foundationの構築には、IoT端末管理/メッセージ送受信サービスを提供する「Azure IoT Hub」を採用している。中国ハイアールの日本子会社であるアクアはAzure IoT Hubを使ってコインランドリーにある洗濯機や乾燥機とつながるIoT基盤を構築した。ユーザーはスマートフォンやPCのアプリケーションを使い、洗濯機や乾燥機の空き状況を確認したり、終了時間の通知を受けたりできる。アクアは2017年12月に「Cloud IoTランドリーシステム」として、全国のコインランドリーに展開済みだ。

IoT関連のPaaSが追い風に 

 クラウドサービスを使ったIoT事例が増えている一因が、AWS IoTやAzure IoT HubといったIoT関連のPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)の登場である。AWS IoTは2015年10月に発表され、同年12月に一般提供を開始した。Azure IoT Hubは2015年10月にプレビュー版が登場し、2016年2月に一般提供となった。2016年がIoT元年になると叫ばれたのも、これらのサービス提供開始と無縁ではない。

 DeNAの小林本部長はAWS IoTを採用した理由について、「データの転送に使う通信プロトコルとして、MQTT(Message Queuing Telemetry Transport)に対応しているから」と語る。MQTTはWeb通信で使うHTTPに似たプロトコルだが、HTTPに比べてヘッダー情報が10分の1以下と軽量で、リアルタイム性の高さが特徴だ。小林本部長は「数万台のタクシーからデータをほぼリアルタイムに収集する将来像を見越して採用した。自前でMQTTサーバーを構築するよりも、手間とコストを減らせた」と効果を話す。

 アクアがAzure IoT Hubを採用した狙いはセキュリティの強化だ。Azure IoT Hubは膨大な数のデバイスとの通信が可能であるのに加え、 SSL(Secure Sockets Layer)やTSL(Transport Layer Security)による通信の暗号化もサポートしている(AWS IoTもTSLによる暗号化に対応する)。

 Cloud IoTランドリーシステムの採用店舗では、洗濯機や乾燥機とデータをやり取りするゲートウエイ装置として、DTC(Data Transfer Controller)を設置している。洗濯機や乾燥機の稼働状況や売り上げ情報はDTCを経由してAzure上に送って蓄積する。アクアのマーケティング本部コマーシャルランドリー企画グループでディレクターを務める秋馬誠氏は「DTCを1台ずつ暗号化するのではコストが見合わなかったため、Azure IoT Hubを採用した」と話す。

構築のハードルは下がるも厳しいのは採算性 

 IoT関連のPaaS提供により、IoTシステム構築のハードルは下がった。自前でMQTTサーバーを用意したり、セキュリティを強化したりするのに手間とコストが以前ほど必要なくなったからだ。ただ、IoTシステムの開発を成功に導くにはもう1つ乗り越えなければいけない壁がある。大阪ガスのリビング事業部商品技術開発部スマート技術開発チームに所属する八木政彦マネジャーは、「採算性の配慮が重要」と強調する。同社は2016年に、家庭用燃料電池コージェネレーション(熱電供給)システム「エネファーム」のIoT基盤をAWS上に構築した。将来的に数万~数十万台規模の機器の接続を見越したIoT事例として、大きな注目を集めた。エネファームのIoT基盤を検討し始めたのは2014年の中ごろという。当時はAWS IoTの提供前だったため、各種機器メーカーと協力して、エネファーム本体や台所リモコン、専用の無線LANモジュール、通信サーバー、スマホアプリを全て手組みで開発した。開発の難易度は高かったものの、エネファームのIoT化に踏み切れたのは「開発費や通信費といった投資に対し、修理作業の効率化で得られるコストを試算したところ、採算が取れる見通しが立った」(八木マネジャー)から。燃料電池の故障診断には高度な技術が必要になる。「以前は担当者が現場でPCを接続して、燃料電池内部のデータを収集し、原因を解析していた」(同)ため、作業負荷が大きかった。2016年4月にIoT基盤に対応した「エネファームTypeS」を発売したところ、大きな効果が出た。「発売後約半年で、修理担当者の現場作業時間は平均1時間短くなった。再訪問率は半減し、全体の3割は訪問せずに解決できた」(同)。IoT関連のPaaS提供に加え、スマホの普及による通信部品の低コスト化や、一般家庭の無線LANの普及などにより、今後さらにIoT事例が増えるのは間違いない。IoTシステムの開発を成功に導き、プロジェクトを軌道に乗せるためにも、採算が取れる仕組みを十分検討する必要がある。


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