「ロボット工学と仏教」


AI時代の科学の限界と可能性

科学者が仏教を学ぶことの意味とは―。

その答えがここにある! ロボット研究の第一人者と気鋭の心理学研究者が、仏教について交わした電子メールによる往復書簡。約600通をもとに抽出し凝縮された厖大な「知の軌跡」が、知覚・認識・存在・論理という人間の本質にかかわる諸問題を解き明かす。

仏教とは縁もゆかりもなかった心理学者・上出寛子氏が、ロボット工学の世界的権威で仏教哲学の専門家でもある森政弘氏との出会いを契機に仏教哲学を学び始め、ついにはロボット工学系の国際会議において英語で仏教哲学を紹介するまでになる――。

本書は、この「師弟」研究者の間に交わされた600通を超える電子メールを約200通に凝縮して、時系列に配列したものです。

読者は、森氏の懇切丁寧で時宜に適った指導と上出氏の鋭敏かつ真摯な姿勢によって、普遍性を持つ思想・哲学としての仏教が学問領域の垣根を越え、自然に伝播していく様子を目の当たりにします。

森氏は、技術の発展や向上のみに邁進する現代日本社会にあって、それらを担う科学・理工系の人たちが仏教哲学を体得し、それを研究・開発に活かしていくことによって初めて、技術が人々を真の幸福へと導くものになると語ります。
AI(人工知能)の技術開発が「心・欲望・悟り」の領域に入りつつある今日、とくに理系の研究者や技術者、学生にお薦めの仏教哲学入門書。
 

上出/寛子

1980年、大阪府に生まれる。大阪大学人間科学部人間科学学科卒業。博士(人間科学)。大阪大学特任助教、東北大学助教を経て、現在、名古屋大学特任准教授。日本ロボット学会の安心ロボティクス研究専門委員会幹事、ロボット哲学研究専門委員会委員長を務める。現在は、両委員会が終了し、引き続き、ロボット考学研究専門委員会を立ち上げ、委員長を務める。大阪大学総長奨励賞、日本応用心理学会優秀大会発表賞、日本ロボット学会研究奨励賞などを受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)



以下の文章は、本書の第14章からの抜粋です。
森氏が説かれる仏教哲学の核心――二つの相反するものが融合・調和して一つになるのが宇宙の本質であるという

 

二元性一原論」が、お二方のやりとりから浮き彫りになっています。
「論理」(科学)と「矛盾」(仏教)は、いずれかを選び取るのではなく、二つの間を行ったり来たりする姿勢こそが天地自然の道理に適っていると言われます。

 

  【森氏】――普通の賢い人は、自分が理性の枠内に閉じ込められていることに気付かないのです。

貴女は一度、この理性という世界から飛び出して、自在になって下さい。つまり、理性の中への出入り自由です。

理性が要る時は理性世界に入り、それが邪魔をする時はパッと飛び出す。……これが仏教的な生き方です。


【上出氏】――論理で説明できる力がなければ、研究者としてはやっていけないと思っていた学生時代であれば、

  論理も矛盾も同時に成立することなんて、これほど当然のようには思えなかったと思う。

今では物事の本質とは、相反するものが助け合って成立している、という矛盾も、整合性をもって論理的に考える、という思考も、両方行き来することの方がずっと自然で明白であるように思う。

 

森先生はこれまでずっと、わたしの頭の固さに合わせて、色々と教え方を自在に工夫してくださっていたのだと思う。


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