24年5月以降「電気代が跳ね上がる」深刻な理由
(出典:新電力比較サイト)
裏にある政府の“愚策”
2024/04/18
このところ落ち着きを見せてきていた電気料金が、2024年に入って、燃料調整費の変動により再び値上がりに転じてきた。
さらに追い打ちをかけるように、5月以降にさらなる値上がりが決定している。 これから起きようとしている電気代上昇の2つの理由と、背景に存在する日本のエネルギー政策の問題点を解説する。
23~24年“予想外の乱高下”が起きた「再エネ賦課金」
電気代値上がりの原因の1つ目は、「再エネ賦課金の上昇」だ。
そもそも、再エネ賦課金とは何か。これは、2012年から導入されたFIT制度(再エネ電力の固定価格買い取り制度)と直結するもので、再エネ電力をより高い値段で買い取るための“原資”を電気料金に含める仕組みである(※2023年度分からはFIP制度分も含まれる)。
トップのグラフは、その再エネ賦課金の年度ごとの推移を示している。
単位は1kWh当たりの価格(円/kWh)で、これに1カ月当たりの使用電力量をかけると料金に毎月加算される賦課金の額となる。
基本的に再エネの発電所が増えれば増えるほど買い取り額の全体も増え、私たち消費者が負担する額も増えることになる。
実際に2012年度の制度スタートでは1kWhで0.22円だったものが、2020年代に入って3円を超えるまでに上昇した。
ところが、昨年2023年度に異変が起きた。前年度の3.45円から2円以上も下がって1.40円に落ち込んだのである。
これを平均的な家庭の電力使用量(4人家庭モデル月400kWh程度)に当てはめると年間1万円近い値下げとなり、昨年からの電気料金の安定に一定程度寄与した。
筆者も含めて多くのエネルギー関連の専門家が予測していたように、今年はそれが大幅に逆ブレした。
2024年度は2円以上も上がってこの5月からの再エネ賦課金は3.49円/kWhと過去最高額に戻ってしまったのである。
5月からの電気料金の値上がりは、賦課金上昇分だけで月800円以上となる。
では、なぜこのような賦課金の“予想外の乱高下”が起きてしまったのであろうか。
その理由は、再エネ賦課金の決定方法にある。
電力市場が落ち着くと逆に“上がる”再エネ賦課金の不思議
少し専門的だが、再エネ賦課金は下の方法で決められている。
(出典:資源エネルギー庁)
(1)買取費用等およそ4兆8,000億円は、FIT制度でより高い値段で再エネ電気を買うための全体の費用で、それを(3)販売電力量(買い取ってもらう発電量およそ7700億kWh)で割れば、賦課金の額が出るように思うかもしれない。
しかし、実際には(2)回避可能費用等という電力卸売市場(FIT電力は全量市場で売られる)での売り上げで回収される分がある。そのため、(2)を引いたものを(3)で割ることで賦課金単価が求められる。
全体の(1)買取費用等(発電側から見ると受け取る総代金)はFIT制度の固定価格をベースに変わらない。
買い取り費用を構成するのは、市場で売られた代金である(2)回避可能費用等と賦課金(賦課金単価×(3)販売電力量)分を合算した額である。つまり、市場で高く売れれば(=市場高騰)、残りの賦課金は減り、逆に市場が安くなれば賦課金は増える、という負の相関関係にある。
資源エネルギー庁の公式を変換すると下が導かれる。
(1)買取費用等=市場販売額((2)回避可能費用)+賦課金総額(賦課金単価×(3)販売電力量)※事務費は省いて示している
2022年に市場が高騰して翌年の賦課金が2円以上も大きく下がり、逆に2023年は市場が非常に安くなって今年の賦課金が急上昇したのは、このような理由である。
ロシアのウクライナ侵略前の欧州の電力スポット市場は、再エネ発電所が順調に伸びて1kWh当たり2円、3円ということも珍しくなくなっていた。
そのときに、たとえばドイツでは賦課金が大幅に上昇して電気料金が上がる事態を引き起こしていた。
一般家庭などの需要家にとってみると、マーケットが安いのにその恩恵を受けられないことから、「おかしい」、「小売会社が利益を抜き取っている」などの声もあったが、前述の賦課金の仕組みが、その現象を招いた原因となった可能性が大きい。
終わりを迎えた、電気・ガス料金の支援
もう1つの値上がりの原因は、「激変緩和対策事業の終了」。電気料金の補助が5月いっぱいで終わるのだ。
(出典:資源エネルギー庁)
数兆円規模を超える、脱炭素にも反する問題山積の“愚策”
電気料金などの高騰のピークは、実は2023年の初頭であった。
それから1年以上も全世帯、企業などに対して一律の補助をしていたことになる。その施策の評価は多くのメディアを含めて厳しいものがある。所得に関係ない広い支援は、ひっ迫している日本の財政で大きな負担となっている。
6月以降もさらなる継続が決まったガソリンの補助を合わせると、数兆円規模を越えている。
たしかに、エネルギー費が上がることはほかの物価上昇と同様に家計などに厳しい影響を与える。
しかし、本当に必要なのは生活が苦しい所得の低い層に対してであって、いわゆる富裕層などを含むのは理屈に合わない。
欧州でも高騰対策として、多くの国で電気やガス代、ガソリンなどへの補助が行われたが、いずれも時限的なものですでに終了している。
もう1つの問題点は、省エネの動機を弱め、脱炭素の推進に掉(さお)さすことにある。特にガソリン補助の長期化は市場での価格決定をゆがめている。通常、消費者は、値段が上がると購入を控えたり、必要な利用に限定したりという行動をとる。
このため使用量が減少し、結果として市場原理が働いて価格の低減につながる。
ましてCO2を増大させる化石燃料に関する支援は温暖化防止に逆行する。
再エネ拡大は脱炭素の基本であるが、今、日本では系統(送電線網)の弱さなどによる出力制御(再エネ発電を抑制すること)などの課題が存在する。
必要な系統強化には6~7兆円の費用がかかるという。巨額に見えるが、すでにバラマキともいえるエネルギーの一律補助に使ったお金はその額に匹敵する。
結局、5月に確定している電気料金の値上がりは、再エネ賦課金の+2円以上の上昇と電気代に対して1年以上にわたって行われていた値引きの終了(最大7円、5月分で1.8円/kWh)であった。合計で月1,500円以上の額となる。
値上げは消費者にとって苦しいが、その対応は“適切”でなければならない。また、そこで使われる費用のことを忘れず、何にどう使うのが最も良いかという議論が必要である。
受けている支援やメリットを近視眼的な損得で考えるのではなく、家族、国、地球という規模、そしてその将来も含めた広い視野の中で選択することが重要である。
最後までお読みいただき、有り難うございました。 ☚ LINK
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