テスラ、EVで「利益6000億円」をたたき出す秘訣


「ここはシリコンバレーと既存自動車会社のハイブリッド。それぞれのベストの要素を組み合わせ、人を引きつける車をつくる努力をしている」。約10年前、アメリカのEV製造工場で、イーロン・マスクCEOはそう語っていた

年間のEV販売台数100万台突破は時間の問題

 木皮 透庸:東洋経済 記者

2022.02.21

時価総額は100兆円を超え、年間販売台数100万台の突破も目前。

アメリカのEV(電気自動車)専業メーカー、テスラが驚異的な成長を続けている。

日系自動車メーカーの幹部は「あのスピード感は業界の常識からするとありえない」という。東洋経済プラスのデジタル特集で、進化するテスラの秘訣に迫った。



* EVで「利益6000億円」をたたき出す秘訣

「もはやEVの可能性や収益性を疑う余地はないはずだ」

1月26日に発表されたアメリカのEV(電気自動車)専業メーカー、テスラの2021年度の決算資料にはそう書かれていた。 

売上高は前期比約7割増の538億ドル、純利益に至っては7.7倍の55億ドル(約6300億円)と驚異的な伸びを示したのだ。2021年の世界販売台数は前期比約9割増の 93万台

四半期ごとに台数が増えており、2021年10~12月には約31万台を売った。

このペースが続けば年間120万台を超え、テスラが2022年中に「100万台メーカー」の仲間入りを果たすことがほぼ確実な状勢だ。

これは日本の自動車メーカーでいうとマツダ(2021年の販売台数は129万台)と同等の規模だ。

目下、どの自動車メーカーも世界的な半導体不足に悩まされている。

にもかかわらず、なぜテスラは販売をここまで伸ばせたのか。

マスクCEOは2021年7月のアナリスト向け電話会見で「サプライヤーとは深夜1時まで何度も電話で連絡を取り合い、多くの欠品を解決することができた」と振り返っている。そして「足りない半導体があれば、代替可能な半導体を探し出し、ソフトウェアを数週間かけて書き換えた。車両との適合性を確認するためのテストも行った」と説明した。

代替品を調達できても安全性の確保は自動車メーカーにとって生命線だ。

高度な作業を短期間で実現できたのは、エンジニアの半数がソフトウェア領域とされるテスラの強みが生きたといえる。 

販売台数の急拡大とともに、製造コストの大幅な低下も進んでいる。

テスラの決算資料によると、量販モデルの「モデル3」を造り始めた2017年は1台当たりの製造コストが 8万4000ドルで、直近は3万6000ドルまで下がっているこれは車種構成の変化が大きい。

以前は1000万円を超える高級車の「モデルS」が中心だったが、直近は量販車で 400万円台のモデル3にシフトして台数を拡大。さらに、ギガプレス(☞ 動画LINK)と呼ばれる製造装置(AL ダイカスト) の導入でEVの部品点数を大幅に減らすなど、地道な生産コスト削減も効いている。限定した車種の量産効果とコスト削減の両面で6000億円もの利益をたたき出しているのだ。

量販車の「モデル3」(上)と数年前までメインの車種だった「モデルS」(下)


* EVで食えるのはテスラぐらい

もっとも、テスラのようにEVで収益を出せているところはほぼ皆無だろう。

コンサルティング会社のアーサー・ディ・リトル・ジャパンの試算では、テスラのEVは営業利益率が7~8%とガソリン車とほぼ同等だが、既存メーカーのEVは赤字だ。

どのメーカーもリチウムやコバルトなど主材料の高騰による電池調達コストがネックとなる一方、「テスラの電池システムは、セルの温度管理を行うバッテリーマネジメントシステムが効率的に設計されているほか、セルをまとめてパックにするパッケージング技術が優れているため、コスト優位性が高い」(アーサー・ディ・リトル・ジャパンの粟生真行プリンシパル)。 

また、テスラがネットで販売していることも収益上有利に働く。

既存の自動車メーカーの場合、販売価格の10~15%程度を割いているディーラーマージンを払う必要がないからだ。

そして2021年の決算で注目すべきは、テスラが「クレジット収入」に頼ることなく自動車事業でしっかりと稼げるようになったことだ。

クレジットとは走行時に排ガスを出さない車を国や州などが定める台数以上販売した企業が、その規制をクリアできない他社に販売できる権利だ。

初の通期黒字化を達成した2020年度は、テスラの営業利益の約8割がクレジット収入だった。今後、既存の自動車メーカーがEVの販売拡大を進めればテスラの収入が細るリスクもあり、クレジット依存の脱却が1つの課題だった。

2021年度はクレジット収入の比率が営業利益の約2割にまで低下し、それを除いても営業利益率9.6%を達成した。

会計基準が異なるため単純比較はできないが、トヨタ自動車の2022年3月期の営業利益率予想は9.5%で、大手自動車メーカーと遜色のない収益力を持つ企業へと変貌した。 

1月末の決算会見でマスクCEOは2022年の世界販売台数について「(2021年比で)50%を余裕で超える成長が続く」と語った。半導体など部品供給網に懸念が残るとして新型車の投入を見送るが、ドイツのベルリン近郊とアメリカのテキサス州オースティンに建設した2つの完成車工場を本格稼働させ増販を狙う。

* テスラはかなりのリード

テスラの時価総額は約9000億ドル(約100兆円)と、自動車業界の中では断トツのトップ。

テスラウォッチャーとして有名なアメリカのモルガン・スタンレーの株式アナリスト、アダム・ジョナス氏は2022年1月11日付のレポートで、EVの販売競争をマラソンに例えてこう記した。

「テスラは21マイル(30キロメートル超)地点までリードを広げ、その他は2マイル地点もしくはまだ靴ひもを結んでいる状態にある」

脱炭素の流れからモビリティのメインストリームに入ってきたEV。

はたして、既存の自動車メーカーはテスラとの「差」がどれくらいあると認識しているのだろうか。

(出典:東洋経済Plus)


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