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2030年までにBEV30車種、350万台販売計画の神髄

ついにトヨタが手の内を見せてきた(写真:トヨタグローバルニュースルーム

山本 シンヤ : 自動車研究家

2021年12月28日

現在、自動車業界のトレンドとなっている「電動化」。2015年に発覚したフォルクスワーゲン(VW)ディーゼル車の排ガス不正問題、いわゆる「ディーゼルゲート」以降、電気自動車(BEV)への意向を表明するメーカーは増えてきている。 

そんな中、トヨタは「カーボンニュートラル実現に対して全力で取り組む」と語るが、その内容は「正解がわからない中、1つの選択肢で世界は幸せになれない」とマルチソリューションを唱えてきた。



 * トヨタはBEVに否定的だった?

もちろん、マルチソリューションの中にはBEVも含まれるが、それを「マルチソリューション=中途半端、煮え切らない」ととらえて、「トヨタはBEVに否定的」という烙印を押す人が新聞や経済系メディアを中心に多かったように思える。

本当にトヨタはBEVに否定的なのか? 

筆者に言わせれば、それは完全な間違いである。

トヨタの歴史を冷静に振り返ってみると、その戦略は単なる付け焼き刃でなく、実に計画的に行われていることがよくわかる。

オイルショックが起きた1970年代にBEVに光が当たったこともあるが、当時は技術を含めて「時期尚早」と判断、どの自動車メーカーもすぐに手を引いた。

しかし、トヨタは「いずれ、そのような時代はやってくる」と判断し、1992年に「EV開発部」を設立。1993年にタウンエースEV/マジェスタEV(鉛バッテリー)、1996年にRAV4 EV(ニッケル水素バッテリー)を市場へ投入。

そして1997年の量産ハイブリッド車「プリウス」の登場へと繋がっているのだ。

この話をすると、必ず「ハイブリッドとBEVは違う!!」と反論する人が出てくるが、勘違いも甚だしい。

すべての電動化パワートレインに共通する重要な要素技術は「モーター/バッテリー/インバーター」の3つ。

これにエンジンを組み合わせると「ハイブリッド(HEV)」、HEVに充電機能を追加させると「PHEV」(プラグインハイブリッド車)、フューエルセルと水素燃料タンクを組み合わせると「FCEV」(燃料電池車)、そして、そのまま使えば「BEV」となる。つまり、ハイブリッドの進化=トヨタ電動化の進化と言っても過言ではない

トヨタは20年以上にわたるHEVの開発によって、小型/軽量/高効率化のノウハウを手にしてきた。

加えて、累計1810万台のHEV生産・販売の実績によって裏付けられた耐久性/信頼性/商品性/コスト競争力など、大量・高品質で生産する技術を構築してきた。

これらの裏付けから、以前より「HEV技術で培った技術はBEVにも活用できる」と語っていたが、その一方でBEVでより重要な要素技術となるバッテリーのさまざまな課題に対して、完全に乗り越えるためのピースが埋まっていなかったのも事実である。 

* 次世代バッテリーの実用化と量産化に道筋

しかし、それも先日開催された「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」で、高性能/高効率化(車両・バッテリー一体開発)、安全性(異常発熱を抑える)、長寿命(10年後で90%)、高品質(異物を発生させない/入れない)などの最新技術が採用された次世代バッテリーがグローバルで販売する初の量産BEV「bZ4X」に搭載されていると発表された。

ちなみにbZ4Xの総電力量は71.4kWh、航続距離はFF 500km前後、AWD 460km前後と公開されているが、バッテリー総電力と航続距離の関係を見ると電費のよさが光る。これはBEVにしては軽量設計(FF:1920kg~、4WD:2005kg~)であることに加えて、空力性能/転がり抵抗の追求や消費電力を減らすデバイスの採用など、車両全体で積み重ねた結果だ。

このあたりは長年ハイブリッドの開発で培ってきた技術が活きている証拠だ。その進化は止まることはなく、2020年代後半までにbZ4Xと比較して「台当たりの電池コスト50%低減」を目指すと発表している。

「BEVの量産」において目を背けることができない供給体制についてはどうか。

豊田通商が2006年からレアメタルの鉱山事業に着手、バッテリーに欠かせないリチウムの全世界埋蔵量の10%を押さえているという。そのうえで、グローバルの地域ごとに「必要なタイミング」で「必要な量」を「安定的」に供給できるフレキシブルな体制構築を計画済みだ。加えて、「安心に使ってもらえる電池」のコンセプトにパートナーと協調・連携を行い、3年後の電池必要量を計画に織り込む体制作成や生産立ち上げのリードタイム短縮など、さまざまな変化に対して適応力のある体制を整えているのだ。

このようにトヨタはBEVの普及に最も大切な「開発」、「供給」という目に見えにくい部分の体制を整えてきたが、世間一般のイメージは違っているように見えた。

その理由は単純明快で「トヨタはウンチクだけで、肝心なクルマが出てこない」だったためだ。 

「だったら全部見せるよ!!」

  それが12月14日に開催されたトヨタの「バッテリーEV戦略に関する説明会」である。

ここでは、現在開発中の数多くのBEVモデルのお披露目と販売計画を発表。その内容がこれである。

 * 2030年までにBEVを30車種投入

・2030年までにZEV(BEV+FCEV)のグローバル販売台数を350万台

 ・2030年までにグローバルでBEV30車種投入(=フルラインナップ化

 レクサス2035年にグローバルでBEV100%を目指す 

これを聞いて「トヨタはBEVに熱心ではない」、「世界の流れに逆らっている」、「内燃機関に固執するガラパゴス」などと揶揄していた人たちは、おそらく驚いたか困惑したかしただろう。

ちなみに今年5月にZEVのグローバル販売台数は200万台と発表していたが、この短期間で販売計画が変わったのはなぜか?

実は200万台は全世界のディーラーに「何台売れる?」と裏取りしたうえでの台数に対して、350万台は生産べースの話で「ここまで作れる」という台数だと言われている。つまり、世の中的には「大幅な上方修正」と言うが、トヨタ的には表現方法を変えただけにすぎず、すべては計画どおり……と言っていいのかもしれない。

 今回発表されたモデルを見ると、BEV専用ブランド「bZシリーズ」は発表済みのbZ4Xを含めて5車種、プレミアムブランド「レクサス」は4車種、そしてさまざまなライフスタイルモデルを7車種で計16台。

それも多種多様なバリエーションは、下位の自動車メーカーのモデルラインアップを超えるほどだ。 

「bZコンパクトSUV」(上)と「bZ SDN」(写真:トヨタグローバルニュースルーム) 

これらのモデルは、早いモデルで来年、遅いモデルでも数年以内に登場予定だと言われているが、それを逆算していくと4~5年前から開発は粛々と進めていたことは明らかだ。少しだけ、それらのモデルたちを推測も含めて解説していきたい。

 まずはbZシリーズの4台から。

「bZコンパクトSUV」はbZ4Xと同じSUVながらスポーティな方向のモデルでクーペルックが特徴。「bZ SDN」はフォーマル需要にも応えるセダンボディから中国市場を意識している? 


「bZスモールクロスオーバー」は欧州専売のアイゴクロスに似たポップなデザインで、日本/欧州でも受けそうな雰囲気。

「bZラージSUV」は3列需要を叶えるモデルだが、他のモデルと比べると少々コンセプトカー然としているので発売は先? 

ちなみに「bZ4X」をこれらのモデルと一緒に見ると、センターに位置するモデルであることがよくわかるだろう。 

 続いてレクサスの4台だ。やはり注目は「レクサス・エレクトリファイドスポーツ」だろう。LFAのDNAを継承した新たなブランドの象徴として、0→100km加速2秒前半、航続距離700km、全固体電池搭載も視野……など、ポテンシャルもスーパーだ。

現時点では純粋なコンセプトのようだが、低い車高、ロングノーズのデザインを崩さずに量産化されるか楽しみだ。

「bZスモールCrossover」(上)と「bZラージSUV」(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

 

レクサス・エレクトリファイドスポーツ

(写真:トヨタグローバルニュースルーム) 


「レクサス・エレクトリファイド・セダン」は低いノーズ/クーペのようなフォルム/サイズ感などから、次期ISに見えるのは気のせいではなさそうな予感。

「レクサス・エレクトリファイドSUV」は、bZラージSUVの兄弟車のように見えるが、RXの上に位置するクロスオーバーのフラッグシップモデルだろう。  

そして、「レクサスRZ」はUX300eに続くBEV第2弾となるモデルだ。発表会ではステアリングを握る豊田章男社長の映像が公開され、驚きの声と笑顔が走りのよさを物語っており、正式発売が待ち遠しい限りである。

「レクサス・エレクトリファイド・セダン」(上)と「レクサス・エレクトリファイドSUV」(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

「レクサスRZ」(写真:トヨタグローバルニュースルーム) 


* ただし、「トヨタ、電動方針を転換!!」でもない

そして、最後は多種多様な7台のモデルだ。

「クロスオーバーEV」はハリアーと同サイズながらもスポーティでグラマラスなデザインが特徴。

既存のラインアップには後継モデルは見当たらず、もしかしたらウワサされているクラウンSUVなのか!? 

「コンパクトクルーザーEV」は見てわかるように、ランクルシリーズの末っ子といった印象で、会場でも評価が高かった1台。「スモールSUEV」はよーく観察すると次期C-HRのように見えるかもしれない。

「クロスオーバーEV」(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

「コンパクトクルーザーEV」(上)と「スモールSUEV」(写真:トヨタグローバルニュースルーム)


「ピックアップEV」はタコマ(北米専売)がベースのようだが、フロントマスクはEVらしい出で立ちで優しい印象。「スポーツEV」はMR2復活を思わせるようなフォルムとフロントにさり気なくGRバッジが装着されているのが気になるところだ。

  「マイクロ・ボックス」は愛嬌あるルックスが注目されがちだが、唯一の黄色ナンバー(=軽自動車枠)でダイハツと共同開発なのか?

「ミッド・ボックス」は商用EVの提案だが、何と全幅は1.7m以内に収まっているなど、クイックデリバリー後継モデルとしての素質も!!

「ピックアップEV」(上)と「スポーツEV」(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

「マイクロ・ボックス」(上)と「ミッド・ボックス」(写真:トヨタグローバルニュースルーム)


このようにEVフルラインアップを公開したことで「トヨタ、電動方針を転換!!」だと思っている人もいるが、それも正しくない。

「選択肢は狭めない」との方針は今後もまったく変わらず。

つまり、トヨタにとってのBEVは「いくつかあるパワートレインの1つ」という認識なのである。 

確かに「選択と集中」を宣言したほうが経営的には楽である。

ただ、トヨタはグローバルでビジネスを行っているため、各国・各地域のいかなる状況、いかなるニーズにも対応しながらカーボンニュートラルを実現させる必要があると考えている。つまり「カーボンニュートラル実現」と「すべての人の移動の自由を叶える」の両立だ。それはすなわちトヨタフィロソフィの「幸せの量産」に繋がる。

今回、初めてBEV戦略に対して “攻め”の姿勢を取ったトヨタだが、筆者は1つだけ気になることがあった。

それは豊田社長の「本心」の部分だ。筆者はこれまでの取材でBEVに対して「ちゃんとやっています!!」「反対ではない」という話は何度も聞いているが、それ以外のこと……もっと踏み込んだ話や本音を聞く機会はなかった。

確かにガソリン車や水素エンジン、ハイブリッド技術を語っている時と比べるとビジネスライクだな……と。

そこで筆者は発表会の質疑応答の場で、思い切ってストレートに聞いてみた。

「豊田社長はBEVが好きなのか? 嫌いなのか? 素直な気持ちをお答えいただきたい」

 豊田社長は苦笑いしながら答えてくれた。 

 

*「これからトヨタが作るBEVには興味があります」

「あえて言うなら『今までのトヨタのBEVには興味が無かったが、これからトヨタが作るBEVには興味があります』というのが答えだと思います。

ちなみに私が最初に乗ったEVは『RAV4 EV』でした。その次に乗ったのが、86をEVに仕立てたテストカーでした。

ただ、その時のコメントは、どんな形をしていても『電気自動車だね』でした。

つまり、BEVにすると皆同じクルマになってしまう。トヨタ/レクサス/GRという各ブランドで『○○らしさ』を追求している者としては『BEVだとコモディディ化してしまう』と。

そのため、今までビジネス的には応援するけど、モリゾウとしては……という本音を見抜かれた感じです。

 私は今、マスタードライバーをやっています。

マスタードライバーになるキッカケ、トレーニング、技能習熟はFRでやってきました。

しかし、最近は自ら出場するラリーやS耐などのモータースポーツの場では4WDに乗っています。

そこでマスタードライバーの感性が変わってきたことは、『電気モーターの効率はエンジンよりも遥かに高い』ということです。それを活かすと4駆のプラットフォームを1つ作れば、制御如何でFFにもFRにもできます。

そんな制御を持ってすれば、モリゾウでもどんなサーキット、どんなラリーコースでも安全に速く走ることができる。

 さらに全日本ラリー選手権ではノリさん(勝田範彦選手)、S耐ではルーキーレーシングのドライバーが活躍していますが、プロのドライバーの運転技能を織り込んで、より安全、よりFun to Driveなクルマができるという期待値、そして私のようなジェントルマンドライバーが同じように走れるクルマが、このプラットフォームによって作れる可能性が出てきた……これが大きな変革だと思います。

 ただ、制御で味付けしただけでは伸びたうどんに天ぷらを載せるような感じにしかなりません。

この十数年、TNGAをはじめ、ベース骨格、足回り、ボディ剛性など、『もっといいクルマをつくろうよ』という掛け声のもとで、地道なカイゼンを行ってきました。そして、下山コースを作り上げ、クルマにより厳しい条件での開発も進んでいます。

 つまり、単なるビジネスマターではなく、ドライバー・モリゾウとして、『こんなクルマがあったらいいな』というクルマづくりを織り込みたいと思うようになりました」

 この時の表情は、筆者にはトヨタの豊田章男社長からモリゾウに変わったような気がした。

そして豊田社長の言葉を筆者なりに解釈すると、豊田社長はこれから発売されるBEVはこれまでのBEVとは違うと自信を持っているということだ。この発表の前に登場したレクサスUX300eのユーザーは複雑な心境だと思うが、豊田社長はギリギリながらも「合格点」を与えていることを付け加えておきたい。

 

* これから出てくるBEVへの期待

以前、豊田社長にインタビューをした際に、「僕はいちばんのトヨタのクレーマー」と笑いながら教えてくれたことがあるが、それは結果として今回のBEVにも強く活きているような気がする。

なぜなら、今後出てくるBEVはマスタードライバーである豊田社長による「最後のフィルター」をクリアした製品なわけで、それはすなわち「BEVに興味を持っていない人が、納得できるBEVって何だ?」という部分がクリアになった仕上がりとなっていることに期待ができるはずだ。そういう意味では、トヨタにとって本当の意味での「選択肢」が生まれたと言っていい。

これまでのトヨタのBEV戦略に欠けていたのはハードでもソフトでもなく、実は「パッション」だったと筆者は分析している。 

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