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日本のEVの未来を考える

2020年01月20日

[池田直渡,ITmedia]

2019年の東京モーターショーに日産が出品した軽自動車規格のEVコンセプト「iMk」

 EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。

今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」の多くは、欧州のプロパガンダに手も無く丸め込まれたか、フラットな振りをして実は単なるEVのファンの承認欲求だったりするものがほとんどだ。反対に「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」もダメだ。

情報を拒否して耳をふさぎ、EVの今を知ろうとしないで、内燃機関に固執し、ただ一方的に新しいものを否定するような議論には意味はない。現状を踏まえて、今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話をしなければならない。結論としては「日本にEVを普及させる方法はある」と思う。


筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。



バッテリーという製品の特徴

 今、EVの普及を阻んでいるのは、詰まるところバッテリーである。バッテリーの何がという話になれば、コストと生産量の両面だ。バッテリーが爆発や炎上を起こす最大の原因は不純物の混入だ。だからバッテリーの生産ラインにはクリーンルームが必要になる。

図はパナソニックの補機用バッテリー。電極を多層にして電解質を介して電子を移動させる仕組みは、EVの動力用でもバッテリーでも変わらない(パナソニックHPより)

バッテリーとは陽電極板と陰電極板の間に電解質を置いて、電解質を媒介として電極間の電子を移動させることによって蓄電/放電する仕組みだ。
 この陰陽電極セットと電解質を組み合わせて、出力が得られる最低単位セットセルという。EVに使うバッテリーは、このセルをいくつも重ねてミルフィーユ状に構築してできている。これを小型軽量化することとは、すなわち積層される電極と電極の距離をどれだけ近づけるかに依存するその際、電極間に導通性のある異物が入れば当然ショートを起こす。あるいは、電解液中に析出結晶が発生するなどの原因でショートする場合もある。これが発熱源となって爆発や炎上を起こすのだ。

 そういう問題を少なくするために間にセパレーターという膜を入れるのだが、セパレーターの抑止力は万能というわけではない。

導通性のある金属片などの異物が膜を突き抜けてのショートはもちろんのこと、析出結晶でも引き起こされる析出結晶は核になる異物があれば起きやすくなるので、結局バッテリーの小型軽量化を左右する要素の大半を占めるのは、不純物の混入をいかに防ぐかということになる。

 逆にいえば、簡単に安全なバッテリーを作るためには、セルの電極間のクリアランスを大きく取り、多少の異物が入ってもショートしないようにセルを小型化しないことだが、それではちっともエネルギー密度(体積もしくは重量あたりのエネルギー)が高まらない

だから、電極間を縮めていきたいけれども、詰めれば詰めるほど、より高度なクリーンルームが必要になる仮に数十ミクロンでコントロールしたいとなれば、数十ミクロンの異物混入を防がなくてはならない。


 

*なぜ大量生産だけではコストが下がらないのか

 こういう生産設備は、立ち上げコストは無論のこと維持コストも高くつくよく「大量生産すればコストは下がる」という意見を聞く。もちろん量産によるコストダウン効果はゼロではないが、バッテリーはどちらかといえば量産ではあまりコストが下がらない製品だ。

 量産効果でコストが下がる要因は一般的に2つある。

1つは材料の大量調達によるコストダウンだ。しかしバッテリーには、レアメタルレアアースなど市場で需給が釣り合わない素材が多く使われており、大量生産で需要が高まればむしろ価格が上がってしまうもちろんバッテリーのケースだの配線だのは大量調達での価格低減効果があるだろうが、このへんはもうとっくに下がるところまで下がっていて、そこから5%や10%下がっても価格に影響しない。むしろ、一番価格を支配する材料に対して、大量発注は調達コストに逆に働くのだ。

 もう1つは生産の効率化によるコストダウンだが、バッテリーはロボットなどを使って手順を自動化してバンバン作れるような製品ではなく、イニシャルコストの割り勘が効きにくい。細かい作業の積み重ねが求められる、意外に精密な製品なのだ。だからコストは基本的にセル数に従量的になる。
 ではバッテリーの需給が逼迫(ひっぱく)したまま、なぜいつまでも改善されないのか? 

それはバッテリー技術の進歩がまだまだ進んでおり、バッテリーメーカーとしては巨額の設備投資をどのタイミングでするかの判断が難しいという点にもある。

例えば今話題の全固体電池はまだ完成していないが、どうやらもうカウントダウンに入っているらしいという話は誰もが耳にしているだろう。

このタイミングで、リチウムイオン電池のための巨大な設備投資は誰だって決められない。

ここで全固体電池の開発の遅れを見込むのもあまりに博打要素が強すぎる。かといって次世代の全固体電池は未完成だ。
 ということで、バッテリーの調達はまだしばらく厳しい状態が続くし、コスト低減もそうそうはかどらない。 

*航続距離は長いほどいいのか?

 今度はユーザー側のニーズを見てみよう。昨今、EVの課題とされるのは航続距離である。

どのメーカーも「満充電でこんなに走れます」と訴求している。けれども、冷静になって考えてほしい。

年間1万キロ走るユーザーにとって、日割りの平均走行距離は27.4キロに過ぎない。ちなみに初代プリウスPHVのEV走行距離は26.4キロ。バッテリーの容量はわずか4.4kWhに過ぎなかった。

 2020年現在、比較的普及価格(といっても結局300万円台中盤からだが)のEVのバッテリー容量は40kWh程度これがプレミアムEVになれば60kWhあたりが最低線、大きなものでは100kWhというものもある。これらのクルマの中には最大航続距離で600キロ以上のものもある。

 しかし、エアコンやヒーターをガンガン使って電費が落ちたところで、走行距離が1日平均の27.4キロなら、バッテリーは10kWhもあればこと足りる。多少日によるでこぼこがあったとしても、20kWhもあれば100キロ近く走ることができる条件が悪くとも7掛けはクリアするだろう。つまりこれが日々の使用を前提とした場合の最低必要電力だといえる。

 別角度から検証しても、この20kWhというのは、そこそこのマジックナンバーだ。

毎日EVをアシに使っている人たちが、実際の使用電力を測定したところ、やはり20kWhあれば十分だという結論に達している。これは筆者が言っているのではない。実際に日々EVを使っているEV関連の専門家が、生活の実体験として言っているのだ。

初代リーフからのバッテリー容量の拡大

都内在住、都内勤務の彼らと地方の状況はまた違うだろうが、これもひとつの実例である。 バッテリーは充放電回数に応じて劣化する特徴があるが、急速充電するとより劣化が早まる。

だからEVの正しい使い方は、充電器を備えた自宅で、毎日夜間に通常速度充電を行い、この航続距離以内で使うことだ。これならバッテリーの負担も少なく、電気代も安い。

どちらでも不利な外出先での急速充電器は、背に腹は代えられない場面で、仕方なく使うものなのだ。
 しかし、お盆や正月の帰省などで、長距離を走らなければならない場面もある。

こういうときに電欠するのが怖いという心理に後押しされて、今EVには航続距離が求められている。

しかしそもそも出先で充電しなければならないケースはそれほど多くはない。

使い方にもよるが、多くても月に1、2度。少なければ年に1、2度というところだろう。

いってみれば、年に数度やってくる祖父母を乗せるために3列シートのミニバンを買って、毎日1人で乗っているようなものである。バッテリーは高価で重たい。こういう漠然とした不安にさいなまれて、高いイニシャルコストを負担したり、重たいバッテリーを無駄に運ぶエネルギーを消費するのは馬鹿馬鹿しい。もしものときの保険コストに日常が圧迫されている状態だ。例外的なケースさえ見切ってしまえば、バッテリーは大容量化する必要がない。

まずはこの本質を理解しなければならない。

本質論では、レアなケースに備えてバッテリーの大容量化を図るのは、リスクマネジメントとして正しくないのだ。理詰めではそうなる。


*車両価格300万円、航続距離250キロ、充電時間10分

 とはいえ、長距離を完全に切り捨てろといわれて、納得できる人だけを相手にしていてはEVは普及しない。

そこはそれ、何かの方法でカバーする必要がある。商品性の問題だ。
 あまりに合理的な容量だと、仮に東京から大阪の実家に帰る500キロをこなそうと思うとだいぶしんどい。

理詰めで正しいと書いた20kWhのバッテリーだと、大体100キロごとに充電がいる。

その充電時間が30分ではさすがに面倒過ぎるし、しかもそれが盆や正月の帰省ピークにでも当たれば、充電器の渋滞は絶望的になるだろう。
 さて、どうしたらいいか? 

従来の解決方法は、そのために普段は無駄でも大容量バッテリーを搭載することだった。本当に他のプランはないのだろうか?
 問題を整理しよう。

バッテリーの大容量化は車両価格の高騰、バッテリー生産の逼迫によるEVの生産台数の低下、重量増加によるエネルギーとスペースのロスを産む。

それを許容しないなら、混雑期の長距離走行を諦めなくてはならない。

これを諦められる人は、低容量バッテリーのEVを買えばいいセカンドカーだったらなおさらそれで十分だ。
 だが、それではEVの本格普及が目指せない。

マツダが東京モーターショーでお披露目した34.5kWhバッテリー搭載のEV、「MX-30」

ではどうしたら普及するのか? 筆者はひとつのガイドラインを考えた。

車両価格300万円、航続距離250キロ、充電時間10分。これを満たせれば、必ずEVは普及する。価格と航続距離のバランスを見ると、バッテリー容量35kWh程度あれば何とかなりそうだ。東京モーターショーに出品されたホンダマツダのEVがまさにそのくらいである。従来、車名別トップ売り上げを達成したクルマはほぼ250万円以下だった。

CASEの時代が到来して車両コストが20〜30万円上がっている今、さすがに250万円は難しいだろう。なので300万円と考える。プリウスの売れ筋であるSツーリングセレクションは278万円。まあいいところだと思う。

 航続距離の問題は、2時間運転したら休憩という推奨サイクルを考慮すれば、200キロごとの充電はリーズナブルな線だろう。航続距離が250キロなら多少の余裕を持って充電できる。問題は充電時間だ。

数台の待ちが発生した時、1台何分なら待てるかを考えると、充電時間は何としても10分程度に収めたい。30分充電が2、3台もいたらさすがに待てる人は少ない。

しかもそれが道中で4回も発生するなら、クルマで帰るのを諦めると思う。何時に到着するか分かったものではない。
 ではそのためにはどうするか? 充電性能を向上させるしかない。

充電性能充電器の性能とバッテリー制御の両方が求められる。

例えばテスラは今、バージョン3(V3)充電器の普及を目指しているが、この充電能力が250kWだ。

テスラ・モデル3ロングレンジ(75kWh)との組み合わせとはいえ、5分で最大75マイル(約120キロ)走行分の充電ができるとしている。

いろいろな要素が絡むので断定はできないが、35kWhのバッテリーで10分充電は不可能ではないように感じる。
 現状35kWhのバッテリーでは航続距離は200キロにしかならないが、これがあと50キロ走れるようになれば、見えてくる世界が明らかにある。



2020年01月21日

[池田直渡,ITmedia]

EVの普及を突き詰めると、充電時間が一番の問題で、バッテリーの詳細な充電規格を電力会社と自動車メーカーの間で策定しなくてはならない。これは充電状況とクルマ側の状態を相互通信しながら行うので当然のことだし、全ての自動車メーカーがその規格を利用できるオープン規格でなくてはならない。

ホンダが東京モーターショーに出品した2輪と4輪のEV

 スマホの広告などでよく見かける「80%充電まで◯分」という表記には、実は深い意味がある。バッテリーというのは、最初から最後まで同じペースでは充電できない。

完全にゼロから10%くらいまでの充電はものすごく時間がかかるし、80%からの残りの20%も同様に時間がかかる。

急速充電できるのは、多目に見積もっても間の70%くらいなのだ。その枠を外れると、通常充電になり時間をものすごく食う。なので、前編で提案したガイドラインを実現するには、この急速充電枠を、どうやって10分で充電できるようにするかだ。



*バッテリーの発熱との戦い

 問題は発熱の処理にある。急速充電の大敵は熱で、発熱を放置するとバッテリーが壊れてしまう。だから冷却が必要だ。

テスラはバッテリーを水冷にして冷却を行っている日本のメーカーに足りないのは、この急速充電時の冷却への対応だ。
 クルマが止まっている状態で冷却しなくてはならないので、ファンを使った強制空冷だけでは難しい

現行型プリウスPHVの走行用バッテリー。バッテリーの冷却は導風による強制冷却。EV用にはさらなる冷却能力が求められる。

なぜ水冷にしないのかトヨタの幹部に聞いたところ、電池の回りに水を使いたくないとのことだ。

安全を特に重視する日本のメーカーらしいともいえるが、冷却ができなければ急速充電の速度で負ける。発熱しない範囲でしか充電できないからだ

充電速度を落とすことで温度管理を行っていたのでは勝てるわけがない。
 しかし水を使わなくても冷却する方法はいくらでもある。例えばヒートポンプを使えばいい。平たく言えばエアコンだ。新たに搭載しなくても元々クルマに付いている。
 熱伝導の高い金属板でバッテリーを囲い、その金属板にパイプを回して、冷却を行う

パイプの中には冷媒が通っており、フロントグリル内に置かれたコンデンサーで放熱する。こうした冷媒を用いる方式だと外気温との温度差が作りやすいので、気温の高い環境でも、冷却水型よりも効率良く冷やせるし、レスポンスが良い分、温度管理が緻密にできるはずだ。
 実は緻密な温度管理というのは重要で、バッテリーの性能は温度依存性が高い。使用時も含めて、常時適温に制御しておけば、より高い能力を発揮できる

例えばテスラの場合、ナビの目的地に充電ポイントを指定した場合、充電開始時間を見越してあらかじめバッテリーを加温して、すぐに高速充電できるように環境を整えている。


*ライフサイクルアセスメントの時代

 マツダが東京モーターショーで打ち出した、ライフサイクルアセスメント(LCA)時代のEVの考え方がある。

従来走行時のみに注目してCO2排出量が比較されてきたが、ここへきて、欧州を発信源にLCAを訴求する声が増えている。

生産から利用、最終的な廃棄までの全行程を通してのCO2排出量を考えるべきだという思想だ。

LCAを考慮した場合、バッテリーの容量は35kWhあたりがベストであるとマツダは結論づけた。
 このままいくと、大容量バッテリーを搭載するEVにとっては、このLCAがなかなか厳しいことになりそうなのだ。

バッテリーというのは生産も廃棄もCO2負荷が高く、LCAで見るとむしろハイブリッド(HV)の方が負荷が低いという試算すらある。

トレンドの風向きは徐々に変わりつつある。ただこのあたりの計算根拠は必ずしも明確とは限らない。

筆者は昨年九州大学で行われたLCAの学会発表を公聴してきたが、現時点では、バッテリーの生産負荷に関する基礎的なデータが極めて曖昧にしか出ないものだということが分かった。

LCAの考え方。国立環境研究所 循環・廃棄物のまめ知識「ライフサイクルアセスメント(LCA)」より

 数値の根拠となるバッテリーの素材には、今ではもう使われない古い形式のものが含まれているなど、発表者がいろいろと言い訳しないとならない状況だったのだ。

しかし、全体としてバッテリーの生産や廃棄についてのCO2負荷が加算されること自体はほぼ確定的だ。いままでゼロエミッションの名の元に、一切CO2を出さないというフィクションが採用されてきたので、LCAによってそれが是正されるのは正しい。

その是正が足りないか行き過ぎになるかは、今のところまだ分からない。しかし、LCAへの注目と共に、基礎的なCO2負荷データの収集は今後急速に進み、やがてもっと明瞭な根拠で負荷が計算できるようになるだろう。となると、おそらく極端な大容量バッテリーに対する批判は避けられなくなると考えられ、やはり中容量バッテリーと充電能力向上の組み合わせにしか出口はなくなる。


*誰がインフラコストを負担するか?

 さて、前編で書いた通り、EVの正しい利用法は、自宅の充電設備で夜間に時間を掛けて通常充電し、航続距離の範囲内で使うことだ。急速充電はバッテリーを傷めるし、現在の急速充電の料金体系は自宅での通常充電とのコスト差がありすぎる。つまり出先での充電(経路充電)はできる限り回避する使い方をするのが正しい。
 ならば、経路充電の利用者は限られてくる。インフラとして重要であるにもかかわらず、設備投資のコストを回収するのは非常に難しい。仮に安全の問題が解決したとしても、ガソリンスタンドに充電器を置くようなやり方では利益面からみて事業が継続できない。

テスラが独自に設置しているスーパーチャージャーは、テスラ車でしか利用できない(写真は六本木ヒルズ内のスーパーチャージャー)

 テスラでは自社で充電器を設置運営する方法を採っているが、これも悩ましい。

実質的にテスラが設置・運用赤字を飲み込んで自社製品の普及のために拡充する充電器を、他社のクルマにタダ乗りされては困る。だからテスラの充電器は他社のクルマには使えない。
 つまりこの方式だと、メーカーの数だけ充電アダプターや規格が異なる充電器をバラバラに普及させなくてはならない。しかももしメーカーが倒産したりEVから撤退したりするようなことになれば、充電設備がなくなるかもしれない。

倒産や撤退でこそないが、一例として日産は19年末、「急速充電使い放題」のプランを廃止した。ユーザーはこうした状況が起きても、言いなりになるしかない。
 充電インフラの設置・普及と運営を誰がやればいいのか? そこが解決しない限り、EVは普及しないだろう。


*自宅充電と経路充電のセット売り

 何度か繰り返し述べてきたとおり、EVの充電は自宅で行うことが基本だ。

ところが国内の電力会社の契約は、通常家庭用の最大契約が60Aである。

要するに6kWだから、本来EVの電源としては頼りない。一晩中走って遠路はるばる帰ってきて、別の家人がそのクルマを使って買い物に行きたいというようなケースでは、ルーティンで組まれた夜間の通常速度充電ではどうしようもない。

そういう時は自宅でもオンデマンドでそこそこの急速充電を行いたい。

 このあたりは電力会社の料金プランに問題がある

夜間電力料金を使いたければ、電力計にタイマーを仕込まれて、昼間は送電を切られる。

タイマーを回避しようとすれば、夜間充電するのにも関わらず昼間の料金になってしまう

いまやスマートメーターが普及しているのだから、使った時間ごとに別料金で合算請求することは簡単なはずだ。
 そもそも、戸建て住宅の家庭用電力契約で、数台のエアコンや電子レンジ級の家電を稼働させつつ、EVに充電を行うのはそこそこ難しい。

クルマに電気のほとんどを持っていかれてしまうのだ。つまり本当はEVの充電は別契約の動力電源にすべきである。

現在東京電力ではEV向けの専用プランは用意しておらず、eチャージポイントという車種限定のポイントプログラムを用意しているだけだ。ちなみにテスラは対象車種に含まれていない

 東日本大震災以来、家電メーカーは省電力家電の開発に全力を挙げてきたし、家庭でも家電の買い換えは進んでいる。そのため各電力会社では電力販売の売り上げが落ちてきている。

原発が稼働しなくても何とかなっているのは、こういうときに一丸になりやすい国民性によるところは大きいだろう。
 しかし電力会社は困る。このへんでいろいろと言いたい人がいるだろうが、電力会社の善悪の話は一旦おいて、EV充電インフラを電力会社が負担したらどうなるかの話に集中したい。
 もし、EV用の自宅充電を別契約にして月額3000円とか5000円にしたらどうなるだろう?

スマホの通信のような段階契約でもいい。やがてEVが主力の時代になった時、日本全国の戸建ての全てが、EV用動力契約を結んで月額数千円を払ってくれるのだとすれば、巨大な原資ができるというビジョンだ。

この契約を結べば、経路充電用の高速充電もセットで使用可能にすればいい。揮発油税に変わる電力課税の問題も解決しやすいだろう。そうやって全国に高速充電器を普及させれば、これまで挙げてきた全ての問題が解決する

年間1万キロ走行で燃費が14キロ/リッターのクルマで、ガソリンの単価が150円だと仮定すれば、月額8928円の燃料費が掛かっている計算になる。これが5000円とか3000円に収まるわけだ。ユーザーにもちゃんとメリットがある。
 トヨタあたりなら、これを得意のサブスクリプションサービス「KINTO」と組み合わせて、メインテナンス料込みの車両利用に、電力と保険まで全部付けて月額5万円くらいのプランを作ってくるかもしれない。


*残された課題

 さて改めて振り返れば、このプランで重要なポイントは、「車両価格300万円、航続距離250キロ、充電時間10分」が実現可能かどうかだ。
車両価格は現在350〜400万円までは下がってきている。あと15%頑張れば何とかなる。

航続距離は35kWh級のバッテリーで現状約200キロだから、こちらもあと15%くらい。このあたりはバッテリーのどこまでを使うものとして航続距離が発表されているかにもよる。本当に100%使い切って200キロだと、15%アップでは済まない。
 充電時間が一番の問題で、バッテリーの詳細な充電規格を電力会社と自動車メーカーの間で策定しなくてはならない。

これは充電状況とクルマ側の状態を相互通信しながら行うので当然のことだし、全ての自動車メーカーがその規格を利用できるオープン規格でなくてはならない。
 さて、そんなことが可能なのだろうか?

この問題は引き続き取材を行っていきたい。

筆者が勝手に取材対象だと考えているのは、EV C.A.Spiritと、e-Mobility Powerの2社だ。
 EV.CASはトヨタ、マツダ、デンソーが出資するEVの標準規格策定を目的とする会社で、スバル、スズキ、ダイハツ、日野、いすゞ、ヤマハも参加している。

彼らの考えるEVの標準規格は今回筆者が書いた絵図とどのくらい違うのかを確認したい。

e-Mobility Powerは、東京電力ホールディングス傘下の電動車充電サービスを担う会社だ。彼らの事業プランと、筆者の考え方も比べてみたい。
 この2社が協力体制を取れれば、かなり状況は改善するのではないかと思っている。

ということでこの記事は読者向けであると共に、2社に向けたプレゼンでもある。

この記事を読んで「そんなこともうやってます」なのか、「なるほど面白い」なのか、「何をとんちんかんな」なのか、場合によっては「それ先方と話し合いたいから仲介してくれませんか?」なのかは分からない。
 いや、そもそも、全く違う会社から反応があるならそれも良しである。この件について面白い話をしてくれる会社なら筆者は取材に行くつもりだ。
本当に頑張っている人たちを知りもせずに「化石賞」を贈った国連の連中もぶっ飛ばしてやりたいし、それを皮肉にはやし立てることしかしなかった日本の大手メディアも不愉快なのだ。現場で頑張っている名も無い多くの日本人の反論をくみ上げる仕事を、筆者はやりたいのだ。


☞ この記事に対するコメントの中から、以下に本質を突いたモノを掲載しました。

 35kWh 10分充電だと200kWhの電源が必要になる。

高速道路のSAで10台分の充電器を並べると2,000kWhとなり簡易変電所が必要になるが電源インフラを考慮しているのか。また冬は充電効率は70%程度に低下し、またヒーターで電力を大幅に食い航続距離が70%程度に低下する。




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