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ヤマハ発動機 社長「EVが広がることはリスクが大きい」

2輪の世界大手は変革期をどう乗り切るのか 

中野 大樹 : 東洋経済 記者
2020年02月09日


2019年に開催された東京モーターショーで、ヤマハ発動機が展示した転ばないバイクのコンセプトモデル 

100年に1度の変革期が訪れると声高に叫ばれ、各社が対応に追われる自動車業界。

競争の軸がCASEコネクテッド・自動運転・シェアとサービス・電動化)に移り、各社とも次世代車の開発が活発になっている。

当然、自動車メーカーのみならず、自動車に関わる関連業界も影響は避けられない。
楽器メーカーから始まり、2輪車に参入したヤマハ発動機。2輪車メーカーとして後発でありながら、確固たる地位を築いてきた同社は、エンジン技術を生かし、ボートを生産するほか、一部のレクサスにエンジンを供給している。

近年はMaaSサービスとしてのモビリティー)にも力を入れる。

100年に1度と言われるこの変革期をどう乗り切るのか。日髙祥博社長を直撃した。


日髙祥博(ひだか よしひろ)/

1963年生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、1987年にヤマハ発動機入社。

2010年にアメリカ子会社のバイスプレジデント、2017年財務本部長などを経て、2018年1月から社長(記者撮影)


*人が移動するニーズはなくならない

――ヤマハ発動機は、社名にもあるようにエンジンの会社です。エンジンがいらない電気自動車(EV)が普及すると、大きな打撃を受けるのでは。

EVが広がることは、われわれにとってリスクとしても大きい。

もともとエンジンの会社である以上、モーターに移行してしまうと当社の強みが生かせなくなってしまう。

とはいえ、人が移動する、というニーズ自体はなくならない。

できればモーターを内製化したい。ただ作るだけではなく、競争力がある商品でないと勝てない。移動手段の提供とパワートレーンの2軸で生き残っていきたい。


――とはいえ、バイクの電動化という点においてはヤマハ発動機をはじめとした日本勢は後れをとっています。

先進国はニーズが多様化している。大型や中型の2輪車に乗る人の多くは、ステータスや走る楽しみを求めている。

そういったバイクのユーザーは運転が楽しいので、シェアや電動化には興味がないだろう。
一方で、若い人たちの一部は合理的になってきていて、同じような価値観ではない。その中で、移動手段に求めるものが変わってきている。

そういった人の中には自動運転やEVがいいという人もいるだろう。私たちは世界で年間500万台の2輪車を売っている。その中でしっかりニーズを見ていく必要がある。
しかし、電動バイクについてはまだ、エネルギー密度の問題もあり、当社の製品であるE-Vinoだと29km走るごとに充電が必要になる。

加えて、コストも高い。これでは合理的に移動するというニーズには合わない。


――EVのバイクの普及は難しいと言いますが、台湾などではバッテリー交換式の電動2輪車が普及しています。

たしかに台湾では電動バイクが普及しているが、純粋なビジネスとしては成立していない。

バッテリー交換式の場合、膨大な数のステーションの設置が必要となる。実際、台湾では政府が介入してステーションを設置している。
そのうえ、車体価格も補助金で引き下げられている。普通に売れば40万円を超えるものに1台15万円近い補助金が出て、やっと普通のスクーターと同じか少し安いくらい。

補助金ありきで運用されているのが実態といえる。
いずれは普及すると考えているからこそ、用意はしている。だが時間軸がまったく読めない。

当社としては2050年までにはCO2の排出量を半分にしたいという目標はあるものの、EVが普及するためにはユーザー側にとってもメリットがないといけない。

われわれはバッテリー交換式のEVバイクと急速充電式のものをどちらも開発を進めている。


――4輪の自動車ではテスラなど高級車種からEVが普及しています。バッテリー価格も高級帯なら価格に転嫁しやすいのではないでしょうか。

たしかに、EVでやったほうが面白いかもねという領域はある。だが、市場性がわからない。値段も高くなってしまう。

それにバイクの場合には重量が重くなりすぎてもいけない。ただバッテリーをたくさん積んだだけではバイクらしさもなくなってしまう。

 

*地方でMaaSの可能性を見いだす
――近年は、グリーンスローモビリティーと呼ばれる低速のEV車両を、自動運転や遠隔操作することで、地域の足として活用する取り組みに力を入れています。

いま、日本各地で町のバスが消えている。自治体が負担して存続を図っても、高齢化が進み運転手すら確保できない。

そこで、ゴルフカートをベースにしたものを使用している。ゴルフ場内はすでに自動運転が実現していることもあり、不可能ではないと思った。
使っている技術は電磁誘導といって、誘導線を引くことで上を走らせる、工場やゴルフ場などではすでに使われているもの。

都会部では低速で走ると邪魔になる。これでは社会実装どころか社会迷惑になってしまう。だが、足に困っている地方では車通りも多くはなくそうではない。
加えて、そういった地域では速さではなく、そもそも移動手段があることが重要だ。

そこで、ゆっくりでもいいから低コストで移動手段を確保する方法として活用している。
一方で実験をすることで限界も見えてきた。

駐車車両などがある状況には対応できず、結局運転手が必要になってしまう。これではコスト削減にはならない

専用レーンが用意できる環境ならいいのだが、多くの場合にはそうではない。できることもあるが、社会実装にはもう少し時間がかかりそうだ。

 

*自動運転はいろいろな使い道がある
――自動運転は4輪メーカーも苦戦しています。

こういう技術開発はどんどんやっていけばいい。実用化できれば、ほかの分野でも生かせるかもしれない。

転用する分には空や海はもっと簡単だ。農業用のドローンで使えるかもしれないし、ボートでも需要がありそうだ。

例えば、釣り船などで位置が勝手に維持できれば、船長も釣りを楽しめるかもしれない。いろいろな使い道がある。

 

――今後は、移動サービスを積極的に提供していくということでしょうか。

そうではない。ハードと技術は提供するが、運営主体は別に必要だ。

ただし、売り切りにしてしまうと運営側の負担が大きくなってしまうので、リース方式やメンテナンスや保険を含めたサブスクリプションなどでサポートしていく。
さらに、個人所有用の車両としてもグリーンスローモビリティーが販売できると考えている。

すでにアメリカでは事例もある。低速なので、高齢者が運転しても危険が小さい

軽自動車でも優に100万円を超えるが、ゴルフカートベースのものならなら約40万円でできる。日本でもそうした地域が出てくるのではないかと思っている。




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