おがわの音♪ 第824版の配信★


日本製造業の逆転シナリオは“脱自前主義”、「ものづくり白書」の提案 ( 記事抜粋 )

ものづくり白書2018を読み解く

2018年5月に公開された「平成29年度 ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2018年版ものづくり白書)を読み解く!
*主要課題の解決を経営主導で実施していくための対応策とは

 

現場の生産性向上の実現における「経営力」の重要性

   近年、日本の製造業は「人材不足の深刻化」と、デジタル技術の進展に伴う「第4次産業革命」という2つの大きな環境の変化に直面している。人手不足が深刻化する一方で、デジタル革新によりロボットやIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)など先進的ツールの利活用が重要になっている。

図1:環境変化とものづくり現場が目指す方向性  出典:2018年版ものづくり白書

 

 従来、日本の強みとされてきた「現場」を、今後もどのようにして生産性が高く強じんなものとできるかどうかは経営の中心的な課題となっている。変革の規模が大きくなる中で、現場任せにせず、経営陣が主導して課題解決にあたる必要が出てきており、まさに「経営力」が問われている状況になっているのだ。
 人手不足の中で生産性を高めるためには、「デジタルツールなどの利活用」がカギとなる。そうしたツールを使いこなして現場作業の自動化を図りつつ、より付加価値の高い業務に重点化できる職場をつくるべく「人材育成」も今後求められる。
 また、強い現場力の維持と向上の観点からは、災害をはじめとする緊急事態が発生した際に損害を最小限に抑えるための備えも重要な視点である。さらに多様な働き手の潜在能力を引き出す「働き方改革」などの取り組みが重要である。


人材確保の現状と対策

  経済産業省は2017年12月、人材確保の状況に関するアンケート調査を実施した。その結果によると、確保するのが困難な人材として「技能人材」が最も多く挙げられた。ものづくり白書では、特に中小企業ほど確保に苦労していると指摘する。その他、一般機械業では「設計・デザイン人材」、化学工業で「研究開発人材」の確保が他の業種に比べて課題となっている点が特徴的であるという。

 ものづくりの現場では人手不足が深刻な課題となる一方、デジタル技術革新に伴う第4次産業革命が進む中、ロボットやIoT、AIなどの先進的ツールの利活用への期待が高まっている。こうした大きな環境変化が見られる中、多くの企業では、日本の強みとされてきた「カイゼン」や「すり合わせ」にも通じる力が「現場力」として捉えられている。環境の変化と併せて、現場力についても変化を踏まえた再構築が必要となっている。
 ものづくり白書では「今後は専門性の高い製造データを取捨選択した上で資産化する能力や職人技をデジタルデータとして資産化する能力などが新たに重要となると考えられる」と説明する。そうした能力が発揮できる「新たな現場力を再構築すること」が求められると主張している。

現場力と経営力の両輪が必要

 日本の製造業が持つ課題を解決することは容易ではないが、今後の展望を悲観的に捉えるべきではない。良質な現場を持つ日本のものづくり企業にとっては逆に大きなチャンスともなり得る。データが経営資産として極めて重要となる中、日本が持つ質の高い現場データは、今後、貴重な資産となり、経営戦略上の重要な武器となることが期待できるからだ。

 その際、鍵を握るのはやはり経営力だ。現場力を再構築するには経営力の発揮が不可欠となる。現場力の再構築を現場に丸投げするのではなく、経営層主導によって現場と緊密な連携の下で進めることが求められる。
 デジタル革新の時代において、デジタル技術の利活用による効果の最大化を図るには、工程ごとや工場内だけの取り組みではなく、全体を俯瞰した一貫した仕組みとして全体最適を目指した取り組みが重要となる。その実現には会社全体、バリューチェーン全体を真に俯瞰できる、経営層による経営力の発揮が不可欠となる。そこ加えて「現場で働く作業者の高い能力を組み合わせることが、他国にはまねできない強い現場力の再構築につながるのではないだろうか」と、ものづくり白書では提案する。
 そこでも効果を発揮するのが、デジタルツールだ。センサーやタブレットなどで各工程のデータを収集、分析することで、製造ラインの「停止」の原因究明、故障予知、繁忙期の人員最適配置などに活用でき、生産性向上や人手不足対策につなげられる。そうした取り組みの実施を決めて、推進するのも経営者の重要な仕事である。

デジタルツールの具体的な活用例も紹介

 ものづくり白書では、生産性向上を実現する現場力の再構築に向け、デジタルツールの果たす役割の重要性について具体的な事例を交えて論じている。         特に、繰り返し単純作業、重労働、危険な場所での作業、データ処理など機械の方がうまく行える作業などに関し、ロボットやIoT、AIなどの先進ツールの積極的な利活用を通じた自動化や省人化が期待される。

  ただし、単なる人による作業の自動化などを図るのではなく、業務全体の在り方も必要に応じて見直すなど「人の潜在能力とツール活用の相乗効果」を図れるように業務の全体最適化を目指すことも重要だ。その実現のためには、経営層がデジタル化の効用や進め方に関する一定のリテラシーを有することが不可欠となる。デジタル担当責任者が経営に参加するなど組織体制づくりも鍵を握る。 

 ものづくり白書では「生産性の高い強い現場力を実現するにはデジタルツールなどの利活用は不可欠であり、その取り組みは多くの職場で待ったなしだ」と強調している。 

「働き方改革」を通じた生産性向上と人手不足対策の推進

  旧来の製造業の産業構造が、異業種のさまざまなプレイヤーの新規参入などによって大きく変化している中、既存の枠を超えた知識の獲得や融合が必要となっている。その中で、全てを自前で完結する「自前主義」は限界を迎えつつある。

  このような大きな変化に対し、外部人材を含めたリソースをうまく活用することが重要であり、働く人のニーズに応じて「多様で柔軟な働き方」を選択肢として選べるようにすることが求められている。従来の「日本型雇用システム」から、より柔軟性が高く、多種多様な人の能力を最大限発揮できる職場環境の整備や雇用システムへの移行が期待される。

 

日本の製造業における品質管理問題の顕在化

 日本の製造業は「TQC(Total Quality Control)」に代表される徹底したカイゼンや擦り合わせ活動を通じて、顧客ニーズに即した高品質な製品を追求してきた。このような現場の努力により「日本の製品は非常に高品質である」という支持や評価を受けてきた。引き続き、多くの日本企業の製品は、世界で高い信頼を得ているが、現場を支える技能人材などの人手不足や第4次産業革命の進展などによって、日本製造業を取り巻く環境変化が顕在化している。その中で、品質管理を含めたものづくりの在り方そのものも変化しつつある。 

 2017年10月以降、多くの製造業が現場力の強みとして認識している「品質管理」の分野において、製品検査データの書き換えなどの不正事案が複数発覚した。供給先も含めた当事者における安全性検証が最優先課題であり、早急な対応が求められる。その上で、今回の一連の事案を踏まえ、産業界は、品質保証体制の強化が、企業の競争力に直結する経営問題であることを強く認識する必要がある※) 

※)関連記事:2019年も検査不正は続くのか――モノづくりのプライドを調査報告書から学べ

図3:製造業の品質保証体制の強化に向けて(2017年12月22日公表)

                出典:2018年版ものづくり白書

 

図4:Connected Industriesとは       出典:2018年版ものづくり白書

 こうした問題意識の下、経済産業省は、品質保証体制の強化に向けた産業界による具体的なアクションを多面的に後押しすべく、2017年12月に「製造業の品質保証体制の強化に向けて」を公表した。品質保証体制を強化するには、デジタル技術の積極的な導入や品質データの共有など「ウソのつけない仕組み」を構築することが重要だ。2017年10月以降に発覚した一連の事案も未然に防止できたかもしれない。具体的には、例えば、ロボット、IoT、AIなどを活用した、検査結果のデータ化の見える化などを含めた検査工程の自動化が対応策の1つとして考えられる。

 今回の事案により、製造業の経営にとって品質問題がどれだけクリティカルであるか、という点は明確になったと思われる。形や道具だけをそろえれば済むといったことではなく、企業がどれだけ腰を据えて、信頼性の高い品質保証体制の構築に向けて取り組むかが鍵を握る。

  品質管理の重要性を経営層が的確なガバナンスの下で位置付けるとともに、検査工程の自動化やトレーサビリティーシステムの積極的活用、品質データ共有などの取り組みも含めて、組織として品質が担保される仕組みを経営者主導で構築することが求められる。一連の不適切な事案が繰り返されることのないよう、産業界の経営トップのリーダーシップが期待される。






メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。