日本のモノづくり ~ワイヤハーネスでの生産革新の事例から


「現場」「完璧」「集団」主義が示す日本のモノづくり力

住友電気工業 副社長 生産技術本部長 (自動車事業本部長) 西田光男氏

現場主義、完璧主義、集団主義の強み
 西田氏によるとワイヤハーネス(自動車用組み電線)事業のグローバル展開において、強い現場をベースとした「日本のモノづくり」力が大きな役割を果しているという。「日本のモノづくりの特徴は、大きく分けて、現地・現物に代表される『現場主義』、いかなる状況でも手を抜かない『完璧主義』、チームプレーを大事にする『集団主義』である。また、これらの主義に基づく具体的な手段として『自働化(トヨタ生産方式の主要コンセプト)』『TQC』『改善』などがある」と西田氏は語る。
 住友電気工業の主力製品であるワイヤハーネスは、自動車の車内配線などに用いられる製品だ。小型車1台当たりでも自動車の中には約1000回路が存在しこれらを結ぶ必要がある。電動化や情報化などが進む中で、これらの配線は増える一方である。これらの配線の種類としては、情報系と電源系が約半分を占めている。
 自動車内で使われる数が増えているにもかかわらず、ワイヤハーネスの製造は自動化が進んでいないケーブルの引き回しなどはロボットなどでもまだまだ難しく、人手に頼らざるを得ない状況がある。そのため、まだ労働集約型の製造方法を取っている。住友電気工業の生産拠点は世界32カ国で100社、120工場があり、30万人が製造に携わっているという。
 製造現場で「モノをつくる」ということは「日本人にとっての世界に誇るものだ」と西田氏は語る。そのベースには「現場主義」「完璧主義」「集団主義」がある。
 西田氏は「現場主義は事実を体験するものであり、強い現場の原点となる」とし、「強い現場」を「主体性をもって『確かなる実行』ができる現場」と定義した。自発的にルールを順守し、維持と改善を行い、それらをクイックレスポンス(速く動く)により実現していくことが重要だとする。強い現場が必要な理由は「ユーザーに支持されることがメーカーとしての原点でありその信頼を勝ち取れること」「強い現場でないと人材が育たないこと」などを挙げている。
 完璧主義については「手を抜かない文化」(西田氏)と定義する。「合理的な考えである『QC(品質管理)』よりも手を抜かずに品質第一を目指す『ZD(Zero Defects)運動』を重要視する日本独特の文化だ」と西田氏は語る。
 集団主義は「最も日本的なチームプレーを重視する考えだ」(西田氏)。「『乏しきを憂えず、等しからずを憂う』という言葉に表されるように、社員も大事なステークホルダーと見ることが大切で、日常的にさまざまなことを他の社員に『教える』という活動も、集団主義の根源となる」と西田氏は考えを述べている。
「TQC」への取り組み
 完璧主義と集団主義が具体的な形となったのが「TQC(トータルクオリティーコントロール)」だ。その中には「全社運動」から始まる、声出し確認やQCサークル活動など日本独特の取り組みがある。住友電気工業でも2002年から、工場内をピカピカに清掃し、良い製品を作り、人材を育成するという「ピカピカ運動」を世界の生産拠点で実施している。
 また、トヨタ自動車の提唱するコンセプトである「自働化」を奨励。「現場を大事にし、完璧主義を目指す1つの具体的な活動だ」と西田氏は語る。異常が起これば設備を停止し、その段階で原因を徹底的に追求し、その繰り返しにより、不良ゼロと再発防止を目指す。チャレンジ、コミュニケーション、コミットメントの3つの指標を決め、「不良ゼロを10日間連続で実現すれば、そのラインを不良ゼロラインに認定する」ということを目指して挑戦を続けている。現在までに全世界で3200ラインが1度以上はこの目標を達成したという。
 また「改善」も世界で通じる日本語であり、そのポイントを西田氏は「成果の大きさではなく、より多くの事実を把握できるかだ」とする。困難な状況に陥ることで知恵や力が発揮される。また、状況を共有し見える化できることで周りの人が助けてくれることもあるという。
 西田氏は「改善は無限であり、世界に誇る日本の文化である」と位置付けている。一方で「日本は、改善は得意だが、革新はできない」といわれることがあるが、西田氏は「改善無くして革新はできない」と断言。「今そこにある事実をつかんで改善に結び付けることができるのが強い現場である」とし、強い現場に基づくモノづくりこそ、日本が世界に誇れる文化である」と結論付けている。
海外比率98%のワイヤハーネス生産
 続けて同社のワイヤハーネス製造での事例を紹介。同製品の生産は現在98%が海外で行っており、主に人件費の安い地域で生産している。これは、日本の生産拠点における技術開発、スキル指導、リスク対策などのマザー機能が果たせないためだ。「日本での生産比率を引き上げたい考えもあるが、これにはコスト対策を行う必要がある」と西田氏は語る。
 今後、自働化と共に自動車メーカーとの協業により生産形態の革新(必要な時に必要な量だけ作ることによるムダの削減)なども検討するなど、コスト削減に取り組む方針だ。このうち自働化については既に進行している。現状は、加工と検査の工程は自働化が進んでおり「今後は組み立て工程の自働化を進めていく」(西田氏)としている。


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