日本屈指のエコタウンへ 間伐材でエネルギーの地産地消


朝日新聞デジタル

2018年10月20日

 今夏は深刻な暑さだった。真夏日なんて当然で、最高気温35度も珍しくない。

エアコンがなければもう生きていけない。そんな空気が太陽にあぶられた列島を覆うなか、岩手県紫波町(しわちょう)のオガール地区だけは違った。町中の多くの人が「エアコン? たしか1回か、2回はつけたっけな?」と涼しい顔で言う。どんな秘密があるのか。訪ねた。

 「オガール」という聞き慣れない地区の名前は、育つを意味する地元の方言「おがる」と、フランス語で駅を意味する「ガール」を合わせた造語だ。
 長く塩漬け状態で、空き地が広がっていたJR紫波中央駅前の東京ドーム約2個分の町有地に、ここ6年ほどで次々と町の新庁舎や図書館、民営のホテルや産直販売所、カフェ、アウトドアショップなどの、エコタウンができた。地価は6年連続で上昇し、人口約3万3千人の紫波町に年間700万人が訪れるまでに、おがっている。
 全国の自治体などから年間290回の視察を受け入れる町の大きな特徴が、自然エネルギーを生かした循環型の社会を志向しているところだ。
 まずは日本初のバレーボール専用アリーナやホテルを備えた複合施設「オガールベース」へ。

中学生がバレーボールの練習を始めた。「今年の夏は暑かったでしょうね」と聞くと、ヘッドコーチの綱嶋久子さん(40)は「暑かったですね。外は」と涼しげに笑った。30度を超える猛暑が続いたはずですよね? 「中は涼しいんです。エアコンをつけたのは2回くらいでした」
 木造の建物には断熱材が天井にも壁にも敷き詰められ、断熱性能が高い。「冬にマイナス15度まで冷え込んだときも、暖房なしで室温は8度ありました。人が集まるとすぐ室温も上がります」という。冷暖房設備の良しあしではなく、建物そのものの性能が大事だとわかるエピソードだ。

 ■地下に熱供給管、全長3・5キロにも
 エネルギーの地産地消を進めるオガールを象徴する建物が中心部にあった。民間の紫波グリーンエネルギーが2014年に開設した「エネルギーステーション」。同社の中尾敏夫さん(36)の後について内部に入ると、ボイラーに火がついていた。熱源は間伐材などを利用した町産の木質チップ。

化石燃料とは違い、木は成長過程で二酸化炭素を吸収するので、環境への負荷が少ない「カーボンニュートラル」とされる。

熱湯が地下に3・5キロにわたって敷設された熱供給管を通じてアリーナやホテル、住宅地などを巡り、暖房や給湯などをまかなう。
 地域の豊かな森林資源を地域で消費し、地域内で経済が回る日本でも珍しいバイオマスの地域熱供給システムだった。

中尾さんは「ガスや電気とほぼ変わらない価格で利用できます」と話す。冷水をつくる吸収式冷凍機も併設し、町庁舎やホテルの冷房にも使われている。

 ■独自のエコ基準、厳しさ欧州なみ
 このシステムを利用したエコハウスが立ち並ぶのが「オガールタウン」。町がディベロッパーとなり、すでに57区画のうち45区が契約済になった。

家を建てるには、構造材に町産の木材を80%以上使う▽年間暖房エネルギー消費量は床面積1平方メートルあたり48キロワット時以下とする――などの「紫波型エコハウス基準」を満たす必要がある。基準づくりに携わった建築家の竹内昌義・東北芸術工科大学教授(55)は「欧州に匹敵する基準に挑戦した。エネ消費量は、20年に義務化予定の省エネ基準の半分ほどですみます」と言う。

竹内さんらが設計した「紫波型エコハウスサポートセンター」は宿泊体験もできる。屋根に厚さ30センチ、壁に20センチのグラスウールの断熱材を使い、熱損失が大きい開口部は3層ガラスの木製や樹脂製サッシだった。

今年4月にこのエリアに住み始めた吉田めぐみさん(34)は「暖房をつけると数分で家中が暖かくなることに驚きました」。
 最後に役場庁舎へ。驚いたのはペアガラスのサッシの内側にさらに、ペアガラスの窓があったこと。

つまり外気とは4重のガラスで隔てられていることになる。2級建築士の資格も持つ町地域開発室の佐々木琢磨さん(35)は「トリプルサッシは高価なので難しい。でもペアガラスだけでは性能が物足りない。その結果が内窓でした」。
 施工は地元の建設会社。経済もエネルギーも域内で循環させる仕組みを体現した。官民連携のまちづくりで町側の推進役の一人、企画課の鎌田千市主幹(48)は「オガールは住民や事業者の挑戦の場。地域資源を生かし、循環型まちづくりの取り組みを進めることが、個性的に成長できる地域づくりにつながった」と話す。(斎藤健一郎)


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コメント: 1
  • #1

    近藤 *OGAWA代理投稿 (火曜日, 13 11月 2018 18:17)

    娘の原付バイクのバッテリーを交換したので、性能確認のため、自宅ー柳谷観音―本山寺ー神峯山寺ー高槻/亀岡街道ー善峰寺ー自宅で走ってきました。
    所属しているボラティア団体から、台風21号による西山の被害は甚大、東海自然歩道、天王山ハイキングコース、西山古道は全滅との情報があり、被害状況を確認も目的の一つである。
    柳谷観音にある団体の作業所は屋根が飛んでいるが、森林被害は軽微。本山寺ー神峯山寺のハイキングコースは被害が甚大。高槻/亀岡街道は目も当てらない被害。倒れた木々をどう処理するのか。
    一つのアイデアは、この臨時号にも紹介されているチップにして活用することだろう。まずは燃料として使おう。当方が小さい時、山に薪を取りに行った記憶があり、製材所のおがくずを燃料として使う釜戸もあった。チップにしてしまえば、チップを燃料と使えるカマは簡単に
    作れる。防災対策として備蓄燃料として使える。
    米国では、ブランコやシーソー等の遊具のクッションとしてチップが使われていた。倒れている木のほとんどが杉なので、抗菌性があり、腐敗もしにくい。間伐材のように山に放置されると、豪雨のとき、凶器になる可能性の対応にもなる。ただ、問題は誰が金をだすのか。ボランティアという名のもとに、一般市民を無償で使うことはやめてほしい。