流用設計の死角、「コア技術」伝承の危機


 コア技術」と聞いて、何を思い浮かべますか?

 「御社のコア技術はなんですか?」と問われて、すぐに答えられる人はどのくらいいるでしょうか。

 本来製造業であれば、基本機能を実現させるためのコアな技術があるからこそ、競合他社と競争することができます。

加えて、差異化を図るためにも、新たな付加価値となる技術が必要です。

その新しい技術がまた「コア技術」となり、その会社特有の技術に認定されていくのです。

時代は流れていますから、付加価値だと思っていた機能が今や当たり前の機能(基本機能)になってしまった──というようなことはよくあることでしょう。

 しかし、基本機能を実現するための技術内容は会社によって異なります(もちろん、同様の技術もあるでしょう)。

その異なる部分こそが大変重要であり、その企業になくてはならない技術、すなわち「コア技術」なのです。

 今の時代の設計は、流用設計が基本です。

まず、流用元を検討し、そこから新規設計部分や新規組み合わせ部分などを検討します。

しかし、流用元がどのような機能を保有しているか、また、それを実現するために何の技術が使用されているか、などの検討は全くしていません。

設計者は自社のコア技術をよく知らずに使用しているのです。

 その上、コア技術がどれくらいの付加価値を生み出すのかも全く理解していません。

とにかく、顧客に言われた納期に間に合わせ、コストを少しでも低く、高い品質を持つ製品を必死になって開発しているのです。

 当然ですが、コア技術が見えるようになっていない状態で、設計者に「理解しろ!」と言っても無理があります。

さらに言えば、コア技術は大抵の場合、個人が持っていることが多いのではないでしょうか。

 では、ここで考えてみてください。

コア技術を持っている人が退職したらどうなるでしょうか? 残るのは技術資料と図面、製品のみです。

ここからコア技術を抽出しようと思っても、他社製品のコア技術を抽出するのと同じく、非常に困難です。

そもそも技術を抽出しようにも多くの時間がかかってしまいます。

 そうしたことにならないように、本来は自社が保有しているコア技術が何かというのを「見える化」する必要があります。

  見える化し、体系化して、常にその技術がすぐに使用できる状態にしておかなければなりません。

コア技術の体系化---「見える化」すべき項目

 コア技術の体系化の部分を少し紹介しましょう。

 各システムやユニットにおいて、どのようなコア技術の項目があるかというマトリックス図を作成します。

コア技術項目は、例えば構造技術。「機能を実現するために必要な、他社には真似できない特別な構造内容」のことです。構造技術のような項目を定義し、製品ごとにコア技術を抽出していきます。

コア技術を抽出したら、次は詳細な技術内容を明確にします。項目だけを抽出しても、見える化にはなっていません

詳細な技術内容を明確にし、「誰の目にも見える」、「誰にでも分かる技術資料が必要なのです。

1]部品名

2]新技術の項目

3]新技術の内容

4]開発時点で検討した内容

5]新技術を活用した効果

 特に、[4]の開発時点で検討した内容は、開発時に評価した内容や検討した内容(失敗に終わった内容も含む)を

ノウハウとして蓄積するために記載することが必要です。新しい技術というのはさまざまな失敗から生まれるものです。

その失敗をノウハウに変換しなければなりません。

 皆さん、いかがですか。これからの時代は「個人のノウハウに頼る」のではなく、「会社にノウハウを蓄積する」ということが求められます。

コア技術を持っている人が会社からいなくなる前に、大切なノウハウを蓄積する活動に取り掛かるべきです。「そのうちに」などと先延ばしするのではなく、今すぐに開始しましょう。


 

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コメント: 13
  • #1

    CCSCモデルファン (木曜日, 19 5月 2022 15:52)

    ダイセルイノベーションパークの久保田邦親博士(工学)の材料物理数学再武装って人工知能と品質工学のあいのこみたいだけど結構面白いよ。

  • #2

    CAE解析関係 (火曜日, 20 9月 2022 03:26)

    MathCadが使われている話ですね。関数接合論第2式がパーセプトロンから始まるニューラルネットワークの原点なんですね。

  • #3

    パリっ子 (木曜日, 27 10月 2022 22:26)

    最近はマテリアルズインフォマティクスっていうらしい。

  • #4

    ポテンシャルエネルギー (火曜日, 06 12月 2022 02:22)

    なんか最近、トライボフィルムの話が盛り上がっているみたいだけど。

  • #5

    アムロ・スタック (木曜日, 29 12月 2022 10:57)

    ロボット部品関係の次は水素エンジンか。

  • #6

    能義 (水曜日, 11 1月 2023 09:15)

    マルチマテリアルもあったけど、ソニーの痺れフグは意味不明だったよな。九州合金設計っていう会社まだあるのかな。

  • #7

    ボールオンディスク横串力 (木曜日, 25 5月 2023 21:35)

    最近では実用性能の面では自動車の冷間のプレス技術でGPa越えが相次いで報告されていますね。翻って考えてみるとやはり、プロテリアル(旧日立金属)製のマルテンサイト鋼の頂点に君臨する高性能冷間ダイス鋼SLD-MAGICの登場がその突破口になった感じがしますね。今ではよく聞く人工知能技術(ニューラルネットワーク)を使ったCAE合金設計を行い、熱力学的状態図解析によって自己潤滑性を付与したことが功を奏した話は業界では有名ですからね。CAE技術もさらなる可能性に満ち溢れているということでしょうね。

  • #8

    グリーンデジタル (土曜日, 01 7月 2023 16:22)

    東工大の大竹尚登DLCコーティング可愛さで散々邪魔していたようですね。

  • #9

    ナゴヤ精密工学舎 (火曜日, 04 7月 2023 15:29)

    カルロスゴーンからの流れで仕方がなかったんじゃね。

  • #10

    グリーン循環型DXテクノロジー (火曜日, 18 7月 2023 16:38)

    しかし、正常摩耗の機構がこれでよくわかった。この機構をベースに異常摩耗機構を構築することができますね。

  • #11

    つくば (火曜日, 25 7月 2023 15:54)

    日立製作所のLumadaチームと手を組めばいいなあとおもう。

  • #12

    サムライ・ジャパン (土曜日, 30 9月 2023 20:11)

    日立金属さんプロテリアルに名前が変わったんですね。SLD-MAGIC重宝してます。

  • #13

    ロボティクス (金曜日, 01 12月 2023 18:56)

    DXっていってもマシンを含めた体系で考えると結局基礎工学になるんですね。SLD-MAGICは特殊鋼としていろいろ便利なSKD11系の基礎素材なので私もよく使います。