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音楽生成AI「Suno」の「とんでもない価値」とは?

む才能の民主化、必要なのは“歌い手”になる覚悟だ

2024.04.03 

by 中島聡

文章からイラスト、写真、動画まで簡単に作り出してしまう生成系AI。それによって人間の生産性が上がる、コストが下がるといった話題は、すでにお馴染みのものとなりました。

一方で生成系AIは、そのような「効率化」の議論とは別に、プロから創作の特権を奪い去り、才能の民主化とでも言うべき状況を引き起こす可能性があるようです。これに関して、プロンプトから音楽を作ることができる「Suno」を利用した際、生成系AIが人間に与えてくれる「これまでにない体験」に気づいたと語るのは、Windows95を設計した日本人として知られるエンジニアの中島聡さん。

AIが人間の創作物から学習する限り、法的懸念や「絵や音楽が上手くなりたいならそれだけの努力をせよ」といった反発はなくなりませんが、それでもこの流れはもう止まらないかも?



音楽生成AIが私に提供してくれた「これまでにない体験」

文章だけでなく、画像や音楽までプロンプト(=テキスト)から作ってしまう生成系AIは日進月歩で進化しており、それをキャッチアップするだけでも一苦労です。

そんな中で、「私たちのライフスタイルを大きく変える体験」を自らしたので、報告します。

先日、プロンプトから音楽を作ることができる、Sunoというサービスの存在を知り、早速、試してみたところ、とても良くできているので感心しました。

その時、ちょうど、私のハワイでのゴルフ友達のJohn(もしくはJohny)から、「ハチミツの次のロットが収穫できたから明日渡すよ」という連絡がありました。

Johnは、家の庭にミツバチの巣箱を作り、そこからハチミツを収穫しては、”Jonnys bees”というラベルを貼った瓶に詰めて、知り合いに配っているのです。

何かお礼をしなければ、と思った私は、試しにSunoに対して、Johnのハチミツに関する曲を作るように依頼してみました。

入力したプロンプトは、”A mellow Hawaiian song about sweet honey from Jonnys bees“というごく単純なものです。

すると、”Sweet Honey“という素晴らしい曲を作ってくれました(リンク先で作品を聴くことができます)。

歌詞は以下の通りです。

In the land of aloha, where the palm trees sway Theres a man named Jonny, got a buzzinpayday (payday) With his little honeybees, they work day and night Collecting that sweet nectar, its a pure delight (oh-yeah)

Oh, sweet honey, drippinfrom the comb (drippinfrom the comb) Golden sunshine, makes my heart feel at home (feel at home) Jonnys bees, they got the magic touch (magic touch) Sweet honey, taste it, its a little too much

Sittinon the shoreline, watchinwaves crashinby Jonny and his ukulele, under the tranquil sky (tranquil sky) Singin’ ‘bout the sweetness, that his bees provide Spreadinlove and joy, with every bees stride (ooh-yeah)

ちゃんと韻は踏んでいるし、ハワイの風景も見事に描かれています

そこで、曲をJohnに送ったところ、本人からは ”Thats awesomeIm speechless.”という返事があり、奥さんのPeggyは、”It raises the bar for any gift!”と絶賛です(”it raises the bar”とは、「これを超えるものは難しい」という意味の、最高の褒め言葉です)。

この時に、気がついたのは、これこそが生成系AIが与えてくれる「これまでにない体験」だということです。

生成系AIについて語る評論家たちの多くは、これによって、クリエイティブな人たちの生産性が上がる、コストが下がる、職が奪われる、など点に注目していますが、それらは単に「効率化」という表面的な話でしかないのです。

 

創作が「才能ある人の特権」でなくなると何が起こる?

今回、私が体験したことは、これまで「音楽を作って誰かに贈ろう」などと想像もしたことがない私が、突如、生成系AIのおかげでそんなことができるようになったという意味で、「とんでもない価値」が生まれたと言えるのです。

今、放送中の大河ドラマ「光る君へ」では、平安時代の人々が、和歌で自分の心を相手に伝えていた様子が描かれていますが、良い和歌を歌うためには、才能も努力も必要だったのです。学のある主人公のまひろ(のちの紫式部)には可能ですが、弟の惟規(のぶのり)にはできない芸当です。

21世紀の私たちは、和歌どころか、手紙すら書かなくなってしまいましたが、生成系AIのおかげで、突如、音楽や映像を使って自分の気持ちを伝えることが可能になってしまったのです。

ちなみに、Sunoの存在を知ったJohnyの家族は、「先週食事をしたレストランにいた、おしゃべりなウェイトレスの歌」とか「先週、ゲストがお土産に持ってきた1袋百ドルもする高級なお米の歌」などを作って遊んでいるそうです。

映像作成に関しては、OpenAIが最近発表したSoraが注目されており、それが、ミュージックビデオの作成に使われたり、ハリウッド映画の作り方を根本的に変えるだろうことに注目が集まっています。

) Soraは、テキストのプロンプトを入力するだけで、高品質の動画を生成できるツール現時点では一般公開されていないものの、正式にリリースされれば動画コンテンツの制作や編集に変革をもたらすと期待されています。

しかし、今回の体験は、生成系AIが世の中にもたらす一番の価値は、これまで音楽家や映画監督にしか作れなかった音楽や映像作品が、一般人にも簡単に作れるようになった点にこそあると、教えてくれました。

「ありがとう」という言葉の代わりに音楽を送る、「あなたが好きです」という言葉の代わりに映像を送る、そんな行動が、ごく当たり前になる時代が到来しつつあるのです。       


災害時のSNS「デマ・誤情報」惑わされない対策6つ

「家族・友人・知人との直接の会話」で広まる事も

山口 真一 : 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授

2024年01月06日

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震に関連して、インターネット上での偽情報の拡散が深刻な問題となっている。特に、X(旧Twitter)を中心に多くのデマが散見されている。

#助けて」「#SOS」で拡散

    例えば 、被災者を名乗る複数のアカウントが「#助けて」「#SOS」といったハッシュタグを用いて、架空の住所を含む投稿を相次いで行っていることがわかっている。これらの投稿はさまざまなユーザーによって拡散されており、実際の被災状況とは異なる情報が流布されている。

以下が今回、拡散されているデマの一部です。

Xに載っています!!
息子がタンスの下に挟まって動けません
私の力では動きません
頼みの綱がXしかない状況です
助けて

 

屋根が崩れて、下敷きになっています。
警察、消防繋がりません。
携帯の充電温存したいですが、暗くなってきてます。助けてください。

 

能登の母が家の下敷きになっています。しかし近所の人で助けられるレベルではないらしく、そのままです。自衛隊要請レベルではないかと思います。
助けてあげて下さい。お願いします。

今回の地震が人工的に引き起こされたとする根拠のない主張も広まっている。

NHKの分析によると、202412日午後530分までに「人工地震」に関する投稿は約25万件に上り、中には850万回近く閲覧されたものもある。東日本大震災の津波の映像を今回の地震による津波と偽って投稿するケースも報告されている。投稿の中には数百万回表示されているものもある。さらに、地震や火災の原因、北陸電力の志賀原子力発電所の状況に関する根拠のない情報も広まっている。

被災者を装い、電子マネーでの募金を呼びかけるアカウントも確認されている。

 

災害時のデマ拡散の深刻な影響

災害時にデマが広まりやすい背景として、社会全体が不安に包まれていることが挙げられる。

歴史を振り返れば、例えば関東大震災の際にも同様の現象が見られた。

人間社会において、災害とデマは切り離せない関係にある。

しかし、インターネットやSNSの普及により、デマの拡散速度と範囲はかつてない規模で増大している。

デマは多くの場合、感情に訴える要素や「教えたい」という欲求を刺激する内容で構成される。

不安や怒りといった強い感情や、利他的な動機によって人々はデマを拡散しやすい。

実際、筆者の研究チームの調査によると、「不安に感じたから」とか「伝えることが他人や社会のためになると思った」という理由でデマを拡散している人が多いことが明らかになっている。

災害時のデマがもたらす影響は深刻だ。パニックや混乱は避難行動の誤った方向への導きや物資の略奪、間違った行動へとつながり、被災地の状況をさらに悪化させる。

また、救援活動にも影響を与え、不必要な救援派遣の発生や自治体の作業負担の増大が見られる。

社会的分断は、デマを信じる人々と信じない人々の間の亀裂を生み出し、特定のグループへの排除や差別を助長する。

誤った自己防衛策が広まることにより、人々をむしろ危険にさらすリスクが高まる可能性もある。

そして最も重要なのは、災害時に正確な情報がいかに大切かという点である 。

SNSの普及により、緊急時の情報が迅速に広く共有できるようになったが、デマの存在は、それらの情報全体の価値を損なう。

結果として、人々はすべての情報に対して疑念を持ち、正しい判断を下すことが困難になる。

災害時にデマが広まる背景には、「承認欲求」と「アテンション・エコノミー」がある。

承認欲求とは、人が社会的な承認や注目を浴びたいという心理状態を指す。

SNSの世界では「いいね」やシェア数が、この承認の象徴となる。

例えば、2016年の熊本地震の際には、あるユーザーが「ライオンが逃げた」という虚偽の情報を拡散し、その結果、逮捕される事態に至った。

このような行為は、注目を浴びたいという個人的な欲求が原動力となっている。

アテンション・エコノミー(関心経済)とは、人々の注意を引きつけることが経済的価値を生むという概念で、承認欲求を一層強化する。

最近のXでは、特定の条件を満たすアカウントが広告収益を得られるシステムが導入されている。

例えば、フォロワーが500人以上であること、過去3カ月のインプレッション(表示回数)が500万件以上であることが条件になっている。 

このシステムにより、アテンション・エコノミーは個人レベルに浸透し、ユーザーはより多くのフォロワーやインプレッションを獲得するために、過激な投稿や偽情報を流布するインセンティブを持つようになる。

生成AIが社会的混乱を加速する

生成AIの普及は、個人が容易に偽画像や偽動画を作成できる環境を生み出し 、ディープフェイクの大衆化が起こった。

これは、偽情報や誤情報の爆発的な増加を意味し、「Withフェイク2.0」とも称される新たな局面に突入しているといえる。

例えば、イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突では、AIによって作成された偽画像や偽動画が多数投稿され、世論工作に利用されている。

災害時のデマ拡散にも大きな影響を与えている。

2022年の静岡県の水害の際には、ドローンで撮影されたとされる静岡の水害の様子を示す写真がSNS上に投稿されたが、実はそれはAIによって作成された偽画像であった。

作成者は特別な技術を持つ者ではなく、一般の市民だった。

彼は「Stable Diffusion」という誰でも使用可能なサービスを用いて、この偽画像を作成していた。

布団の中でスマートフォンを見ている中で、いつものように投稿しただけだとメディアの取材に答えている。現在は過去の画像や動画がデマに使われることが多い。

しかし近い将来、AI技術がさらに進歩すれば、人間の目にはいよいよ見分けがつかない偽画像や偽動画を、より容易に作成できるようになる。その結果、偽情報の数は膨大になり、社会的な混乱を一層加速させるだろう。 

デマとの闘いにおいて、まず重要なのは自己省察である。つまり、私たちは容易にデマにだまされる可能性があることを自覚し、情報に対して謙虚な姿勢を保つべき、ということだ。筆者の研究チームが行った調査では、デマを見聞きした人の77.5%が、自分がだまされていることに気づいていなかった。

特に5060代が若い世代よりだまされやすい傾向にあることがわかっている。

デマや誤情報は、SNSに親しむ世代だけの問題ではなく、すべての世代が「自分もだまされるかもしれない」という意識を持つことが重要である。

情報の検証も必要だ。 

他の人やメディアがどのように報じているかを確認する、画像を検索してみる、誰が発信しているか確認する、情報ソースを確認する、などの方法がある。情報のあふれる現代において常に情報を検証することは困難でも、情報を拡散したくなったときだけでも「ちょっと保留」して立ち止まり、確認することが肝要だ。

Xでは、誤解を招く可能性のある投稿にユーザーが補足情報をつける「コミュニティノート」機能が導入されている。これは投票で情報が追加されるため、集合知によって比較的信頼性の高い情報が提供されている。

コミュニティノートの確認も情報検証方法として有効だ。

SNSに限らないデマの拡散手段

また、デマの拡散はネットだけの問題にとどまらない。

筆者の研究チームが行った調査では、デマの拡散手段として「家族・友人・知人との直接の会話」が最も多かった。また、コミュニケーション研究によれば、専門家の情報よりも身近な人の情報を信じやすいことが知られている。そのため、身近な人からの情報でもすぐに信じるのは避け、慎重に情報を扱うべきだ。

今回の災害でも、SNSで広まったデマが口コミを通じてネットに触れていない人々にまで広がるケースが起こり得る。

SNS側の対策も期待される。

特にXは、イーロン・マスク氏に買収されてから、モデレーション力が弱まったとの指摘がある。

表現の自由があり、どれもこれも削除すればいいというものではないのは大前提だが、社会を混乱させる偽情報に対しては、厳格な規約の運用が求められる。偽情報を拡散しての収益化の停止も、重要な対策の1つである。 

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