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テスラの苦戦が示唆するEVの命運

自動車「家電化」で低価格競争へ突入、エンジン回帰は近い?

斎藤満

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米国株が最高値を更新する好調さを見せる中で、EV(電気自動車)の先駆者テスラの株価が、昨年夏から3割も下げる苦戦を続けています。  

これはEVが抱える問題を示唆している可能性があります。



中国が仕掛ける価格競争

テスラの苦戦をもたらしたきっかけは、中国のEVメーカー「BYD」の低価格戦略です。 

中国の雇用対策とも相まって、中国のEV生産が高まり、早くも過剰供給との声すら上がるようになりました。

インドでの低価格EVの供給とともに、低価格のEV供給の増加が、テスラの価格戦略にも影響するようになりました。

TESLA INCTSLA> 週足(SBI証券提供)

中國では国策としての住宅供給策が、1億戸以上の供給過多をもたらし、住宅市場の需給バランスを壊してしまいましたが、EV生産もその二の舞となりつつあります。

中国内でのEV過剰は、低価格EVの海外への輸出を通じて、EV価格の低下圧力となります。


車と家電、価格戦略の違い

EV化は、自動車を「輸送用機械」から「電気機械」「家電製品」へのシフトをもたらします。

この両者の間には、価格戦略で大きな違いがあります。これまでの自動車業界の価格戦略は「値上げの歴史」を持っていました。日本でも初代カローラや初代カムリに比べて、今日のカローラ、カムリの価格は初代の約2倍になっています。

そして高級車でもクラウンからレクサスに進むにつれて、ハイエンドのレクサスは12,000万円もします。初代クラウンのハイエンドモデルの5倍以上になります。このように、自動車は技術革新の中でも「値上げの歴史」を辿ってきました。

これに対して、電気機械、家電は技術革新の下で、ひたすら「値下げの歴史」を展開してきました。

カラーテレビが典型ですが、他の電気製品も大方、時がたつと販売価格が引き下げられています。

液晶の薄型テレビは出現当初、40インチでも160万円以上しましたが、今日では50インチでも10万円強で手に入ります。

自動車が「輸送機械」から「電気機械」化すると、この価格戦略が変わる可能性があり、走行機能よりも走る音響製品、走るコンピューターの機能が前面に出ると、より電気製品化します。

中国EV、テスラの動きは、早くもこれを暗示している可能性があります。

 

米国が日独に代わって主導権を取り戻すはずが……

郊外のゴルフ場にベンツやレクサスで向かっても、ゴルフ場では電動カートに乗ります。

この電動カート、ゴルフ場のカート道だけを走るものなので、中国製でもインド製でも構いません。

簡単に乗れて移動できればいいので、ポルシェやベンツである必要はありません。そして、中国やインドが電動カートにボディをつけ、窓やドアを付けてゴルフ場の外にも走ってゆけるような「車」に改良しました。

動力はガソリンエンジン車の内燃機関と異なり、モーターで走るので、特段の技術も必要なく、部品も少なくて済みます。

それだけに、動力に専門知識のない街の電気屋さんでも車が作れるようになりました。いわば電動カートを改良して、ゴルフ場の外でも移動手段として使える電気機械が完成しました。その命綱はエンジン性能ではなく、モーターを長時間回せるだけの電池となり、その供給に必要な原材料リチウムなどの確保に適した中国がアドバンテージを得ました。労働コストも欧米より安い分、競争力があります。

自動車の形をした電動カートなら、走行性能としての先端技術は不要で、どこでも誰でも作れます。

ベンツやレクサスである必要もありません。

EVを仕掛けた米国の勢力は、内燃機関の技術で日本やドイツにかなわなくなったため、母屋を奪われました。

そこで温暖化防止、温室効果ガスの排出抑制を前面に出して化石燃料を使わないEVへのシフトを進めました。

米国が日独に代わって主導権を取り戻すはずが、テスラがまさかの中国やインド勢に押される展開となり、予定外の形となりました。またEV普及の初期段階でありながら、すでに電池の原材料であるリチウム鉱山の争奪戦が中国とオーストラリアの間で展開されています。EVが世界に普及する時代になったら、リチウム電池の供給は間に合うのか、大いなる問題提起となりました。

 

長距離安定走行に不向き

しかも、電池の制約から、走行距離には限界があります。

ガソリンスタンドのように、必要ならどこでも補充できる体制にはなっていません。

家庭で充電しても、外でバッテリー切れとなれば安心して乗れません。

特に国土の広い中国や米国の場合、荒野で立ち往生すれば命にかかわります。

電動カートのように近場で乗り回すには良いのですが、500キロを超える長距離走行には向いていません。

米国や中国、オーストラリア、ロシアなど広大な国土を持ち、長距離移動を要すところでは、EVは不向きで、どうしても鉄道か飛行機に頼らざるを得なくなります。個人はよいとしても、トラック輸送はEVでは無理が生じます。

またモーターや電池の寿命も問題になります。バッテリーは交換すればよいかもしれませんが、モーターが焼け切れてしまうと、簡単に交換はできません。新車に買い替えられる程度に車価が安くならないと、短い寿命の問題は乗り越えられません。

寿命の問題を抱えたままでは中古市場も育たない可能性があります。

 

温暖化防止効果に限界

EVは走行時にCO2が出ないとしても、充電する電気の作成時にCO2が発生します。

その点ではEV化による温室効果ガスの抑制には限度があります。

これを改善するには、新たな電力生産をソーラー発電にし、これを電池に蓄えて使うことが考えられます。

また、走行距離、安定性を考えると、ガソリンに代わる燃料として水素ガスを利用し、内燃機関を使う道があります。

これであればエンジンの寿命、安定性はEVより勝ります。あとは水素ガスの安定供給体制を急ぐことです。

水素ガスでなくとも、欧州ではCO2を出さない代替燃料の利用による内燃機関の活用が認められました。

この新燃料対応か、水素ガス対応か、よりコストの安い方法を選ぶことになります。

新燃料の利用に際しては、すでに排出されたCO2を再利用すれば、トータルのCO2排出増にはなりません。

電動カート型EVの世界普及には限度があり、既存自動車メーカーにどれだけのメリットがあるか疑問です。 

新燃料であれ、水素ガスであれ、内燃機関(エンジン)を利用する車なら、日本メーカーの強みが生かされ、長距離走行、安定性、信頼度の面で優位に立てます。




 

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