改革に失敗すれば一気に凋落も
栫井駿介
2024年2月8日
今回はトヨタグループについてです。トヨタグループで検査不正が相次いでいて、ついにはおひざ元である豊田自動織機でも不正が発覚し、豊田章男会長も予定を早めて新しいグループビジョンの発表の会見を行いました。会見では不正の理由について質問がありましたが、明確な回答はありませんでした。なぜ「世界のトヨタ」がこのような事態に陥ったのか、考えてみたいと思います。
日野自動車、ダイハツ、豊田自動織機…相次ぐ不正
不正が相次いだことにより、豊田章男会長のグループビジョン発表会見は謝罪会見のようなものになりました。
実際に車の販売が中止されるなどの影響が出ています。
調査報告書の中で、組織的な文化でのコンプライアンス意識の低さや、上層部や納期のプレッシャーによる不正であることが共通して挙げられていました。
日産やスバル、スズキ自動車など、自動車業界ではこれまでも不正が発覚したことがありましたが、”天下のトヨタ”の不正ということで大きな問題となっています。
トヨタ自動車本体による不正ではありませんでしたが、資本関係のあるグループ会社での不正ということで、トヨタとしても重く受け止める必要があります。
不正の原因は「トヨタ生産方式」への誤解?
不正が行われた原因の一つとして『トヨタ生産方式』があると私は考えています。
「ジャストインタイム」「自“働”化」を軸とした、一見シンプルなトヨタ生産方式ですが、実際にやろうとすると複雑で、簡単には真似できないものです。簡単に真似できないからこそ、トヨタの強みとなっていました。
トヨタ生産方式についてより詳しく知りたい方は、書籍『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして』(著:大野耐一/刊:ダイヤモンド社)がおすすめです。
これほど複雑で真似することも教えることも難しいトヨタ生産方式は、簡素化された形で世の中に広まりました。
顕著なのが「短納期」という部分です。
納期を短くするための「ジャストインタイム」であると見られていることも少なくないのではないかと思います。
この「短納期」の部分だけを取り入れようとした結果、現場にしわ寄せが行ってしまい、今回の検査不正が起こってしまったのではないかと私は推測します。何度も言いますが、トヨタ生産方式は簡単に導入できるものではありません。
厳しいチェックの元、とことんムダを無くし、効率化を進めてきてようやく構築されたものです。
本来のトヨタ生産方式というものは単なるコスト削減ではなく、ムダを無くして効率化しているので、働く人たちに余裕が生まれます。
その余裕によって、製品をより良くすることを考えるという動きにつながります。その結果、より良い製品をより低いコストで生産できるようになった、ということがトヨタの根源的な強みであると考えられます。
トヨタの強さは業績にも表れていて、直近の営業利益率は10.47%の予想となっていて、日産の倍以上、ホンダよりも3割以上高くなっています。トヨタは長い時間をかけて、下請けの会社にもトヨタ生産方式を浸透させ、トヨタグループ全体としての強みを発揮してきていました。
トヨタグループがどんどん拡大していき、M&Aや資本出資などで外部の会社を取り込んできました。
今回不正が発覚した日野自動車やダイハツは、トヨタグループの中ではかなり新参者であり、歴史も浅く関係性も薄い部分があります。
グループ会社のヒエラルキーがあるとしたら下の方にいる会社と言えるでしょう。
不正行為に関しては、特にダイハツにおいてトヨタグループに入ってから顕著になったものと考えられます。
トヨタのコストや納期を重視するシステムを導入する一方で、実際のトヨタ生産方式を一人一人が学ぶには至っていなかったのではないかと思われます。
ダイハツや日野自動車は、トヨタグループの劣等生のような位置付けとなってしまい、数字だけでも結果を出そうとしたことが今回の不正の一因であると考えられます。
豊田自動織機に関しては、祖業であり、グループヒエラルキーの上の方に位置付けられていることから逆にトヨタが口を出しづらかったのではないかと想像します。
今回の不正問題を総括すると、問題の本質はトヨタ生産方式への誤解と、そのシステムを子会社に表面的に導入したことではないかと思います。トヨタ本体ではない企業に対して十分な指導や教育が行われていなかったのではないでしょうか。
改革は上手くいくのか?
豊田章男会長は「これらの会社は1回潰れたつもりでやる」と発言していますが、具体的な話は会見で語られていません。
どちらかというと、トヨタ本体の力をグループ会社の隅々にまで浸透させること、人事交流などを通してトヨタ生産方式をしっかりと移殖することが大事だと思います。
トヨタ生産方式は労働強化ではなく、ムダを無くして労働者に余裕を作り、1人1人が考えるように促すものであり、それを導入することによって不正も防げるのではないでしょうか。
トヨタ生産方式は1人1人のクオリティが高いことが強みであり、これをしっかりと引き継いでいくことが、トヨタに限らず、日本の製造業全体の強さにつながると考えています。
どんな分野であっても、トヨタ生産方式によってより良くより低コストの製品を作ることができれば、世界的に強い競争力を持つことができます。
今回の不正を受けてトヨタがきちんと改革できるようであれば、トヨタ生産方式の本来の力を引き継げる人材がいることの証左になるので、今後の動きには注目していきたいです。
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