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迫られる悪魔の選択


バイデン対トランプという最悪な一騎打ち

              2024.01.10

                by 高野孟 

ジャーナリストの高野さんが、この選挙が史上最悪の「悪魔の選択」になりうる可能性を指摘。

さらに無党派で出馬するある候補の注目すべき公約を取り上げています。


バイデン対トランプという史上最悪の「悪魔の選択」

4年に一度の米大統領選は、115日の共和党アイオワ州予備選、23日の民主党はサウスカロライナ州予備選を皮切りに始まり、35日には十数州で一斉に予備選が行われる「スーパーチューズデー」で最初の山場を迎える。

7月に共和党大会、8月に民主党大会が開かれて候補者が確定、9月から候補者TV討論対決など選挙戦本番に入る。

11月5日投開票、25120日に新大統領が就任するという流れとなる。

今のところ、現職ジョー・バイデンと元職ドナルド・トランプがそれぞれ再選を賭けて対決するという形になる公算大で、これは米国民にとってはもちろん全世界にとっても「悪魔の選択」となる。

バイデンは、あらゆる所作から見てすでに緩やかな認知障害の過程に入っており、それに加えて「長男はイラクで戦死した」という事実とかけ離れた発言を何度も繰り返すなど、一時的な意識陥没に陥る傾向を見せていて、客観的に見てすでにその職に相応しくない。

「長男はイラクで戦死した」という発言は、昨年518日、翌日からの広島サミットに出席するため岩国米海兵隊航空基地にエアフォース・ワンで降り立った際、出迎えた米兵たちを前にしての非公式のスピーチの中で飛び出したもので、米メディアによると実は22年以来これが3回目であると言う。

それがイラクで戦死したことになってしまうのは、単なる言い間違いではあり得ず、一時的に意識が陥没してそこにパコッと別の虚偽の物語が嵌まり込むという症状が繰り返されていることを示唆している。

他方、トランプは前回20年の選挙で勝利したのは自分だという幻覚に浸り切っていて、バイデンによって不当に奪われた地位を奪還して報復することにしか関心がないという病的な心理状態にある。91件とも94件とも言われる自らに降りかかっている訴訟をチャブ台返し的にひっくり返すこともその報復の一部で、そのために少なくとも「大統領に就任した初日は独裁者になる」と予告しているが、大量の刑事起訴を取り下げさせるのは容易なことではなく、それだけで4年間が費やされるだろうと見られている。

米国に何が求められているかをよく理解している第3の候補

この有様は、単にバイデンとトランプそれぞれの資質というレベルの問題ではなく、米国自身がポスト冷戦、ということはほぼイコールでポスト覇権という世界的なトレンドに適応することが出来ず、従ってそのトレンドの中で自分がどのような地位と役割を占めればいいのか分からなくなってしまった「アイデンティティ喪失状態」に陥っていることを示している。

CIAはじめ米政府の全ての情報分析機関を糾合した「全米情報協議会(NIC)」は4年に一度、「グローバル・トレンド」と題した未来予測の報告書を発表しているが、その2004年版では「20世紀は米国の世紀だったが、21世紀は中国やインドが先導するアジアの世紀になる」と言い、2008年版では「中国やインドの台頭で世界は多極化する」「米国は引き続き単独最強の国であり続けるが、支配力は弱まる」と言っていた。つまり、覇権の時代が終わって多極世界が展開し、それに米国がいかに適合していくことが出来るかという問題意識を一貫して抱いてきたが、実際の米国政治はそれに失敗し続けてきた

繰り返しになるが、冷戦が終わったということは、米国と旧ソ連がそれぞれ西と東の陣営の頂点に君臨する超大国として覇を競い合う時代が終わって、「多極化」の時代、「多国間協調主義」の時代が訪れてきたことを意味し、そのことを正しく文明論的次元で認識したゴルバチョフ=ソ連大統領は直ちにワルシャワ条約機構(WTO)を解散したが、ブッシュ父=米大統領は「冷戦という名の第3次世界大戦に米国は勝利し、向かうところ敵なしの“唯一超大国”となった」という錯覚に囚われ、そのため北大西洋条約機構(NATO)を解散しなかったどころか、それを東方に拡大してロシア包囲網を形成しようという誤った戦略を採った

それを受けてブッシュ子は、それをさらに極端化させ、米国がNATOなど同盟国に相談することもなく自由勝手に振る舞って当然だとする「単独行動主義」にまで突き進み、アフガン・イラク侵略へと暴走した。

その流れを汲む変形版がトランプの「米国第一主義」や、バイデンの「世界は民主陣営と専制陣営に分かれている」という世界認識に他ならない。

つまり、米国は冷戦後の世界に適合するのに失敗し続けてきて、ここへ来てついに、それぞれに心に病を抱えた2人のどちらかを指導者に選ばなければならないという地獄にまで行き着いたという訳である。もちろん、まだこの2人の対決と決まっている訳ではない。

実際に予備選が始まってみると予想外の候補が台頭して来たりするのはよくあることで、今回の場合は無党派で出馬するロバート・ケネディ・ジュニアの存在が気になるところである。1220日発表のキニビアック大学の調査では、バイデン38%、トランプ36%に対しケネディは22%と大健闘している。

彼は「海外にある800の米軍基地を全て閉鎖し米軍を撤退させ、米国を模範的な民主主義国家にする」と公約しており、ポスト冷戦・ポスト覇権の時代に米国に何が求められているかをよく理解していることが窺える。  

一部記事抜粋


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