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AI半導体・NVIDIAが「ひとり勝ち」した納得背景

生成AIブームにより「ひとり勝ち」状態にあるというNVIDIA(エヌビディア)

決算書から見えた「事業シフト」の全貌とは

佐伯 良隆 : グロービス経営大学院教授(ファイナンス)

2023年10月25日

生成AIブームにより、時価総額1兆ドルを超えたことでも知られるようになったNVIDIA(エヌビディア)。第2四半期(5-7月)の決算では、粗利率が70.1%、前年同期比で売上が約2倍、営業利益が14倍と驚異的な数字をたたき出しました。半導体関連企業で「ひとり勝ち」の様相を呈する同社。一体どうやって、その高みに至ったのでしょうか。

佐伯良隆氏の『100分でわかる! 決算書「分析」超入門 2024』(朝日新聞出版)より一部抜粋・再構成。



☞ 時価総額1兆ドルを達成! AI産業の寵児・エヌビディア

202211月に公開されるや否や、瞬く間に世界中を席巻した生成AIChatGPT」。

その頭脳を司るのが、アメリカ・エヌビディア社が開発したGPU(画像処理装置)です。 

CEOのジェンスン・フアン氏らによって1993年に設立された同社は、1999年に高速処理により3D映像を滑らかに表現できる世界初のGPUGeForce256」を発売。以後、グラフィックスチップ界のトップランナーとして、PCやスマホ、PlayStation3などのゲーム機のGPUを次々に開発し、着実に成長してきました。

 転機が訪れたのは2012年。AIによる画像認識の精度を競う大会で、GPUを使って深層学習(ディープラーニング)したAIが、圧倒的な差をつけ優勝。CPUに比べ、大量のデータを並列処理できるGPUの特性が、AIの性能を飛躍的に高めることが認められました。その後、同社は競合のインテル社やAMD社に先駆けてAI向け半導体を開発。

2010年代から本格化したディープラーニングブームの波に乗り、企業のデータセンターや自動運転車、ロボットなどの市場で業績を伸ばします。さらに2022年に生成AIブームが起こると、「麻薬よりも入手困難」とイーロン・マスク氏が嘆くほどGPUの需要が急増これに伴い同社の株価も急騰し、20236月には史上8社目となる時価総額1兆ドル超えを達成。アップル、マイクロソフトなどに次ぐ規模に成長しました。同社の強みは、高い技術力と先見性、そしてファブレス経営(自社で工場を所有せず、製造を外部に委託する経営方式)による分業モデルにあります。1998年には、後に世界最大の半導体受託製造企業となるTSMC(台湾積体電路製造)社と提携

当時、インテルが設計と製造の両面で半導体産業の覇権を握っていた一方で、エヌビディアは経営資源を設計に集中させることで、より速く、より高性能のAI向け半導体を開発・量産することに成功したのです。

☞ 売上は横ばいも利益は約半分に。業績低調にみえる理由とは?

それでは当期(20231月期)の損益計算書をみてみましょう(以下、1ドル≒140円として計算。本文では便宜上、円で記載)。


まず売上は約3.8兆円で、前期からほぼ横ばい(①)。対して、営業利益は前期比57.9%減の5914億円(②)で、営業利益率は21.6ポイントも低下(③)。最終利益も55.2%減の6115億円(④)と、時価総額とは裏腹に収益性がかなり低下しています。

この原因はいくつか考えられます。ひとつは、商品構成比の変化です。

事業セグメント別の業績をみてみましょう。

 コンピュータ&ネットワーキング事業が増収増益(⑤)なのに対し、グラフィックス事業は減収減益(⑥)となり、当期で売上と利益の規模が逆転。さらにグラフィックスの利益率が大きく低下しています(⑦)。つまり高収益のグラフィックスの売上割合と利益率が下がったことで、全体の収益性も低下したのです。

また、同社のアニュアルレポートから市場別売上高を調べると、AI向け半導体が主力のデータセンターの売上は前期から41%増えているのに対し、グラフィックスチップが主力のゲーミングは27%減少しています。 

AI産業からの半導体需要が急増している一方で、ゲーム市場は前期に起きたコロナ特需の反動で買い控えが起きたと推測できます。 

営業利益が減ったもう1つの原因は、営業費用の増加です。 前掲の表から内訳をみると、研究開発費が2899億円(前期比39.3%)増加(⑧)、RD比率も7.6ポイント上昇(⑨)しています。これに加え、当期は特別要因としてアーム社の買収解除費用(※)1894億円発生した(⑩)ことで、営業利益が押し下げられました。

しかしこれらは戦略的費用の増加一時的な減益要因であり、ネガティブなものではありません。  

※ 2020年、エヌビディアは、ソフトバンクグループ傘下の半導体メーカーであるアーム社を、最大400億ドルで買収することを発表。

  いったんは合意に至るが、その後、欧米の独禁規制をクリアできず2022年に断念。契約解除となった。


☞ 需要増に量産体制の構築急ぐ さらなる跳躍に向け雌伏の時

続いて、体つきと血流を調べていきます。貸借対照表をみてみましょう。


当期は総資産が4207億円(6.8%)減り約5.8兆円になりました(⑪)。主因は流動資産の減少です(⑫)。

前期から現金が1959億円(70.3%)増えた(⑬)のに対し、有価証券が1.3兆円(48.4%)も減少(⑭)。

一方で、在庫は3576億円(98.0%)増加(⑮)。棚卸資産回転期間も、101日から162日に長期化しています。

これはGPUの急激な需要増に対応して、急遽増産をかけたためです。

次期には売上に変わるため、ジャンプの前に屈んでいるところだと言えます。

また固定資産をみると、有形固定資産(⑯)の割合が総資産の9.2%しかなく、自前の設備を持たないファブレス経営の特徴が出ています。体にたとえると、筋肉がなく、頭脳(GPUの設計)が巨大化している宇宙人的なイメージです。

その割に、自己資本比率は53.7%と、骨格は太くて丈夫。前期から、短期・長期の借入金は10億円増えました(⑰)が、有価証券を現金同等物に含めれば純有利子負債はマイナスであり、実質無借金です。

続いて、キャッシュ・フローをみてみましょう。

当期は純利益が減少したこと(⑱)が主因となり、営業CFも前期から38.1%減少し7897億円となりました(⑲)。

一方で、投資CFは、前期が約1.4兆円の支出に対し、当期は約1兆円の現金が流入(⑳)。

主因は、有価証券の償還収入が新規購入額を上回り、約1.1兆円が流入したことです(㉑)。

先ほどB/Sで、現金が増え有価証券が減ったのはこのためです。これにより、フリーCF1.8兆円のプラスに(㉒)。

このお金を、財務CF自社株買いに約1.4兆円(㉓)、配当金の支払いに557億円(㉔)と、計1.5兆円近く使っています。

財務CFの巨額の支出は、大規模な株主還元策が原因だったのです。

 

☞ 次期は大きな飛躍の年、AI市場拡大とともに成長は続く

<投資家はココに注目!>

同社は、ゲーミングからAIの分野へ事業の軸足を巧みに移してきたことで、成長が再加速すると投資家はみている。

実際に、2024年第2四半期の売上高は135億ドルで前年同期比2倍へと拡大、特にAI向けGPUを中心としたデータセンター部門は103億ドルで同2.7倍に急増した。

粗利率は前年の43.5%から70.1%へ大きく上昇。

営業利益は68億ドルと前年同期の実に14倍、前年1年間の営業利益をすでに超えており、売上げ利益ともに過去最高を記録。

3四半期の売上げは160億ドル前後へ拡大しそうだ。株価指標である予想PER60倍超と、高い成長期待が反映されている。 

 

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