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3D設計の未来~「設計/製造ITのトレンドの変遷」について

1 筆者のこれまでの歩みとCAD導入やデジタル推進の流れ

20230911日更新 

[土橋美博/プレマテック,MONOist]

3D CADの普及から製造業DXが語られるようになるまでの約20年間を振り返る

 機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信。

1回のテーマは「設計/製造ITのトレンドの変遷」について。 

3D設計の未来」をテーマにしたコラム形式の新連載がスタートしました。

1は筆者のこれまでの歩みを、CAD導入やデジタル推進の流れにフォーカスして簡単にまとめたものとなります。 同世代の設計者の皆さんと共通する部分も多いのではないでしょうか。



筆者の経験に基づくと、3D CADを導入したのが今から約20年前になるわけですが、その間、設計を取り巻く環境や製造業のIT領域でもさまざまなワードが飛び交っていました。以下、思い付くものをざっと列挙してみました(順不同)。 

☞ LINKをタップすると、わかりやすい説明(一部、具体的な事例紹介もアリ)があります。是非ご覧いただければ幸いです。 

·      可視化ツール

·        フロントローディング

·        コンカレントエンジニアリング

·        PLM

·        全体最適/部分最適

·        設計者CAE

·        BOM

·        モデルベースデザインMBD

·        モジュラーデザイン

·        エコシステム

 

·        インダストリー4.0

·        IoT(モノのインターネット)/IIoT(産業用IoT

·        3Dプリンタ

·        クラウドコンピューティング

·        VRARMR

·        AI(人工知能)ML(機械学習)

·        RPA

·        リモートワーク

·        ジェネレーティブデザイン

·         生成AI


懐かしいものからすっかり定着しているもの、さらには新しいものまで、さまざまなワードが頭に浮かびますね。

皆さんはいかがでしょうか?

筆者自身、実際にこれらワードに関連する技術やツール、考え方などに触れ、業務だけでなく、ライフワークである3D推進や記事執筆などの活動にも役立ててきました。

 今回は、これらワードを含む設計/製造ITのトレンドの変遷について、2000年ごろから現在までの流れを振り返りたいと思います。

なお、筆者の経験や当時の感覚に基づく内容が含まれることをあらかじめご了承ください。

 

2000年ごろ

 まずは2000年ごろです。それ以前はハイエンドが主流だった3D CADですが、ミッドレンジの3D CADが登場したことで、3D CADの普及が広がり始めました。当時、3D CADのうたい文句の1つとして、“製図を知らず、図面を読むことができない人でも理解できる可視化ツールである”ことが強調されていました。良し悪しは別に、今でも同じようなことが言われていますね。

 言うまでもありませんが、3D CADは設計業務だけでなく、関係者を集めたデザインレビュー(DRでも効果を発揮し、設計審査の精度品質向上に寄与します。

また、3D CADで作成した3Dデータを、営業、調達、製造、品質、保守といった設計以外の部門と共有することで、早期の製品理解や業務の事前検討に役立てられます。

このあたりのメリットも今も変わらずです。

 3D CADによる可視化の効果は設計段階のみにとどまりません。

例えば、設計と同時進行での組み立て検証や保守保全のための検証、帳票作成といったコンカレントエンジニアリングの実現は、3Dビュワーの活用とともにさらに広がっていきます。そして、以上のような流れを後押ししていたのがフロントローディングです。

これまでは、実際にモノが出来上がった後に製品品質を高めるための設計改善や製造検討作業が行われてきましたが、ミッドレンジ3D CADの普及を機に、それらを設計段階で進め、早期に品質を作り込み、手戻りを削減していこうという流れが本格化していきました。

 

2010年ごろ

 2010年ごろはどうだったでしょうか。設計者CAEによって、製品の不具合を、試作や組み立て後ではなく、設計段階で見つけられるようになってきました。

それ以前は、シミュレーションは解析専任者が行うものというのが当たり前でしたが、3D CADCAEがオプション(あるいは標準)で搭載されるようになり、設計者自身が3D CADCAEを行き来しながらバーチャル上で設計と検証を繰り返し、品質を高めていくことが可能になりました。

 3Dデータが製造業に関わる企業の中で一気通貫のデータとして扱われるようになると、これを管理/運用する大規模なシステムとしてPLMの重要性が唱えられるようになりました。こうした取り組みは別の用語で「サイマルテニアスエンジニアリング」ともいわれ、大手企業を中心に理想の管理/運用環境としてPLMシステムの導入が広がっていきます。

 PLMの中で、製品の構成を示すBOMの効果的な運用方法や、その可視化技術も求められるようになりました。

PLMは製造業の全体最適を目指すものでしたが、特に中小企業ではこれを推進するリソース(ヒト、モノ、カネ)が不足していることから、部分最適を繰り返すことで全体な効果につなげていく方法がとられるようになっていきました。

 また当時は、3Dプリンタが購入しやすい価格帯で登場し、個人ユースを含めた一大ブームを巻き起こしました。

 

20102015年ごろ

 

 ドイツ発のインダストリー4.0に対する関心が一気に高まりました。

それに関連し、現実世界のモノから収集したデータなどを基に、デジタル上で現実世界の状況を再現するデジタルツインにも注目が集まり、そのキーとなるIoT(モノのインターネット)技術が急速に進化していきます。

デジタルツインはモノづくりの下流工程に限定したものではなく、上流の設計領域にも適用可能なものであり、設計改善に高い効果を発揮します。一方、BOMの運用や設計の標準化に加え、製品の構成をモジュールとして考えるモジュラーデザインという設計製造手法が自動車業界から始まりました3D CADは製品の構成をパラメトリックなモジュールとして考える設計手法に適しているといえます。

 さらに、製品を機能ブロックとして捉え、シミュレーションを機能ブロックと連携させていく、モデルベースデザイン(MBDという手法が確立されていきます。これにより、従来機能ブロックごとで行われていたシミュレーションの結果が、影響を受ける連携先へと渡され、その上でさらにシミュレーションを実施するという連成解析が実現されるようになり、複雑化する製品開発全体のスピードアップが図られるようになっていきます。

 このような中、3D CAD3Dデータを起点とするエコシステムを構成する要素としても捉えられるようになり、設計を行う3D CAD、シミュレーションを行うCAE、設計情報を管理するためのPDMの存在はより注目を集めることとなります。

 

2015年~2020年ごろ

 3D CADによる可視化の話がありましたが、このころXRが台頭してきました(ここではVRを中心にお話します)。

3Dとはいえ、3D CADで設計した3Dデータの確認手段は平面のディスプレイが常識でしたが、VRの登場により、仮想世界の中でリアルスケールの3Dデータをさまざまな角度(視点)から確認できるようになりました

 また、3Dデータがなくても3Dスキャナーで実物を取り込んでデジタル化/VRに利用したり、工場などの空間全体を3Dスキャンして点群データ化し、そこに新規設備の3Dデータを挿入して設備レイアウトの検討に役立てたりすることも可能です。

このように、3Dツール/3Dデータを活用したデジタルエンジニアリングの世界がどんどん広がっていきます

 クルマの自動運転工場での良否判定などでAIMLの活用も急速に進んでいきました

さらに、簡単な作業や繰り返し作業などの自動化を支援するアプローチとしてRPAも登場しました。

 2020年に入り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界全体、われわれの社会や暮らしを一変しました。

ビジネスの観点でいえば、一向に進まなかった製造業でのクラウド利用もこのタイミングから変化してきた印象です。

特に、業務系を中心にクラウドコンピューティングによるアプリケーションが多く利用されるようになりました

コロナ禍でリモートワークに代表される働き方改革へのニーズも高まり、「デジタルで仕事のやり方を変える」という考えの下、急速にクラウドコンピューティングの利用が広がっていきました。そして、こうした変化は製造業DXという大きな流れへとつながっていくことになります。

 

とはいえ、2Dでの設計もまだ多い日本の製造業

 ここまで、節目ごとのトレンドを紹介してきましたが、国内製造業の設計現場の変化という意味では、残念ながら以前からあまり変わり映えしていないような気がします(変化があったにしてもそれほど大きくはないと感じています)

 お伝えしてきた通り、この20年もの間に、3D CAD3Dデータを起点とした業務プロセス変革を実現する新しいテクノロジーや関連するソリューションなどがたくさん登場し、その都度注目を集めてきました。

しかし、それらがどんなに素晴らしいものであっても、設計現場が2Dによる設計のままではそのメリットをフルに享受できません

 ご存じの通り、国内製造業では2Dによる設計が根強く残っているといわれています。

そうした現状を考えると、トレンドとしての盛り上がりほど、実際の変化は大きなものではないと推察します。

もちろん、2Dの設計を全面的に否定するつもりはありません。 

設計対象や規模、取引先との関係など、さまざまな要因によって“2Dのママが最適”と判断する現場があっても当然です。

2 日本の製造業では3Dによる設計がいまだに普及していない

   出所:2023年版ものづくり白書(経済産業省)

 

ただ、そうかといって、世の中で起こっている変化を無視する/見ないでいるというのは危険だと思います。また、いつ変化の波が来るかも分かりません。急に取引先や親会社が3Dへシフトするといったことだってあり得ます。今、何が起きているのか、そのトレンドだけでも是非つかんでおいてくださいこれは既に3D CADを導入している現場の皆さんにも共通していえることかと思います。

将来のDXの実現に向けてどんなことができるのか? 何が課題になるのか? トレンドを押さえておくことで見えてくるものがあるはずです。 





 

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