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(膨張予算)巨額の基金、企業が仕切る

官から運営委託、補助金審査も

20231020

朝日新聞デジタル

経済対策の補助金などに使う国の基金が急増している問題で、主要な業務の大半を民間企業に委ねる基金事業が相次いでいることが分かった。公的機関だけで執行を担えないほど基金の規模が急拡大したためだ。

補助金をどこに配るのかという政策的な判断が必要な業務も企業に委ねられ、中立性や公平性が問われる事業もある。



 一度の補正予算としては過去最大の8.9兆円を基金に投じた2022年度の第2次補正の事業について、朝日新聞がお金の流れを各省庁の資料から分析した。

その結果、予算計上された基金50事業計8.9兆円のうち、民間企業に補助金を配る事務局を委ねているものは8事業計3.9兆円分あった。

基金の多くは、独立行政法人や公益社団法人など公的機関が運営を担っている。

一方で、8事業では、一般社団法人などがいったん基金の設置を引き受けたうえで、補助金の支給先を決める審査を含む業務の大半を、広告大手や民間シンクタンク、人材派遣会社に委ねていた。企業に事務局を委ねた事業のうち、ガソリン価格の高騰を緩和するための基金や、住宅購入時に消費税の負担を和らげるための基金は、国が定めたルールに従って、企業が補助金を機械的に配っている。一方、残りの6事業は補助金を配る際に政策判断が必要となり、委託を受けた企業の裁量が大きい。

ワクチンの生産体制を支援する基金や、リスキリング(学び直し)を支援する基金などの4事業では、補助金支給の審査に加えて、補助の対象になる事業の要件や補助率などを定める交付規程も企業が作成。 所管する経済産業省が承認することになっている。

お金を複数年度にわたって使う基金は、単年度ごとに予算を組む省庁とは別の独立行政法人などに設置されており、国民や監督官庁のチェックが行き届きにくい。

さらに企業へと運営が委託されると、不透明さが増すことになる。企業には、情報公開法や刑法の収賄罪も原則適用されない。

「企業頼み」で運営される8事業のうち7事業を実施する経済産業省の会計課は、「コロナ禍後に業務が急増し、企業に外注せざるを得なくなった」と説明している。

巨額基金の執行を求められる中央省庁の現場は、どうやって実行に移すのかに苦慮している。

「予算獲得までは良いが、いざ誰が執行するかを決める段階になると、みんなさっと逃げ去っていく」

昨年度補正で新設された「中小企業イノベーション創出推進基金」の政府関係者は、こうぼやく。

この基金は、岸田政権が成長戦略の柱に据えるスタートアップベンチャー企業の育成に向けた目玉事業の一つ。

当初は、経済産業省所管の国立研究開発法人、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に運営を任せる予定だった。だが、NEDOには、経済安全保障や脱炭素など、近年新設された基金の運営が続々と任されていた。このため、「もう受けられない」とイノベーション基金の執行を拒否した。そこで文部科学省所管の国立研究開発法人、科学技術振興機構(JST)に打診したものの同じように断られたという。

やむを得ず、この基金の実施を担う農林水産省以外の4省庁は、一般社団法人、低炭素投資促進機構に資金の管理を担当させ、審査の支援など業務の大半を野村総研などに外注することにした。機構の関係者はこう解説する。

「うちには一切ベンチャー育成のノウハウが無い。だから、専門知識がある企業に実務をお願いせざるを得ない」

経産省関係者によると、2020年度補正で新設した「中小企業等事業再構築促進基金」も、独立行政法人中小企業基盤整備機構に運営を依頼したが、他の事業を新たに引き受けているとして断られた。結局、実務をパソナにほぼ「丸投げ」することで、機構が基金の設置に応じたという。

通常、予算は執行する体制を固めてから計上する。こうした基金の「受け皿探し」で見えてくるのは、本来の手順とは逆転した流れだ。

公益に関与 問われる公平性

こんな事例もあった。

コロナ禍では、ワクチンの海外企業依存が問題となり、急きょ国産ワクチンの開発生産体制の強化がクローズアップされた。

医薬品産業の振興は厚生労働省の担当だが、同省が感染拡大防止で忙殺されるなか、内閣官房は経産省にワクチン生産を強化する基金の一部を引き受けるよう指示した。

だが、「産業を所管していないのに、基金を運営する手足があるわけがない(経産省関係者)。企業に頼らざるを得ず、一般社団法人を介してみずほリサーチ&テクノロジーズに運営を委ねることにしたという。

これら基金の事務局を務める企業は、外部有識者による審査会を設置している。

野村総研は「公益性、公平性を担保しつつ業務を遂行しており、恣意的な影響力が及ぶことはない」、パソナは「委託契約に基づき適正に運営している」、みずほも「不当な審査を行うことはない」としている。

ただ、委託先企業は多くの事業で、外部有識者の推薦や補助金の条件の設定に関わっており、手続きの透明性や公平性がどこまで担保されているのかは不明だ。  

元会計検査院局長の有川博・日大客員教授は、「利益を稼ぐことが目的の企業が公益を最優先するのは難しい。有事に対応する必要があったにせよ、安易な基金の活用は改めるべきだ」と話す。


基金委託、はびこる「禁じ手」

「根幹業務」企業へ外注禁止、規定骨抜き 

基金運営の企業への委託のなかには、規模が小さな一般社団法人に1兆円もの巨額の公金が預けられている事例もある。持続化給付金をめぐる不透明な民間委託への反省から、経済産業省が導入した「トンネル団体」を防ぐルールが、早くも骨抜きにされている。 

東京・青山通り沿いの国連大学の裏手にある一般社団法人「環境パートナーシップ会議」(EPC)には、二つの顔がある。

一つは、環境保全活動や環境教育の展示などを行う環境団体。もう一つは、経済産業省が企業頼みで配る補助金の出入金を管理する団体だ。

EPCが国の基金の管理を始めたのは、設立3年後の2009年度だった。

リーマン・ショック後の不況対策で国が導入した家電や住宅のエコポイントなど13千億円にのぼる基金の管理を引き受けた。そこに積まれたお金は消化され、203月末に残高は56億円にまで縮小した。

しかし、コロナ禍を機にEPCが管理する基金は再び急増。経産省の四つの基金事業の管理を立て続けに引き受けたからだ。233月末の基金残高は9997億円となり、3年間で約180倍に膨れ上がった。管理する基金は、EPC本来の目的である環境との関連が乏しい事業が目立つ。

21年はワクチンの国内生産を強化する補助金を、22年度にはリスキリング(学び直し)を支援する補助金を配る事業を新たに引き受けた。EPCは、「SDGs(持続可能な開発目標)の理念に則した社会的意義の大きい事業について、業務を行わせて頂いている」と説明する。ただ、公表資料によると、EPCの従業員の総数は20人で、本部は14人。基金担当者はさらにこの一部だという。事業に対する知見や人員が不足するなか、経産省とWPCが頼るのが民間シンクタンク2社への事務局機能の外注だ。

例えば、リスキリング支援事業では、EPCは公募や審査だけでなく、補助金の交付規程の作成や広報、政策効果の分析も野村総研に委託した。EPCは今年度以降に332千万円をリスキリング事業の管理費として支出する予定で、この99%にあたる328千万円を野村総研への委託費に充てる。補助金の実施要領では、EPCは野村総研の「指導監督を行う」ことになっている。

だが、経産省会計課は「EPCの役割は基金の入出金で、事業分野の知見は期待していない」と話す。

 

「経産省流」責任の所在あいまい

経産省は21年、コロナ対策の持続化給付金で社団法人が広告大手電通に事業を丸投げしたことが問題化したのを契機に、「補助事業事務処理マニュアル」を改訂。

10億円以上の事業について、「事業全体の企画・立案、根幹に関わる執行管理」の外注を禁止した。企業への根幹業務の委託が続いていることについて経産省は「委託は経産省の指示で行われている。経由する社団法人などが行うべき業務はもともと資金管理だから、それ以外の業務を外注しても、規定違反ではない」と説明する。

悪用されれば「中抜き」が起きかねない不透明な契約を改めるはずだった規定は、早くも骨抜きになっている。事業が外注されれば、責任の所在はあいまいになる。

そもそも補助金の配布は、公共性や中立性が不可欠で、これまで多くの官庁では企業に委ねるのは「禁じ手」とされてきた。  

ある内閣官房幹部は、「国が責任を持つべき補助金の配分を企業に任せるのは経産省流で、もともと霞が関の発想にはなかった」と話す。                                           (大日向寛文)



 

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