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インボイス導入の大混乱を招いた「三悪人」

2023.10.04 

by 冷泉彰彦のプリンストン通信

101日から開始されたインボイス制度。同制度の導入を巡っては直前までフリーランサーが反対の声を上げ続けるなどまさに大混乱となりましたが、その原因はどこにあるのでしょうか。米国在住作家の冷泉さんが、官僚と野党議員、そしてメディア三者に責任があるとしてその理由を解説。さらに「インボイス問題」をどう解決してゆくべきかを考察しています。



「ご存知ですかキャンペーン」の不毛。インボイス導入の混乱を招いたもの

制度が変わる時は、いつもそうなのですが、国会に制度改定が提案されて論戦が行われる際には、国民に対して詳細は説明されません。

その代わりに、実際に法案が可決して制度が実施される時になって大騒ぎになるのです。

例えばですが、監督官庁は広告代理店に多額の税金を払って「ご存知ですか?」というキャンペーンをやったりします。

また、同時にマスコミもこの時点になって「混乱だ」とか「困る人が出る」などと騒ぐのです。

ここ20年、いや40年ぐらい同じことの繰り返しと言っても良いと思います。

消費税の導入、後期高齢者保険、子育て制度、そして軽減税率に今回のインボイス、いつもそうです。

法律を審議している時は、世論を刺激するような報道は伏せられて、法案が可決成立し実施段階になって「ご存知ですか?」キャンペーンを行う、こればっかりです。主権者をナメているというのもそうですが、これでは民主主義の利点である決定への全員参加による合意形成ということが成り立っていないと思います。

一体誰が悪いのでしょうか?

 

独自の正義感と優越感を持った中央官庁の官僚たち

1番目は中央官庁の官僚です。

彼らは独自の正義感と優越感から、自分たちが立案した新しい制度は「国のためになる」と信じて疑っていません。

 ですから、野党議員がいちいち自分たちの提案した法律案にイチャモンを付けたりするのは面倒であり、サッサと法案を通して欲しいと思っているのです。さらに言えば、中央官庁の官僚は制度を管理するのが仕事であり、実際に制度変更が実施される場合に困る現場、つまり各自治体や官庁の窓口の人々がどう困るのかなどには、そんなに関心はないと思います。

また今回のインボイス問題について言えば、財務省としてはそもそも「軽減税率」などやりたくなかったはずです。

それを公明党などがねじ込んできて、10%に統一すればいいのに8%も残って税率が複数になったわけです。

財務省としては、それで実務が面倒になるなど「知ったこっちゃない」という感覚もあるでしょうし、さらに言えば「8%に削減されて減った税収を、捕捉強化で取り戻す」ことも考えたに違いありません。 

欠陥人材が多い野党議員たち

2番目は、野党議員です。今回のこともそうですが、行政の窓口がどう困るのか、それ以前の問題として納税者は、中小事業者はどう困るのか世間を知らない議員の多い野党には、問題を聞き出す能力も、聞いて問題の根深さを理解する能力も欠けているのだと思います。野党と言えば、経済活動とは無縁で利益の追求は悪だなどという、全くおかしな宗教に染まっている人とか、政治も経済も「塾で学んだだけ」という立身出世そのものが目的化している欠陥人材が多いわけで、これでは制度変更に困る国民の代弁はできないのも当然だと思います。 

メディアの「今になって騒ぐ」という本末転倒の責任

3番目はメディアです。このインボイスの問題について言えば、実施が切迫する中でも「アニメーターなどが請求書のマネジメントができずに困っている」などという話ばかり取り上げていました。例えば、非課税業者に発注する課税業者の負担増の問題などは、図を書かないと説明できないようなネタで、視聴率は取れないなどとして情報番組のデスクは切ってきたのだと思います。

 地上波の体力が高額の間接部門コストでヘトヘトという中では、どうしようもないのかもしれませんが、やはり今になって騒ぐという本末転倒の責任はあると思います。


インボイス制度が狙うもの

 そもそも、なぜインボイス制度が導入されるのか。それは、「適正な課税の確保」と「益税の阻止」の2つ狙いが有る。

適正な課税の確保

「インボイス」とは「適用税率や税額の記載を義務付けた請求書」のこと。「適格請求書」という名称だが、領収書もレシートも納品書も全て適格請求書となる。

インボイス制度は、適格請求書によって消費税を計算し、正確に納付する取り組みといえる。現在、消費税は10%だが、食品や新聞などは8%の「軽減税率」が適用される。つまり10%8%2つの税率が混在している形になる。売り手が買い手に対して、この商品が消費税10%8%を正確に伝える必要がでてきてしまった。

こうした理由から、商品の消費税率や税額を明記する「適格請求書(インボイス)方式」が導入されることになった。

益税の阻止

もうひとつのインボイス制度導入の理由が「益税の阻止」だ。

益税とは、消費者が事業者に支払った消費税の一部が、納税されずに事業者の利益となること。

通常の事業者は、取引の際に消費税を乗せた金額を受け取り、売上から仕入れ分を引いた残りの額に相当する消費税を収める。例えば2,000円で仕入れて、事業者が3,000円で販売した場合、事業者は売上から仕入れ分を引いた額の10%である100円を納税する。ただし、売上高が1,000万円以下の小規模な事業者の多くは「免税事業者」で、この場合は消費税の納税を免除されている。納税が免除のため、消費者が支払った消費税300円のうち100円が納税事業者の利益となる。消費者と事業者の税負担額が不一致となるこの問題を「益税」とし、これを削減することもインボイス制度の狙いといえる。

 

免税事業者の仕組みは、平成元年(1989)に消費税3%を導入する際に、中小企業の負担に配慮する形で導入された

以来、30年以上にわたり続いているが、消費税免税の特例措置の条件は年々厳しくなってきてはいる。しかし今回のインボイス制度には「大きな転換が見られる」という。それは、従来「免税事業者の数を減らす」に力点が置かれていたが、インボイス制度以降は免税事業者だとビジネスしづらくなる施策になっているということだ。

前述のように、企業側が税負担が増える免税事業者より課税事業者を選ぶ、あるいは企業から課税事業者になるよう免税事業者に促す事例は増えていくだろう。

政府では、インボイス制度の導入で513万の免税事業者のうち、課税事業者に転換するのが約161万者、新たな課税事業者の1事業者あたりの税負担額は154,000円、導入で生まれる増収見込みを2,480億円と試算している。

国としての税収増は見込まれるものの、事業者や個人における対応負担はかなり大きい

発行した適格請求書の保存の義務化、受領した適格請求書(領収書や請求書等)の保存義務が生じるほか、「とにかく日々の記帳パターンが増大する」(freee)という。

新たに、免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置がスタートし、請求書にもその記帳が必須となる。受け取る領収書等にも適格請求書の新たな書式に準ずる必要が あり、対応すべきフォーマットが増大する。結果として、記帳負荷が大幅に増え、経理担当者等の負担も増えることは間違いない

これで終わりにすべき「ご存知ですか」報道と騒動

では、このインボイスの問題ですが、どうすればいいのかと言うと結論は1つです。

 「課税の平等と、川上から川下まで100%転嫁を実現する」 

これしかありません。報道するにしても、議論するにしても、この大原則を崩しては税制として成立しないと思います。

とにかく、日本というのは制度が現実に追いついておらず、様々な制度改定が必要な国です。

中には規制を思い切って緩和することもあれば、財源がないが必要な施策には受益者に不利益変更をお願いすることも多々あるはずです。そのような場合に、コソコソ法案を通すのではなく、法案審議の段階で徹底的に有権者に説明し、実務的な観点から「実現可能な代案」を野党は提出して、公明正大に決定をする、その決定には世論も、つまり有権者も参加する、そのようにしなければ、社会は前へ進みません。 

この種の「ご存知ですか」報道と騒動これで終わりにしなくてはなりません。


ユニクロ柳井正氏の「座右の銘」

ユニクロ柳井正氏が座右の銘にしている…

店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びるは誰の言葉か?

2023.10.04 

by 土井英司のビジネスブックマラソン

ファーストリテイリングの柳井正も心に留める、惜しまれつつ廃刊した雑誌「商業界」主幹の倉本長治の商人学。その真髄はどのようなものなのでしょうか。 

今回紹介しているのは、倉本長治の名言の解説などをもとに、商いをするうえで必要な考え方をまとめた必見の一冊です。 

必読⇒『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる』

本日ご紹介する一冊は、ファーストリテイリングの会長兼CEO、柳井正さんも推す、「商業界」主幹の商人学をまとめた一冊。著者は、惜しまれつつも廃刊となった雑誌「商業界」の最後の編集長で、現・商い未来研究所代表の笹井清範氏です。

柳井正氏は、本書のタイトルになっている「店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる」という言葉を座右の銘とし、執務室に飾っているようで、本書の解説も引き受けています。この解説部分がなんと16ページもあり、内容がまた「熱い」。 いま時のITビジネスの経営思想をバッサリ切り真の商売とは何か、経営とは何かを説いた内容で、ここだけでも読み応えがあります。

「はじめに」からは、元「商業界」編集長の笹井氏の執筆部分で、これは、全12巻の『倉本長治著作選集』をベースとした各種資料、倉本氏が評価した商品たちの思想、著者自身の取材体験を元に書き下ろされています。

  倉本長治の凜とした思想や日本を代表する商人たちの言葉があまりに美しくパワフルで、腐敗・混迷が続く現在の日本が恥ずかしく思えてきます。

何のために商売をするのか、商いはどうあるべきか、商人はどう生きればいいのか、改めて大事なことを教えていただいた気がします。

なかでも、いま問題となっている値づけの話、仕入れの話は、これからの商売の大きなヒントになると思います。

 個人的にはロングセラーのヒントもいただいて、大満足の一冊でした。

 さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。

✔ みんな儲かりそうだからとITやインターネットのほうへばかりに目を向けて、上場させるとすぐに

経営権をファンドに売ってしまう。私はそういう経営者はダメだと思います。最近の起業家は、在庫を

できるだけ持たない商売を探していると聞きますが、そんなの儲かるわけがないでしょう。 

そもそも、儲けようとしたら絶対に儲かりません。誰も人を儲けさせようと思って、応援してくれる人などいません(柳井正氏) 

✔ 「古くして古きもの滅び 新しくして新しきものまた滅ぶ 古くして新しきもののみ 永遠にして不滅(新保民八) 

✔ 「商売は損得の勘定より善悪の峻別のほうが大切だ 採算よりも善悪を第一に考えるのが根本である」 

✔ 愛をもって商えば、真実をもって売ることができます(著者) 

✔「利益なしでは続かないが真の目的は儲けではない だからお客様のために売らないことだってある」 

✔ 「お客様が一切れの塩鮭を見ているとき、本当は懐の財布の中を見ているんだよ」(ヨークベニマル創業者・大高善雄) 

✔ 「他人さまには幸せを、そして自らには厳しい鞭を。ここに商人としての真の道がある」とは、江戸時代に材木商から興った近江商人、菓子の「たねや」の経営方針の冒頭の言葉 

✔ お客様の利益を守りかつ己の利益も外さない 正しい利益を生み出す 不退転の売価を付けよう」 

✔ 「無理に売るな、客の好むものも売るな、客の為になるものを売れ(松下幸之助「商売戦術三十カ条」の一つ) 

✔ 「仕入れるときに威張って買うから売るときに頭を下げなければならない 

✔ 「従業員とは店を裏側まで知っているもっとも大切なお客様のことである」 

✔ 「本当の店とは商品が儲けるところではない お客様に得してもらうところと見極めよう」 

✔ 「生活者に幸福なお金の使い道を親切に知らせる活動を広告というのである」 

これの日めくりカレンダーを作って欲しいと思うくらい、良い言葉が並んでいます。 

 規模の大小を問わず、商売人には刺さる一冊ではないでしょうか。



 

最後までお読みいただき、有り難うございました。  ☚ LINK 

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