“地味な経営”を好むミズノ
2021/09/17
スポーツ用品のグローバル・ブランドであるミズノ。今回ご紹介する『ミズノ本 -世界で愛される“日本的企業”の秘密』(村尾 隆介 著/ワニブックス)によれば、同社は第二次大戦前から社会的インパクトのある広告戦略を打ち出し、世の中でトレンドになるよりも以前から社会貢献事業、SDGs経営に取り組んできたといいます。
本書を読み進めていくと、現在Biz/Zine読者の間でも関心の高いテーマである「Purpose経営」にも通ずるようなことが述べられています。
皆さんも、ミズノという企業の面白さに気付くことができるはずです。
CSR経営やSDGs活動を戦前から先取りしてきたミズノ
ミズノは1906年に創業した水野兄弟商会が前身となって、以降社名を変えながら今日まで事業を継続してきた、いわゆる“100年企業”です。創業時からスポーツ用品を人々に売り、第二次世界大戦の直後は大赤字を出しつつ、それでも経営を途絶えさせることなく事業を継続してきました。そして今では、“世界的有名企業”です。
著者によれば、ミズノは昔からブランド戦略や宣伝において特徴的であったといいます。
本書に書かれている例を紹介すると、それは1925年(当時:美津濃商店)の『アサヒスポーツ』にて掲載された広告に見ることができます。 1925年といえば既に第一次世界大戦が終結した後になりますが、日本人は明治時代の文明開化以来、ずっと西洋の文化や製品の虜になっていました。西洋の品は「舶来品」と呼ばれ、「和製品」と呼ばれていた国産品よりも優れたものとして定着していたのです。
そこに、株式会社になったばかりのスタートアップ美津濃商店が訴えかけます。それは、前述のような日本の現状を問題提起したうえで、「これからは『和製品』を『日本品』、『舶来品』を『外国品』と呼んでほしい」というメッセージでした。
国産品も西洋品と肩を並べるほどハイクオリティだと訴えることで、消費者の意識を変えさせようとしたそうです。
こうした“社会に物申す”ようなインパクトのある広告を、ミズノは遥か昔に打ち出していました。これは現在パタゴニアなどが行っている、注目を浴びている広告の手法です。また、この広告の背景には日本の小売や流通、内需拡大の進化を図ろうという社会貢献的な目的もあったようです。
このような例をはじめ、ミズノはこれまで社会貢献的な事業やプロジェクトに数多く取り組んできたと本書は述べています。
それも、CSRやSDGsが世界中で提唱されるようになるよりもずっと以前からだといえるでしょう。
たとえば、本書では山形県朝日町をプロデュースした同社の地方創生活動が紹介されています。
本取り組みでは、「もしもスポーツ用品のグローバル・ブランドが町をアスリートのように支援したら」という発想の下、「ASAHI TOWN Wears MIZUNO(朝日町民はミズノを着る)」というスローガンとロゴ入りのタグがついたコラボアイテムを、多数リリース。結果、人口7,000人程度の朝日町民のほとんどがそれらの製品を購入し、町のあらゆる場所で同社のアイテムを身に着けた人が見られるようになりました。さらに、町の高齢者がミズノのシューズを買うためにわざわざ電話をかけてくることもあるといいます。
プロジェクト発案当初は、“7,000人”という、大企業からしてみれば小規模のマーケットに難色を示す社員もいたようですが、結果として市場のほとんどを独占し、長期顧客まで獲得した本取り組みは、利益的観点から見ても大成功だったといえるのではないでしょうか。
著者はこの成功を、ミズノが「モノを売る」企業ではなく、「共に歩む」企業であるからこそ成し得たものだと述べています。
以上のような取り組みをはじめ、先進的な戦略や注目すべき取り組みを数多く生み出してきたミズノですが、本書では次に、同社の意外な信条について書かれており、それは積極的な取り組みの数々からは想像しにくい意外な内容でした。
「ミズノはビジネス誌に載らない」そのワケとは?
ミズノは水野 利八(みずの りはち)氏による創業からはじまり、現在は水野家4代目である水野 明人(みずの あきと)氏が社長を務めています。代々会社を引き継いでいるわけですが、100年以上の社史において変わることがなかった、同社の意外な一面について本書は述べていました。 それは、「派手を好まない」ということ。水野社長によれば、同社製品は性能面で非常に優れているものの、デザインが他のブランドに比べて地味であったり、マーケティングにあまりコストをかけていなかったりするといいます。
著者はこれを「日本的な『奥ゆかしさ』/『機能美』」と表現。
また、外資系ブランドのスポーツ用品価格が高騰していることに対し、ミズノは学生や子どもにとって、ちょうど良いパフォーマンスや価格のモノを豊富に揃えていると考察しています。派手さを好まない体質が製品に表れていることは、時に不利なのではと感じる人も多いでしょうが、だからこそ根強い信者やファンが生まれるということもあるのです。本書中にある水野社長の言葉によれば、これは決して意図的な施策ではないようですが、ある意味でミズノのブランド戦略になっているのではないでしょうか。
また、「経営」という観点においても、ミズノは“地味さ”を大切にしています。なんとミズノは、“ビジネス誌に載らない”そうです。
社長によれば、ビジネス誌に載るということは“もてはやされている”状態。それを続けていると、いずれ「失敗を語る」コーナーに登場するという信条を持っているのだといいます。 「企業の継続には成長・収益・インフラ投資のバランスが大切であり、急成長はそのバランスを崩す要因となる」と本書で述べている水野社長。
急成長中の競合他社も見られる中で、同氏は「うちはうちなりのやり方を」を徹底しているようです。
また、少子化が進む情勢を踏まえ、スポーツ市場がこの先大きく拡大していくとは考えていないようです。
よって、これまで同社が積み上げてきたノウハウや知見、他社には存在しない経営理念を活かし、スポーツ以外の新たな領域にも挑戦している最中だと本書で述べています。
いかがだったでしょうか。公の場であまり語ることがないというミズノと、水野社長。
本書は、ミステリアスでユニークな同社の正体を、経営や事業、アスリートからの評価など、さまざまな分野と観点で語っています。
私は、実際に読んでいくうちにミズノという企業の面白さと不思議さに惹かれていきました。
今後、世の中のビジネス環境が激しく変化していく中で、同社がどのような舵をとっていくのか皆さんも注目してみてはいかがでしょうか。
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ミズノのイノベーションセンターってどんなところ?
MIZUNO ENGINEは、同社創立115周年の節目にあわせて、スポーツによる社会イノベーション創出を目指した 新研究開発拠点をミズノ大阪本社敷地内に設立。 ☞ LINK
大阪ベイエリアの咲洲にあるミズノ本社の隣接地に地上2階建て、
延べ床面積5000㎡の研究拠点が完成しました。
総事業費約は50億円。
【LINK】
→イノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」が稼働開始
→ミズノ イノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」がオープン。インテリアデザインを、「コクヨ」×「ahd osaka」の合同チームが担当。
最後までお読みいただき、有り難うございました。 ☚ LINK
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