テスラが進歩させる「完全自動運転」の技術


2023.09.13 

 

by 中島 聡

 8月末、テスラの完全自動運転システム「FSDFull Self Driving)」の最新バージョンV12搭載車の運転席に座り、公道を走る動画を配信したイーロン・マスク氏。

その実力はいかほどのものなのでしょうか。今回 中島聡さんが、FSDの最新バージョンが従来のもと根本的に異なるポイントを解説。 さらにこのV12をきっかけに、「人間よりも安全な運転をする自動運転車」の開発が一気に進歩する可能性を指摘しています。


Tesla FSD V12Software2.0

先日、TeslaFSDFull Self Driving)の最新バージョンを発表し、Elon MuskXTwitter)を使って、生で実況中継を行いましたが(Tesla FDS V12)、そこでElon Muskがした解説がとても重要だったので、解説します。

Elon Muskによると、V12V11と違い、100%ニューラルネットワークで作られているそうです。

V11までは、従来型のソフトウェアと同様に、人間が作った、さまざまなルールやアルゴリズムに基づいて自動運転を行ってしましたが、V12からは、その手のコードを排除し、すべてニューラルネットワークの学習に任せたそうです。

従来型のソフトウェアであれば、

・車線とは何か。車線に従って走るべき

・自転車とは何か。自転車には接触しないように避けるべき

・信号とは何か。赤信号では止まらなければいけない

などのルールを人間が定め、それに従って自動運転をするようにプログラムを作っていました。

 しかし、V12からは、その手のコードをすべて排除し、人間が運転する自動車から撮影した映像を大量に学習データとしてニューラルネットワークに与え、そのデータから、ニューラルネットワーク自身が、「車線に従って走るべき」「自転車には接触しないように運転する」などのルールを見出し、実行するように作ってあるのです。

これこそが、Andrej Karpathy 氏が2017年にブログで語った「Software 2.0」であり、大量の映像データを持つTeslaだからこそできる芸当なのです。

最近、Teslaは、1万台の NVIDIA H100 GPU で構成されたスーパーコンピュータを作ることを発表しましたが(Tesla’s 10,000 unit NVIDIA H100 GPU cluster)、これはTeslaが、全面的にニューラルネットワークを使うソフトウェア作り(つまり、Software 2.0)に舵を切ったことを意味します。

 以前にも指摘したことがありますが、Software2.0の特徴は、一度その作り方が確立してしまえば、後は、大量のデータと大量の計算資源さえあれば、人間が作ったソフトウェアをはるかに凌駕する質のものを作ることが可能になる点にあります。

これまでは「人間よりも安全な運転をする自動運転車」を作ることは非常に困難でしたが、V12をきっかけに、一気に進歩する可能性が大きくなりました。 

(202395日号の一部抜粋)


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