中国も「失われた30年」へ
不動産バブル崩壊よりも深刻な史上最大の「デフレ国家」化
今市太郎
2023年8月22日
経営再建中の中国不動産大手・恒大集団がニューヨークの裁判所に破産手続きを調整する連邦破産法15条の適用を申請。不動産バブル崩壊で中国版のリーマン・ショックが起きるとの声も聞かれます。しかし、この一方で鮮明化しつつあるデフレ大国化の問題は、不動産バブル崩壊よりもはるかに深刻な状況を世界経済にもたらす可能性が出てきています。
いよいよ中国が「デフレ国家」へ
中国の7月の物価統計で、消費者物価指数(CPI)と生産者物価指数(PPI)がともに前年同月比で下落。
2020年以来の低水準となり、いよいよデフレ国家に転落かという観測が高まっています。
月次CPIは、食品とエネルギーを除くコアで0.8%増と1%を下まわる始末。PPIもGDPデフレーターもマイナスとなっています。
21世紀に入ってからは高度成長を謳歌し、指標が発表されるたびに実は鉛筆ナメナメ数字を盛って来たのではないかと言われてきた中国も、このデフレ状況を隠すことはできない状況に追い込まれていることが窺われます。
新型コロナが大感染していた時期には、こうしたネガティブな数字が出るのは驚くべきことではありませんでした。
しかし、この新型コロナ発生後、国民に湯水のように給付金をばらまき史上最大の緩和を実現してみせた米国は、案の定すさまじい「インフレ」に直面しており、ほかの主要国も軒並インフレ圧力の高まりを受けています。
そんな中にあって、中国だけデフレが猛烈に進行しているというのは、なんとも不思議な状況です。
結局のところ、新型コロナを克服して経済回復に向かっているように見えたこの国ですが、実は人類がかつて経験したことのないような大デフレ国家へと転落しつつあるという問題が明確に浮かび上がりはじめているのです。
時を同じくするように17日、経営再建中の中国不動産大手・恒大集団がニューヨークの裁判所に外国企業の破産手続きを調整する連邦破産法15条の適用を申請。その負債総額は2兆4,374億元(約48兆円)となっています。
さらには不動産バブル崩壊で中国版のリーマン・ショックが起きたと囃し立てる市場参加者も現れていることから、中国を取り巻く経済状況は急激に悪化していることが鮮明になっています。
不動産バブル崩壊は中国国内で片付く問題だが…
中国恒大集団の経営破たん問題はすでに何年も前から顕在化していたものであって、いきなり足元で起きているわけではありません。
なにより中国は資本主義風味の社会主義国ですから、国営企業に近い民間不動産企業の負債や不動産投資に失敗した国民への対応は、むしろ他の先進国よりも粛々と処理が進むことが考えられます。そのため、巷で言われているほど大きな問題にはならずに終息する可能性があります。しかし、この一方で鮮明化しつつあるデフレ大国化の問題は、不動産バブル崩壊よりもはるかに深刻な状況を世界経済にもたらす可能性がでてきているのです。
日本を超える長期停滞国へと転落してしまうのか
経済史の中における主要国の市場最大のデフレといえば、真っ先に思い浮かぶのが日本の1990年からの失われた30年でしょう。
このままの状況では、中国もこうしたデフレ大国として経済停滞をひきずっていく危険性がかなり高まります。
上述のように不動産不況はすでにその価格を下落させていますから、個人消費はポストコロナでもまったく回復していません。
さらには中国の消費の典型とも見られてきた高額商品の購入を控える消費者が激増しているといいます。
中国政府は長年電力価格を抑制してきていますから、エネルギー価格も下落しており、現象的には世界で類を見ないデフレ状態に陥っており、すでに中国国内で販売される自動車の価格は各社で値下げ競争へと突入しはじめています。
CPIのみならずPPIの下落はデフレの長期化を示唆するものとも見られており、いまや世界の一大消費国となった中国のデフレ長期化は世界の経済にかつてないような深刻な影響を及ぼすことが考えられます。
日本の「失われた30年」を十分に研究していると言う説も
ひとたびインフレの発生が深刻化しますと、それを沈静化するために、各国の中央銀行は相当なインフレファイトを余儀なくされます。
しかしながら、それよりもさらに難しい対応を迫られるのが、デフレの沈静化です。
30年の時を経ても、本邦はいまだにそれを完全に克服できず、歪んだ経済を引きずっているのが現状です。
ただ中国政府は、自国が日本的なデフレに追い込まれるリスクを早くから認識しており、日本の「失われた30年」について相当な研究を進めているという話も伝わってくるところです。
この知見が本当ならば、まず少子化対策により積極的に取り組むことになるでしょうし、中国人民銀行も利下げは行うことになるのでしょうが、日本のようにゼロ金利で金融抑圧を延々と続けると言った大失敗策には手を出さないことが予想されます。
四半世紀で「下り坂」へ
いまのところ中国ではさすがに旅行や飲食店などのサービス業支出は増加しており、この分野では物価は上昇しているといいいます。
このデフレ現象は、初期には多くの商品・サービスの値下げが行われることから、一見すると暮らしやすい状況となります。
しかし、これが行き渡れば経済活動はみるみる停滞をはじめ、最終的には働く国民の所得を減少させ、多くの人が職を失います。
その結果、支出はさらに減少して「負のスパイラル」に突き進むことになるのは、本邦の状況をつぶさに見ていればすぐに気がつくものでもあります。
この大型デフレ国の爆誕が主要国経済にどのように影響を及ぼすことになるのかは、依然、注視していくほかに方法はないでしょう。
しかし、21世紀初頭に世界を牽引したはずの高度成長国が、たった四半世紀でその座を明け渡して長期停滞国の道を突き進むことになろうとは、夢にも思わなかったというのが正直なところです。
果たしてここから中国はどうなってしまうのか。大きく注目される状況です。
※記事抜粋
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