異常な暑さのせい?虫の発生数が年々少なくなっている2つの要因
2023.08.24
by 池田清彦のやせ我慢日記
暑すぎて昼間は蝉の声もなく蚊も飛ばない夏。実は、夏に限らず昆虫の発生数が毎年少なくなっているのだそうです。その要因として考えられることを2つあげるのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの生物学者の池田清彦教授。今回は、昆虫が減っても困ることはないと思っている人に向けて、人類の生存すら危うくなる事態であることを説明し警告。虫好きの友人、養老孟司教授に誘われて赴いた対馬で固有種の蝶が減っているのは、シカの増加が関係していると伝え、対馬と日本本土や朝鮮半島の動物の違いについて考察。
昆虫が激減しているなか、対馬の動物について考えた
今年の夏はことのほか暑い。暑いためかそれ以外の要因のためか、このところ毎年虫の発生数が少なくなっている。
要因の一つは昆虫にとっては猛毒の、ネオニコチノイド系の殺虫剤を使うためだ。
ネオニコチノイドは昆虫以外の節足動物にも猛毒なようで、宍道湖の周辺の田んぼで、ネオニコチノイドが使用されだして以来、宍道湖のウナギとワカサギが激減したのは、ウナギの食べ物であるエビやゴカイ類、ワカサギの餌のオオユスリカがいなくなったためだ。これらの動物はネオニコチノイドに弱く、食べ物がいなくなったウナギやワカサギも共倒れになったのである。ネオニコチノイドを使った田んぼではアキアカネが激減したことも知られている。
もう一つの原因はスマホで使われる5Gではないかと言われている。ネオニコチノイドを規制しているEUでもこのところ昆虫の減少が激しいからである。ドイツの自然・生態系保護団体は、電磁放射線に晒された昆虫が、磁場の乱れにより飛行能力が低下したり、体内の細胞が過度にカルシウムを吸収して、概日リズムや自然免疫システムが混乱したりするという研究を紹介している。
珍しい昆虫が減ると、絶滅危惧種に指定して、採集禁止にすれば保護できると思っている、能天気な人もいるようだが、そういう問題ではないのである。
昆虫など減少しても人間の生活には影響がない、あるいは虫は嫌いなので、むしろ、いなくなってほしいと思っている人も多いと思うが、昆虫がいなくなると虫媒花に実がつかなくなってしまうので、農業に甚大な被害が出て、食糧難に陥ることは必定で、人類の生存も危うくなるのだ。生態系の生物は、お互いに支えあって生きている。人類も例外ではない。
それで、養老孟司にNHKの取材で対馬に昆虫採集に行かないかと誘われて、このクソ暑い中、対馬に行ってきたのだ。
対馬は平地が少なく、コメをほとんど作っていないので、ネオニコチノイドの使用量も少なく、少しは虫が採れるのではないかといった期待もあったし、行ったことがなかったので、昆虫以外の動物にも興味があった。はたして対馬の動物は増えているのか、減っているのか。
(ニホンオオカミ=タイリクオオカミの亜種)が1905年に絶滅して捕食者がいなくなったためと言われるが、韓国ではチョウセンオオカミ(タイリクオオカミの亜種)が絶滅したのが1968年で、ニホンジカはそれよりずっと前に絶滅していたのだ。
それでは朝鮮半島のシカはなぜ絶滅したのか。オオカミに食われてしまったのかしら?それはよくわからない。
対馬にはもともとオオカミはいなかったと考えられるので、近年シカが急増したのは、オオカミとは独立の要因だろう。
シカとは対照的に本土にたくさんいるニホンザルは対馬にいない。ニホンザルは更新世の30万年から50万年前に朝鮮半島を経由して日本列島に侵入したと言われているが、朝鮮半島や対馬のサルは、その後氷河期の寒さで絶滅したと考えられている。
青森県の下北半島にはニホンザルが分布するが、これは野生猿としては世界最北の生息地で、韓国よりはるかに北に位置する。
なぜ韓国より北に位置する下北半島のサルは絶滅を免れて、韓国のサルが寒さで絶滅したのだろう。おそらく、下北半島には、氷河期の頃ニホンザルは棲息していなかったか、いたとしても氷河期の寒さで絶滅して、氷河期の後、南の方から北上して下北半島に侵入したのだろう。その時すでに日本と韓国、あるいは日本と対馬は陸続きでなかったので、韓国や対馬にはニホンザルは侵入できなかったのだ。
ツキノワグマも対馬に分布していない。韓国には日本のツキノワグマの別亜種のウスリーツキノワグマが分布するが、自然状態ではほぼ絶滅らしく、人工的に繁殖させているようだ。更新世中期に日本、対馬、韓国が陸続きだった時には、対馬にも分布していたと思われるが、その後孤立した島となった後で絶滅したのだろう。
ツキノワグマのような大きな動物の個体群を維持するには、島の面積が小さ過ぎたに違いない──
2023年8月11日号より一部抜粋
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