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生成AIの衝撃

2023/08/24

iPhoneが登場したときのようなイノベーションのモーメントが、いま日本を含めた世界中で起きようとしている。

それはChatGPTに代表される、話題の生成AIによってもたらされる変革だ。転換期を迎えた新たな世界において、日本企業がとるべき一手とはいかなるものであろうか?

 AIやディープラーニングの分野で最先端の知見と経験を持つ東京大学教授 松尾 豊氏が、生成AIによって変化するビジネスと社会、日本企業の課題と向かうべき方向性について解説。



Ø  そもそも生成AIとは? 従来のAIと比べて何がスゴいのか

 生成AIは、業界やメディアで大きな話題になっているが、そもそも生成AIとは一体どんな技術だろうか?
 以前からディープラーニングによる生成モデルは研究されていたが、昨年から画像生成の精度が格段に向上したこと、さらに言語生成においてOpenAIChatGPTが脚光を浴びるようになり一気に生成AIに火が付いた。
 松尾氏は生成AIについて次のように説明する。
 ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)は、2017年にグーグルの研究者らが提案したTransformerという自然言語の機械学習モデルをベースにしています。また画像生成も2015年ぐらいに提案されたDiffusion Model拡散モデル)が使われています。研究コミュニティの間では、なぜいまになって話題になるのか? という思いもありますが、やはりChatGPTの登場が契機になったことは間違いないでしょう」(松尾氏)
特に最近は生成AIの重要技術として「基盤モデル」といった表現もあり、汎用的な言語モデルを利用し、用途に合わせてチューニングする動きが加速している。
 そんなトレンドが起きている理由は、もともと人工知能の研究にとって本質的な問題だからだ。

人は目や耳や体からモーダル情報を時々刻々と受け取り、背後の構造や知識を学習し、常に次の予測を行っている。

同様に文章生成も、次に現れる単語を予測するためにTransformerを使い、自己教師あり学習で事前学習を行う。
 もう1つ重要な点はスケール則だ。

大規模モデルになるほど精度が向上するのは、従来の機械学習や統計の常識では考えられなかった。

パラメータ数は適切にすべきで、とにかく大規模にすれば良いということに違和感があるが、ある大きさになると相転移のようにパッと精度が向上する興味深い現象が起きている。

このような発見により、いま生成AIによるパラダイムシフトが起きているのだ。
 以降では、多様な場面に広がる生成AIの威力と日本企業が取り組むべきことについて、解説する。

 

Ø  言語系、画像生成系など多様な分野に広がる生成AIの威力

 

 実際に生成AIの影響力を物語る数字として、ChatGPTの月間利用者数が1億ユーザーに達するまでに2カ月しか掛からず、瞬く間に広まった。ChatGPTを開発したOpenAIへの6月のアクセス数は19億回に上り、世界のGDP押上効果は7兆ドルにも達するそうだ。いかに世界にインパクトを与えたか分かるだろう。
 さらに生成AIの世界は、ChatGPTのような言語系にとどまらず、多くの分野で用途が広がっている。

たとえば画像生成系では「Stable Diffusion」が有名だ。これは入力されたテキストをもとに画像を生成するDiffusion Model(訓練済みのAIモデル)を搭載した画像生成AIであり、AIがオリジナル画像を数秒~数十秒程度で自動生成する。
 また顔をスワッピングする「Insight Face」や、画像データに関するQAChatで答える「Chooch」、プロンプトに応じたプレゼンテーションのスライドをつくる「BeautifulAI」、キャプションに応じたミーム(静止画やGIF)を生成する「Super Meme」、プロンプトで画像生成する「Adobe Firefly」、ドラッグポイントから多様な画像をつくることができる「DragGAN」など、さまざまな生成AIアプリが短期間で登場している。

その他の生成AIの事例。プロンプト入力で画像を生成する「Adobe Firefly」や、2次元画像のドラッグポイントから多様な画像を生成する「DragGAN」も便利だ

 いま松尾研究室でも生成AIを大いに活用しているという。

たとえば同氏は英語のメールを書くとき、文章を膨らませるためにChatGPTを使っている。研究室でも、研究室内の文書を検索可能にしChatGPTで答えられるようにしたり、採用面談時に何を聞けば良いのかをサジェストするアプリや、旅費精算アプリなども学生が生成AIを利用して開発したりしているそうだ。

 「先般も面白いことがありました。フォーマットが異なるデータベース・テーブルをマッチングして統合するためのオントロジーマッチングを、ChatGTPのプロンプトから質問するだけで、あっという間に学生がつくってしまいました。部下に仕事を丸投げするのではなく、LLMに丸投げするという新たなアプローチだと驚きました」と松尾氏は感心する。実際に2019年に登場したGPT-2からAIかいわいでは大きな衝撃を与えて社会をざわつかせたが、さらにGPT-33.54とバージョンが上がるごとに急激に進化している。従来より質問の意図を読んで答えてくれるようになり、使い勝手も相当良くなってきた。


Ø  海外や国内における生成AIの最新技術と業界の動き

 海外の生成AIにまつわる最新技術を見ると、ChatGPT以外にも多くのソリューションが矢継ぎ早に登場している。

いま松尾氏が注目しているのは、パランティア・テクノロジーズだ。同社のデータパターンを識別するソフトウェアとLLMの相性は非常に良いという。
 一方で、日本ではプロンプト・エンジニアリングがブームになっており、ChatGPTBardのようなアプリの使いこなしに注力しているが、これらは海外サービスばかりだ。これらを使っても、日本がもうかるわけではない。

日本が失われた30年を取り戻すべく、生成AIで巻き返すにはどうすれば良いのだろうか?
 この点について松尾氏は「シンプルに考えるとChatGPTのような生成AIから入るのは良いことですが、結局はDXの話に帰結すると思います。いくら生成AIを導入しても業務プロセスを変えなければ意味がありません。付加価値に結び付けてこそ対価が返ってくるからです。AIで大きな産業を立ち上げるよりも、既存の産業をいろいろな形でエンパワーするために、生成AI技術が重要な役割を果たす点を理解する必要があります」と力説する。

 つまり生成AI単発よりも、これまで培ってきた技術との連携の中で、生成AIを利用してどのようにトランスフォームしていくのか、自分たちの利益につなげるのか、連続した観点で捉えることが大切になるわけだ。

 

Ø  正念場を迎えた生成AIの導入段階、政府が取り組む3つのポイント

 松尾氏は政府のAI戦略会議で議長も務めているが、実際に政府が取り組んでいること、また今後取り組むべきことは多いと語る。
「まずはリスクへの対応があります。個人情報や機密情報を生成AIに入力しないようにしたり、クリエイターのコンテンツを侵害しないようにするなど、現行法をしっかり周知し、新たなガイドラインをつくることが第一です。政府では多くの対象者に寄り添った形で進めています。2つ目は利用に関することで、生成AIをうまく活用し、企業の生産性向や社会問題の解決につなげていくDXを推進すること。3つ目は今後の生成AIのポテンシャルを考えて、日本でもしっかり開発を行うことです。計算資源が圧倒的に足りないので、国が支援しようと動いています」と指摘する。
 そういう意味で、日本もこれまでないスピードでの生成AI活用が政府主導で動いているという。

現状では、個人情報の不適切な扱いや著作権侵害、さらに教育への弊害などで、生成AIの活用を制限しようとする動きもある。またAIが人の仕事を奪うのでは? という懸念も一部で起きている。

そこで政府がガイドラインを整備し、ベストプラクティスを提示できるようにしなければならない。
 松尾氏は「生成AIで何かをやるときにリスクや懸念があると、個人に責任がのしかかり及び腰になってしまいます。そこで国や日本ディープラーニング協会のような団体が指針を示すことで、企業も安心して導入できるようになると思います。しっかりと情報を発信し、日本全体で進めるようにしなければなりません。まさに正念場に来ていると感じます」と強調する。

 

Ø  パナソニックコネクトや村田製作所、生成AIを活用する日本企業

 とにかく良い事例をメディア側も拡散し、機運醸成につなげていく必要があるだろう。

すでに金融系では3大メガバンクがOpenAIの技術を利用することを表明している。

パナソニックコネクトや村田製作所など、生成AIの導入に本腰を入れ始めた大企業も増えているが、さらに次の段階に進むには、組織内の情報を「機密情報として注意を要するレベル」「利用規約には呈しないレベル」「普通に使えるレベル」に区分けして活用を考えることが大切だ。あらためて企業内情報の運用ポリシーを明確にすることが求められる。
 松尾氏は「実ビジネスでも活用され始めたとはいえ、まだ生成AIは技術的には黎明期であり、生まれたばかりの赤ちゃんの段階ですが、今後さらに進化することは間違いありません。例えば、インターネットは情報をつなぐという単純な役割でしたが、それだけでここまで大きなインパクトを社会にもたらしました。生成AIのインパクトが今後社会に広がっていけばどれほどのものになるのか予想がつきません」と指摘する。
 生成AI、特にLLMは言語モデルなので、人間に関わる言葉を使った仕事が効率化されていくということだ。

究極的には1000人でやっている仕事が、数十人レベルでもできるようになるだろう。

このような革新がさまざまな業界で起きてくるため、将来的には人が多くいる状況が不利になるかもしれない。
「とはいえ技術進化やアプリの浸透はすぐには起きません。一番導入しやすいところから変化するでしょう。究極の姿に向け、どこから変化が起きるのかを考えながら動くことが大切です。マクロな方向性はブレないので、どこから始まり、どんな順番になるのか? といったことを念頭に置かなければなりません」と松尾氏は今後の心得を指南する。

 

Ø  日本の企業や組織が生成AIに取り組むべき次の一手

 生成AIは、労働人口が減少する日本において救世主になるだろう。

ただし、自社の事業が社会にどんな付加価値をもたらすのか、そして生成AIで新しいビジネスをどう実現するのかを考える必要がある。いったん既存の事業から離れ、まったく別の視座から社会変化が起きるか、そこからどんなサービスや産業が生まれていくのかを考えることも重要だ。
 技術的、あるいは研究テーマの観点でいえば生成AIのポテンシャルは大きい。
今後はLLMのパラメータの大規模化だけでない方向に行く可能性もある。

どれだけ質の高いデータを用意して学習させられるかという観点から、さらに専門領域でのLLMが登場するかもしれない。

LLMの活用により、実世界のロボットなどの知能化を図る動きも始まっており、今後ブレークスルーが起きる可能性もある。
 松尾氏は「そういう意味では、今後5年から10年でいろいろなことが劇的に変わり、産業や社会だけでなく、人の考え方さえも変化していくような、本当に面白い時代に突入していくでしょう」と期待を寄せる。
 生成AIは今後、iPhoneと同等の衝撃をビジネスや社会全体にもたらすだろう。

iPhoneによるモーメントがデジタルを一般大衆化したのと同様に、生成AIAIを民主化する時代の旗手になり、かつての産業革命に近い動きをみせるかもしれない。
 最後に松尾氏はChatGPTについて、ここまで日本企業は世界の動きとシンクロしながら良い感じで進んでいます。スタートダッシュは素晴らしいので、このまま潮流に乗り、ぜひ次のステップに進んでほしいと思います。まず企業内で社員が使える生成AI環境を整備し、さまざまな文書を検索できるようにした上で、ChatGPTで活用できる仕組みを構築しましょう。さらに業務に踏み込んで、自社で効率化できそうなアプリをLLMで作ってみると良いでしょう。同時にシステムやデータベース周りも見直し、コスト削減や付加価値につながるDXを実現していく一連の流れをつくってください」とアドバイスした。




 

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