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まるで政治家の財布のようにバラ撒かれる税金


なぜ国民が納得できない支出と増税ばかりになったのか

斎藤満

2023817

政府は国民から税金を預かっていて、それを国民に代わって必要なところに使うという意識がありません。財政効率が低下しており、その要因として政治権力によるバラマキが大きくなっていることが挙げられます。

オリンピックや万博の名のもとに、大きな金を動かし、その中間マージンを政治家やIOCなどの主催者、政府と親しい企業が「抜く」ことで「漏れ」が大きくなります。


日本の政府債務は深刻

日本の政府債務をグロスで見るか、資産を差し引いたネットで見るかでその評価は分かれます。

グロスの債務は1,500兆円を超え、GDP2倍を優に超えますが、資産900兆円余りを差し引けばGDPをやや超える程度で、欧米並みとなります。市場の失敗、弱者救済に財政は必要です。経済に需要不足があれば、財政需要の追加も正当化されます。

しかし、その規律のなさが展望の開けない財政危機の不安を強めているのも事実です。

先に債務上限問題で市場を脅かした米国よりも、むしろ日本のほうが規律のなさという点では深刻な状況にあります。

景気調節機能が低下

社会保障、道路建設など市場機能に任せられない分野に財政出動が必要なことは論を待ちませんが、これまで大きな柱となってきたケインズ主義的な財政による景気調節機能は低下してきました。経済が成熟して道路やインフラ整備による公共事業の呼び水効果が低下したこともあります。近年はむしろ景気対策には金のかからない金融政策に委ねる面が世界的に高まりました。

実際、景気対策の乗数効果が低下し、投下資金当たりの成長支援効果は年々低下しています。

そのやり方にも問題があり、財政資金が介在する政治家やあっせん企業のマージンに消える分が大きくなり、投下資金の割に「真水」が少なくなっていることもあります。

実際、中央政府だけで年140兆円もの支出を続けながら、政府支出も、民間需要への波及も限られ、低成長が定着しています。

政治権力による支出性向

その裏で、財政効率を低下させている要素として、政治権力によるバラマキが大きくなっていることがあります。

オリンピックや万博の名のもとに、大きな金を動かし、その中間マージンを政治家やIOCなどの主催者、政府と親しい企業が「抜く」ことで「漏れ」が大きくなります。

当初予算よりはるかに拡大した五輪予算が国や東京都の財政を圧迫しましたが、60年前のような「五輪景気」は実現しませんでした。

またさらに大きな権力で日本を動かす米国政府や企業が、5年で43兆円もの防衛費を日本に求め、その多くが米国製の兵器購入に充てられ、負担だけ増えて日本経済には貢献しません。イージス艦や戦闘機の整備も日本は手を出せず、米国任せです。

いざというときに米軍が日本のために戦う保証もありません。

防衛費増税への国民の批判が強まると、これをかわすために今度は「異次元の少子化対策」として富裕層にも児童手当がばらまかれ、その財源負担の議論が封印されたままです。

まずは支出ありきで、その政策により、少子化にどんな成果が期待できるのか、その目標さえ示されない無責任さです。

コロナ・ワクチンも国民に新型ウイルスの不安を抱かせたうえで、欧米のワクチンをほぼ強制的に接種させ、大金を欧米医薬品業界に払いました。その副作用で亡くなった人や副反応の大きさと、コロナ感染回避のメリットの比較も検証されていません。

単年度主義対個別予算型

政府は国家権力を利用して財政を政治家の財布のように使いまくっていますが、これを許す要因の1つになっているのが、予算の単年度主義です。米国の個別案件ごとに歳入を基にした歳出をセットで提示するのではなく、歳出を別に議論し、その財源は年度の税収、国債発行などで「どんぶり勘定」になるので、個別案件の歳出に対して財源問題が制約になりません。

今回の異次元少子化対策も、歳出だけでなく、その大規模な児童手当をだれがどう負担するのか、同時に議論させれば、このようないい加減な歳出計画にはならなかったと思われます。

日本も米国のように個別案件ごとに歳入歳出を同時決定する形にしてはどうかと思います。

 

法的縛りのない日本

また、欧米では政治家による財政資金の乱用を避けるために、法的な縛りを設けていますが、日本は野放図となっています。

EUでは毎年の財政赤字をGDP(国内総生産)3割以内と決め、政府債務残高についてもGDP6割までと決めています。

コロナ禍や金融危機に際しては猶予を認めますが、平時に戻ればこれが適用されます。

一方米国では連邦政府債務の上限が決められていて、これが歳出の大きな制約になっています。

コロナやウクライナ戦争などで歳出が膨らみ、国債の利払いもできない状況になれば、さすがに官邸は議会に債務上限引き上げを求めますが、議会も無条件ではこれを飲まず、今回も今年来年の歳出を強く制限する条件のもとで上限が引き上げられました。

日本にも何らかの法的な縛りが必要です。

 

金利による市場の警告を排除

さらに財政規律を緩めてしまったのが日銀によるゼロ金利政策、YCCです。

通常、政府が財政赤字を拡大し、国債の増発懸念が出れば、債券市場では国債の需給悪化を読んで長期金利が上昇します。

まして今の様なインフレが重なれば、長期金利は3%程度になっていてもおかしくありません。それが政府に暗黙の圧力となります。

ところが、日銀が国債の過半を買い上げ、国債需給が実態を反映しなくなり、債券市場からの財政悪化に対する「警告」が発せられなくなりました。長期金利は一時マイナスとなり、YCCの弾力化を決めた後でも依然として1%を大きく下回っています。

インフレ率が3%を超えているだけに、実質金利は2%を超える大幅マイナスとなっています。

このため、政府内や政府に近いエコノミストからは、金利コストが低いうちに国債を大量発行してでも歳出を拡大し、成長を高めるべきとの議論が飛び出します。

国民から税金を預かっているという意識が欠如している

政府は国民から税金を預かっていて、それを国民に代わって必要なところに使うという意識がなく、政治権力により、政治家の自由な判断でいくらでも使える、という意識が「異次元少子化対策」に反映されています。

以前から指摘しているように、すでに子を持つ世帯に児童手当を厚くしても、出生率は上がりません。

問題は結婚したくても経済的制約で結婚できない人が増え、これが少子化に結び付いていることですが、的外れな少子化対策に大金をつぎ込もうとしています。今からでも白紙撤回して、無駄遣いを排除してもらいたいものです。

政治家に規律が働ないのであれば、制度面から財政規律を設け、これに従ってもらうしかありません。

今のプライマリー・バランス2025年黒字化も、掛け声だけで何ら縛りがなく、これを実現しようとの努力も見られません。

信頼できない政府には大きなお金を預けることはできません。規律の回復までは「小さな政府」でリスクを最小化するしかありません。  *以上、記事抜粋


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