なぜビッグモーターと損保ジャパンは癒着したか?
保険営業のプロが指摘する構造的な“矛盾”と保険業界全体への余波
奥田雅也
2023年8月5日
現在、何かと話題となっているビッグモーターの問題ですが、自動車保険関連の問題も出ており、保険業界にいる我々にとっても影響が波及してきそうな状況です。一番の問題点は同社の業績至上主義や無秩序なコンプライアンス・ガバナンス体制であり、どちらかと言えば「個社の問題」であると言えます。ただ、この「個社の問題」を生み出した背景には、自動車業界と損害保険業界が抱える構造的な矛盾が原因であると言えます。
ビッグモーター問題が「保険業界」全体に影響する
現在、何かと話題となっているビッグモーター社(以下BM社)の問題ですが、自動車保険関連の問題も出ており、保険業界にいる我々にとっても影響が波及してきそうな状況です。
本メルマガはあくまでも法人保険営業がメインテーマですが、今回は損保会社を巻き込んだ騒動になっており、保険業界人としては看過できないと思い、取り上げました。
本件が今後、保険業界にどのような影響を与えるのか?に私は興味があります。
※なお、本稿はあくまでも奥田個人の意見・見解であり、所属団体や所属会社の意見ではないことを十分に踏まえた上でお読みください!
まずはいろいろな報道から、事実関係を時系列で確認します。
<2021年11月>
BM社の社員が保険金の過剰請求をしていると損保協会へ通報。
<2022年2月~3月>
損保3社がサンプル調査をしたところ、保険金不正請求が疑われる事案を複数発見。
<2022年6月上旬>
損保3社が合同でBM社に対して自主調査を依頼。同時に3社がBM社への事故車の入庫誘導を停止。
<2022年6月下旬>
BM社から損保社に対して不適切な保険金請求があったことを報告。BM社は現場のミスが原因であると報告。
<2022年7月>
BM社への事故車誘導を止めていた損保ジャパンが「組織的関与はなかった。
再発防止策を徹底させる」とのリリースを出して事故車誘導を他2社に先がけて再開。
<2022年8月>
週刊誌が一連の騒動を報道。
<2022年9月>
報道を受けて損保ジャパンは再度、事故車の入庫誘導を停止。
<2023年2月〜3月>
不正改造や車検の不正が発覚し、一部店舗で業務停止処分や民間車検場の指定取り消し処分を受ける。
<2023年4月>
タイヤに穴をあける不正整備を指導した動画が流出。
<2023年7月>
不正請求に関する報道が出た後、公式HPにて「当社板金部門における不適切な請求問題に関するお詫びとご報告」というリリースと社内の処分を公表。
その後25日に代表取締役の交代、28日には国土交通省が立入検査を実施。
という流れです。
(参照)
ダイヤモンドオンライン:https://diamond.jp/articles/-/310206
Friday DIGITAL:https://friday.kodansha.co.jp/article/307591
ビッグモーター公式HP:https://www.bigmotor.co.jp/
その後、街路樹問題や架空契約などは報道の通りです。最新の情報は日経新聞に特設サイトがありますので、ご確認ください。
問題の背景には、自動車業界と損保業界の構造的な「矛盾」があった?
今回、一番の問題点はBM社の業績至上主義や無秩序なコンプライアンス・ガバナンス体制であり、どちらかと言えば「個社の問題」であると言えます。
ただ、この「個社の問題」を生み出した背景には、自動車業界と損害保険業界が抱える構造的な矛盾が原因であると言えます。
自動車販売業者が、自賠責保険を取扱い、顧客の要望によっては自動車保険の任意保険の取扱いも行います。
自賠責保険はご存じの通り強制保険ですから、加入していなければナンバープレートが交付されませんし、車検も通りません。
そして自賠責保険は国の制度ですから、保険会社によって違いがないので、どの保険会社で自賠責保険に加入するか?は自動車業者に任されています。
自賠責保険は「ノーロス・ノープロフィットの原則」に基づき、損失も利益も出さないよう収支を調整するために、保険料は毎年検証が行われ、必要に応じて保険料は改正されます。一部報道では、自賠責保険料に含まれる付加保険料部分に保険会社のメリットが生じるとされていますが、私にはこの真偽のほどは分かりません
ただ保険会社として、自賠責保険は収入保険料として売上計上ができるために、多くのシェアが欲しいのは事実です。
そこで契約者の意向が全く関係のない自賠責保険をどこの保険会社へ出すかは自動車業者の裁量に任されているので、どうせ出すなら自社にメリットを提供してくれる保険会社へ自賠責保険を出すというのは自然な流れになります。そのために保険会社が、自動車事故発生時に入庫誘導したりして、自動車業者へメリットを享受することも容易に想像できます。
この力関係の中でBM社は、保険金の不正請求にまで手を染めてしまい、持ちつ持たれつの関係にある損害保険会社各社も発覚するまでは強い指導ができなかったのでは?と想像します。
自動車業者と保険会社のマッチポンプ状態は不正の温床
こう考えると、今回のBM社問題は個社の問題ではありますが、自動車業界と損保業界の関係がそもそも不正を生みやすい温床になっていたのも事実だと思います。
自賠責保険と任意保険を自動車業者が取扱いを行い、損保会社が保険契約を引き受け、事故があった場合には自動車業者が修理をしてその代金を保険会社へ請求する
というマッチポンプ状態は、不正の温床と言えるのではないでしょうか?
実際にここまで大規模な不正は珍しいですが、軽微なものであれば多くの修理工場やディーラーでも多数発生しているのでは?と推察してしまいますよね……。
この様に考えますと、今回の一件でBM社の代理店委託契約を解除しただけでは、第二・第三の不正を防ぐことはできませんので、抜本的な改正が必要だと考えます。
どうすれば防げるのか
個人的には自賠責保険の現行制度を改め、自動車税に付加する形で国や地方自治体が強制的に集金し、自動車業者や保険会社を介在させない仕組みが良いのでは?と
思います。なお、車検制度自体も見直せば良いのでは?と思いますが、自賠責保険の制度変更自体が相当な難問なので、車検制度変更よりも自賠責保険の制度改定は
急務だと思います。
さらに踏み込むのであれば、自動車関連業者から自賠責保険だけでなく任意保険の取扱いについても止めさせるのが、業界健全化には必要だと思います。
どうしても事故車や故障車を修理して保険会社から保険金を受取る業者と保険契約を媒介する業者が同じだと、不正の温床を完全に解消することは困難です。
そのために自動車関連業者ならびに関係法人での保険代理店業の登録を停止させて、はじめてBM社問題の根本解決と言えるのではないでしょうか?
この改定が実施されれば、街の損保代理店は自動車保険が自社に流れ込んでくるので喜ばしいことの様に思えるかも知れませんが、私は逆に自動車保険が損保代理店の
経営を逼迫する事態に繋がると思うので、自動車保険専門の保険代理店が台頭するのでは?と考えています。
とは言うものの、自賠責保険の制度改定は正直いって無理だと思いますので、今回のBM社騒動の顛末は、一部保険会社に金融庁が業務改善命令または業務停止命令を
出して終わるだけだと思います(笑)。
そして損保各社がこの問題で揺れている間に、とばっちりを受けるのは損保系生保各社でしょうね(笑)。
損保社と損保代理店は忙しくなって、生保をやっている余裕が無くなるでしょうから…。
いずれにせよ、BM社問題が保険会社に波及する影響と今後の動向は、注目して見守りたいと思います。
損保業界は何も変わらない?
今回のBM社騒動だけでなく、損保業界は手数料ポイント問題やカルテル問題などで騒然としていますね。
損保の取扱いを停止した私にとっては完全に対岸の火事ではありますが、長年いた業界だけに、今の状況がどう収束するのか?は非常に興味があります。
BM社問題は個人的に、BM社は他社に売却され店舗は看板が変わって営業継続し、損保業界は金融庁からお叱りを受けただけで保険業界は結局何も変わらないというのがオチだと思っています(笑)。
最後までお読みいただき、有り難うございました。 ☚ LINK
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