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実現性の高い日本の半導体・デジタル産業戦略とは

半導体・デジタル産業戦略における半導体分野売上高増加目標

出所:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略」

弱きを助けるよりも強きに頼れ!

2023年07月18日 公開

[大山聡(グロスバーグ),EE Times Japan]

経済産業省は2023年6月6日、日本の半導体、情報処理基盤、高度情報通信インフラ、蓄電池などの産業に関して今後の政策の方向性を定めた「半導体・デジタル産業戦略」の改定を取りまとめ、274ページに渡る膨大な資料を公表した。本戦略は「具体的プロジェクトを進めることで現実を変えることが目的である」とし、半導体・デジタル産業を取り巻く状況、政府の実施状況、目指すべき方向性、などについて述べられている。

筆者としても、方向性や重要性については経産省に賛同する一人だが、進め方や戦略については必ずしも賛同していない。



目立つ現実とのギャップ

 経産省は本戦略の「個別戦略」として、半導体分野、情報処理分野、高度情報通信インフラ分野、蓄電池分野、について目指すべき方向性について述べている。

 まず半導体については、現在5兆円にとどまっている国内半導体生産を、2030年に15兆円まで拡大させるとしている。

TSMCの熊本県への工場誘致やRapidusの設立など、経産省は積極的な政策を展開している。だが、この目標設定は現実感が乏しいと言わざるを得ない。

世界半導体市場は、2030年には100兆円を超える規模に成長しているだろう。この点を踏まえると「国内生産では15%くらいのシェアを維持したい、そうすれば2015年当時までのシェアに回復できる」という狙いがあるかもしれない。ただ、得意だったメモリ事業で韓国や米国のメーカーに敗退し、これをどう巻き返すのか。もともと不得意だった先端ロジックでシェア拡大を狙えるのか。そもそもこれだけの生産規模を実行する人材をどうやって確保するのか。公表された資料には「やるべきこと」が詳細に記述されているが、読めば読むほどハードルが高いと感じる。現実とのギャップを意識せざるを得ない。無理に設定すべき目標とは思えない、というのが筆者の率直な感想である。

 ちなみに資料では、パワー半導体やアナログ半導体の強化についても言及し「国内での連携・再編を図ることで、日本全体として競争力を向上する必要がある」と述べている。しかし、その連携・再編が極めて困難であり、実現に至っていないのが現状である。資料に書かれていることは極めて正論だが、どうやって実現するのか、というイメージが沸いてこない。次世代半導体の設計人材育成についても記述があり、大学や研究機関との連携方法についても正論が述べられている。電気・電子分野に進もうとする学生が減少し続けていることを考えると、やはり現実とのギャップが目立ってしまう。 情報処理分野については、量子コンピュータへの取り組み、生成AIの開発、人材育成などの戦略が述べられている。高度情報通信インフラ分野については、データセンタの整備、オープンRANRadio Access Network:無線アクセスネットワーク)への取り組みなどの戦略がまとめている。筆者はいずれの分野も門外漢であり、半導体戦略に対してのような「突っ込み」を入れることはできないので、ここで私見を述べることは割愛させていただく。 

弱くなったので補助金を出すという発想

 蓄電池分野については、2030年までに国内でリチウムイオン電池製造150GWh、グローバルで同600GWh(世界シェアの20%)、そして全固体電池の本格実用を目指す、としている。かつてはソニーあるいは三洋電機といった日系企業がトップシェアを誇っていた分野だが、クルマの電動化でEV市場が急速に立ち上がりつつある現在、日系企業のシェアは大きく減退してしまった。日系トップのパナソニックが8%前後の世界シェアを維持しているが、中国や韓国の電池メーカーの積極的な投資戦略に追随できず、現在のシェアを維持することも困難になりつつある。その流れを食い止めるためにサポートしよう、補助金を出そう、という判断なのだろうが、筆者にはこの考え方に強い違和感を持ってしまうのである。

 ストレートに言えば、強かった分野が弱くなった、だから補助金を出そう、という発想に賛同できないのだ。なぜ弱くなったのか、という原因を突き止めずに補助金でサポートする、というのは発想としていかがなものか。原因も追及せずにサポートだけを続けると、ますます弱体化したり、健全な市場形成ができなくなったりするのではないか。

こんな疑問を持つのは筆者だけではないだろう。

 

民間企業を「その気」にさせることが肝心

 筆者は本連載で20229月に「不況期に向かう今、日本の半導体産業の『あるべき姿』を考える」という記事を書いた。

ここでは、経産省が打ち立てる半導体関連政策に対して「明確なコメントを述べる半導体経営者がほとんど存在しない」「メディアが半導体のことを取り上げても、

業界 トップからの反応は全くといって良いほど見られない」という経産省と民間企業のギャップを指摘した。

実際にプレーする民間企業の同意が得られない状態では、経産省がどれだけ正論を唱えても意味がない。

民間企業を「その気」にさせるにはどうすべきかを考えるべきだ、というのが筆者の主張である。

 なお、その記事では電子部品メーカーを主体としたフォーメーション、半導体製造装置メーカーを主体としたフォーメーション、機器メーカーのシステムノウハウを

ベースにファブレスを育成するフォーメーションなど、筆者の思い付きの延長のようなアイデアを述べた。いずれも実行に移すにはまだ多くの課題があると思われる。

しかし、日本の強みである電子部品や半導体製造装置を主体に考えることで、もっと現実的で具体的な戦略を立案することができるだろう。

かつて「システムLSI」という実体のない言葉に振り回されて具体的な戦略を立てられなかったことを反省し、「機器メーカーのシステムノウハウをどうやって半導体に 落とし込むか」を考えれば、ユーザーが求める半導体戦略の具体化が可能になるかもしれない。

 正論や理想論を述べることを否定するつもりはないが、民間企業に具体的な行動を起こさせることがより重要である。

すでに世界市場に君臨している強い電子部品メーカーをサポートする必要などあるのか、という意見もあるかもしれない。

しかし、強い企業により多くのヒト・モノ・カネを集め、より強い推進力を持たせることで、ここに世界中の需要や情報が集まるような仕組みを作ることができるはずである。

弱体化した半導体をサポートするより、強い電子部品の推進力をパワーアップさせた方が、世界からの注目度も高まるだろう。

 Rapidusの設立についても、世間からは厳しい指摘の方が圧倒的に多いようだ。

日本国内に独立系のファウンドリー(半導体受託製造企業)を設立させることは、日本半導体業界の長年の夢だったのである。

筆者としてもこの設立には大賛成だが、2nmの実現にこだわる戦略には異を唱えたい

世の中のファウンドリー顧客が喜ぶような実現性の高い戦略を重要視するなど、より現実的な経営を目指すことで、多くの理解者や協力者が得られるようになる、と確信している。




 

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