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大手スポーツチェーン店の無自覚


この20年なにをしていた?

2023.06.29

 by 梅本泰則

大きな路面店やショッピングモールに入っている大手スポーツチェーン。ここ数年どのような発展をしてきたのでしょうか? 

経営コンサルタントの梅本泰則さんが、大手スポーツチェーンの変化とこれから期待することを挙げています。


大手スポーツチェーンに期待をすること

大手のスポーツチェーンだけがスポーツショップだと思っている消費者の方もいます。

その大手スポーツチェーンですが、ここ10年、20年の間にどんな発展をしているでしょうか。あまり画期的な店が出来たという話を聞きません。

今回は、大手スポーツチェーンについて考えます。

1.   スポーツ用品小売市場の変化

スポーツ用品の小売市場は、どのように変化しているでしょうか。

矢野経済研究所の調べによりますと、スポーツ用品市場は、2006年の12,460億円に対して、2021年は15,504億円。過去15年間で24.4%伸びています。

ただし、この数値は、メーカー国内出荷額をもとにしたものです。普通に考えれば、スポーツ用品小売市場も伸びていることでしょう。

実は、近年のスポーツ用品小売市場規模に関するデータがなかなか手に入りません。ですから、正確な数字は分かりません。

やむなく、メーカー出荷額をもとに推定してみることにします。

スポーツ用品小売業の粗利額を33%と仮定しますと、2006年の売上は18,597億円、2021年は23,140億円です。

この数字が合っているかどうかは、なんとも言えません。

その代わりに、日経MJが毎年、専門店調査をしていますので、そこから、売上上位の店の数字だけは分かります。

そこで、大手スポーツチェーン5社の売上推移を見てみました。

5社とは、アルペン、ゼビオ、スポーツオーソリティ、ヒマラヤ、ヴィクトリアです。

この5社の2005年以降の売上合計は、以下のようになります。

2005年 3,845億円
2010年 4,531億円
2015年 5,747億円
2021年 5,125億円

スポーツチェーン5社の売上は、16年間で33.3%伸びています。メーカー出荷額よりも伸びが大きいです。

しかも、2005年から2015年の10年間では、50%近く伸びています。さすがですね。

ところが、最近の数字を見ると、おかしなことが起こっています。2015年から2021年の6年間で、売上が10.8%減少していることが分かるでしょう。

これは、コロナ禍の影響かもしれません。ですから、2022年には盛り返すことも考えられます。

しかし私は、コロナばかりが原因ではないような気がしますが、あなたはいかがでしょう。

いよいよ、スポーツチェーンが消費者に飽きられてきたのかもしれません。だとすれば、大手なりの戦略が必要です。

 

2.大手チェーンの戦略

では、大手は今後どのような戦略を打ち出していくのでしょう。

確かに、スポーツ小売市場は、大手スポーツチェーンによって拡大をしたと言えます。出店に継ぐ出店で、売り場面積が広がりました。

メーカーさんや問屋さんにしてみれば、商品を放り込んでおけば大きな売上が手にできます。ですから、今なお大手チェーンにすがっているようです。

しかし、大手チェーン拡大の裏では、いくつかの弊害ももたらされました。たとえば、

・価格破壊を起こして、スポーツ用品の割引販売が常態化した
地方の弱小小売店の営業を困難にした
メーカー、問屋の地域小売店への営業活動が減少した
仕入先への返品も多く、在庫処分による価格の乱れを生じさせた

といったことです。

大手チェーンは、売場も広く綺麗で安く買えるのですから、消費者にとってはありがたい店です。

一方、業界にとってありがたい店かどうかといえば、必ずしもそうではない気がします。今あげた弊害があるからです。

つまり、彼らが素晴らしく良いことをして来たかどうかについては、疑問が残ります。

たとえば、5社のどこかの店が、革新的な売場づくりや売場提案をしたことがあるでしょうか。

斬新な商品管理システムや顧客管理システムなど、画期的なシステムを開発できたでしょうか。少なくとも私は知りません。

また、近い業界で言えば、ユニクロワークマンのように、メディアで話題になるようなことをしたでしょうか。

飲食業界の「くら寿司」や「新宿歌舞伎横丁」のような、新しい切り口のマーケティング手法を提案したでしょうか。

さらに言えば、5社の経営者がメディアに取り上げられることも少ないです。それだけ、話題に乏しいということでしょう。

 

3.業界のリーダーとして

つまり、業界のリーダーであるべき立場にもかかわらず、新しい業態を開発したわけでもありませんし、新しい売り方を提案したわけでもありません。

少なくとも、この20年間は少しも変わっていないのです。

このことは、スポーツ用品業界にとって、決して良いことではありません。まるで、皆さん思考停止に陥っているようです。

1位のアルペンの2021年の年商は約2,300億円、2位のゼビオは1,280億円、3位、4位の店は600億円以上の売上を示しています。資金力はあるはずです。

革新的な店づくりができないものでしょうか。

そこで、たとえばこんな店は考えられませんか。

・モノづくりが体験できる工場のような店
・短期間でのスポーツの上達を約束する店
・スタジアムやアリーナにいるように感じられる店
・海外でのスポーツ体験を販売する店
・これからスポーツを始める人のためだけの店
・全商品に使い方動画が見られるQRコードのついた店
・スポーツテクノロジーの商品だけを販売する店
・毎日、スター選手との交流が出来る店
・スポーツ選手のための音楽を販売する店
・ニュースポーツだけを扱う店
・スポーツ指導者のためだけの店

考えれば、まだまだアイデアは出てくると思いますが、ひとまず「安売り」から離れることです。そして、スポーツ用品業界のためになることは何かと考えることです。

いずれにしても、今のスポーツチェーンは、売れ筋の商品を売る事しか考えていません。ですから、有名ブランドに偏った店になっています。

別に、そうした店があっても構いませんが、それだけでは業界が発展しません。

新しいアイデアで、画期的な店を作り、より多くの人にスポーツを楽しんでもらうのが大手チェーンの役目です。 

十年一日同じことを繰り返しているだけでは、発展は望めません。ぜひとも、リーダーとしての自覚をもって欲しいと願うものです。


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