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工業地帯にタカの集団、なぜ? 


高塔山展望台からとらえた、工業地帯を飛ぶハチクマ=森本義光さん提供 

煙突の上昇気流、渡りの旅に利用 

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朝日新聞デジタル

長い渡りの旅に出るタカが、集団で上昇気流に乗って旋回しながら高度を上げる「タカ柱」。

山沿いで見られることが多いが、「鉄の街」として発展した北九州市の海沿いの工業地帯に毎秋、いくつものタカ柱が現れる。何が起きているのか。1人の愛鳥家が長年の観察で突き止めた。


 北九州市若松区の高塔山(標高122メートル)山頂付近の展望台からは、響灘に面した工業地帯が見渡せる。日本野鳥の会北九州支部の荒井充子さん(58)が「ハチクマ」の観察で通うようになって10年近くになる。羽を広げると約130センチになる大型のタカ。春に朝鮮半島から国内に渡って東日本などで繁殖し、秋に中国大陸を通り東南アジアへと戻る。

秋の高塔山は、有数の渡りの観察スポットという。その前の数年間、荒井さんは約6キロ南の皿倉山(標高622メートル)で観察していた。鳥好きのアマチュア写真家森本義光さん(75)らと飛来を待ち構えた。だが、観察できるのは1シーズンで5千羽程度。他の場所を探すうちに「もっと北では」と助言され、高塔山に行くと、7千~9千羽を数えた。

北九州には皿倉山周辺に加え、海沿いにも渡りのルートがあると分かった。渡り鳥は上昇気流をつかまえて高く上がり、羽ばたかずに滑空し、次の気流をつかまえる。体力を使わずに長く飛び続けるためだ。だが、響灘周辺は上昇気流が発生するような地形ではなさそう。よく見ると、タカ柱ができるのは、工場や発電所から突き出る煙突の上だった。

そこから発生する熱が上昇気流を生んでいるのかも。工場で働いていた知人に聞くと、「屋上の上にすごい数のタカが飛んでいた」と教えてくれ、思いを強めた。

 高塔山に通い詰め、数を記録。市民観察会を主催するなど情報発信にも取り組んだ。

2019年には、ハチクマが工業地帯で発生する上昇気流を利用することなどを資料にまとめ、海外の会合で発表した。

 こうした功績から、今年度の野生生物保護功労者表彰で、日本鳥類保護連盟会長賞を受賞した。 樋口広芳・東京大名誉教授(鳥類学)は「渡りの経路にたまたま工業地帯があり、地上の暖かい空気を体で感じたのだろう。自然と人の営みが組み合わさる、面白い発見だ」と話す。(渕沢貴子)


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