リチウム不足で「水素燃料車」に脚光


日本勢がEV周回遅れを逆手に取って世界を制す

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斎藤満

EV(電気自動車)の潮流が変わりそうです。EVのバッテリーの原料となるリチウムが十分確保できなくなる危機感が強まっています

リチウム生産は数年後には需要に見合った供給ができない見通しになってきました。リチウムに代わる原料を開発するか、現在進められている水素燃料へのシフトが避けがたくなりそうです。


現実化するリチウムの供給制約

オーストラリアの資源会社でリチウム化合物を生産するレイク・リソーシズ社は先月の会合で、バッテリー会社が原料のリチウムを確保できない危機に至る可能性が高いと述べました。またリチウム生産最大手の米国アルベマール社は、2030年には高まるリチウム需要に対して、その供給が50万トン足りなくなる、との見通しを出しました。

韓国のバッテリー大手SKオンや日本の阪和興業などがこのレイク・リソーシズ社からリチウム製品の供給を受けていますが、昨年から需給のひっ迫で価格が高騰しているだけでなく、今後は需要の拡大に伴って、供給が追い付かず、利用各社が十分な量の確保ができなくなる可能性があります。

EV化で出遅れた日本は、それだけリチウムの確保、バッテリー生産が厳しくなります。

世界最大のリチウム生産国はオーストラリアで、次いで南米チリ、3番目に中国となっていて、この3か国で世界の9割を供給しています。

中国は国内の需要に自国のリチウムを充てているので、欧米のバッテリー会社はオーストラリアに多くを依存しています。

そのオーストラリアがリチウムの確保ができない危機を訴えています。

新たな資源開発ができるか

そもそもガソリン車の場合、原料の石油の供給はほぼ無尽蔵で、長らく低コストの供給の恩恵を受けてきました。

OPECが価格操作をしても、それでも量は確保され、原油価格もいまだ100ドル以下で調達できます。

それに比べると、リチウム電池の原料リチウムは、石油のような潤沢なものではありません。そこへ一気にEVシフトが起こり、すでに需給がひっ迫しています。

リチウムの供給地は、上記3か国のほか、ブラジル、アルゼンチン、ポルトガルなどがあり、米国でも量は確定できませんが、一部には900トン程度の生産があるとされています。

それでも量的には限界的なもので、今後の需要増を考えれば、新たな埋蔵地の探索発見、資源確保が必要になります。日本の小笠原近海も候補地に挙がります。

しかし、希少資源のリチウムが、化石燃料にとって代わる大量供給はもとより期待できません。EV用以外にもリチウム・バッテリーは用途が多くあり、EVで占有するわけにもいきません。リチウムにかわる原料資源があればよいのですが、5年、10年という単位でも供給は困難です。

無尽蔵の水素、CO2

リチウム・バッテリー車が供給面で制約があり、ガソリン車にとって代われるものではなく、部分的な代替手段にとどまるなら、これを補う別のエネルギー源の車が必要になります。

その点、現在並行して開発が進められている水素燃料、CO2と水素の合成新燃料、水素蓄電池などは、無尽蔵な水素と排出CO2を利用するので、供給制約も/環境負荷もありません。

日本の戦略としては、すでにリチウム・バッテリー車の開発も進められているので、かつてのビデオ戦争(VHS対ベータ)のような1本化に絞るのではなく、EVにおいては他国のEVよりも走行距離が長く、充電時間が短く、軽量小型の携帯可能なもの、さらに火災事故が起きない安全性という「差別化」を進めて、中国やテスラに対抗しつつ、一定のシェアを狙う意味はあります。それと同時に水素新燃料車で需要を補填する形が自動車全体でみた場合のリスクを抑えるアプローチと考えられます。

後れを逆手に

その点、EVで出遅れた日本は、EV特化のリスクが供給面で大きいならば、その遅れを逆手にとって、EVと水素燃料車の併存戦略を進めやすい面があります。

特定分野には安定性の高いEVを供給し、運転を楽しむドライバー向けには水素燃料車で、内燃機関の技術の蓄積、強みを生かす道があります。

コストは当面高くても、原材料の供給制約のない水素、CO2の低コスト合成、量産を進め、いち早く商業化し、日本が世界にそのプロトコルを提供し、リードすれば、業界の主導権を維持できます。創業者利潤も期待できます。新燃料車については欧州の認可に伴い、ドイツ、イタリアが開発を進めています。日本もこれに後れを取るわけにはいきません。

インフラの整備を

政府の成長戦略にもようやく水素燃料、EV化対応の予算が組まれました。

排出CO2の再利用や水素の抽出など、個々の技術はあるので、これを産業としてまとめ上げる指導を政府が進め、資金支援、法的対応の準備も必要になります。

また従来のガソリン・スタンドのような、街中での供給体制も早急に作る必要があります。

しばらくはガソリン車も走るので、ガソリンスタンドは残す必要があります。新燃料が量産されるようになれば、既存のGSに新燃料コーナーを設けてもよいと思います。

日本の弱点は、各メーカーがばらばらに技術開発を進めてしまうこと

EVについては充電スタンドの設置は圧倒的に遅れています。

街中で充電するのなら、10分程度で充電できる高速充電が必要になります。街のスタンドで充電するのに1時間かかっては、ユーザーもついてゆけません。

時間がかかるなら、自宅で家庭用設備で充電できるようにするか、取り換え用バッテリーを持ち歩き、簡単に交換できる形にする必要があります。

個々のメーカーがばらばらに対応すると、利用者が混乱します。早い段階で同じ方針、同一システムで統一するのが利用者のためです。

利便性からすれば小型軽量バッテリーを持ち歩くことで、外での充電を不要にする形が受け入れやすく、充電ステーションの設置も不要になります。

充電スタンド活用型なら、短時間で済む高速充電システムが必要になります。

日本の弱点はこれらを総合的俯瞰的に絵を描くことができずに、各メーカーがばらばらに進めてあとで調整する困難に陥ることが多いことです。

これまでに開発された技術のフィーズィビリティをもとに、早い段階で官民学が協力してアウトラインを描く必要があり、安全性基準や規制など、民間では対応できない分野では政府がその音頭を取る必要があります。


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