おがわの音♪ 第1444 版の配信★


「富士通」コンビニ交付システムが炙り出したIT後進国ニッポンの致命的な問題点

2023.06.21 

by 中島聡『週刊 Life is beautiful』

 マイナンバーカードのメリットのひとつとして総務省が掲げる、コンビニでの各種証明書の取得。しかし今年3月以降、別人の証明書が発行されるトラブルが相次ぎ、サービスが一時停止に追い込まれる事態となってしまいました。何がこのような問題を引き起こしてしまったのでしょうか。

中島聡さんは、「コンビニ交付システム」の開発運営を典型的なITゼネコンの手に委ねた事が主因と断言。さらに同様の問題を回避するため国が取るべき「ソフトウェア調達法」の具体案を提示しています。



ITゼネコンを排除。「コンビニ交付システム」と同じ失敗の回避法

デジタル庁の「コンビニ交付システム」がさまざまな問題を起こしていることに関して、河野デジ相がビデオメッセージで謝罪した上で、開発したのは「富士通Japan」であり、問題が解決するまでの間すぐにサービスを停止するように指示を出したと語りました(「試練続く富士通Japan、コンビニ誤交付トラブル巡り河野デジ相からは『強い叱責』」)。

富士通は私が常に批判している典型的なITゼネコンです。理系の大学や大学院を卒業した、いわゆる「理系エリート」を採用しながら、彼らには仕様書の作成と工程管理のみ行わせ、実際のコーディングは下請けや孫請けに丸投げする、という日本特有のゼネコン・スタイルでソフトウェアを作る会社です。

【関連】実働は派遣社員のみ。亡者が蠢く「日本ITゼネコン」という地獄

こんな風に、設計とコーディングを分断した開発では良いものを作れないことをこれまで何度も指摘して来ました。どんなに優秀なソフトウェア・エンジニアでも、実際にコードを書かずに良い設計をすることは不可能で、コードを書きながら設計を変更し、徐々に良いものに仕上げていくプロセスが必須です。

しかし、ITゼネコンのように、設計は上流で、コーディングは下流で、というスタイルの開発だと、その効率が著しく落ちる上に、

·   コードを十分に書いた経験が少ないエンジニアが机の上で設計することになる

·   上下関係があるゆえに設計を批判しにくい

·   人月工数で仕事をしているため、効率良くクオリティの高い仕事をするメリットがない

·   孫請け会社が、派遣社員を雇って頭数を揃えるようなことが堂々と行われる

などの弊害があり、良いものは作れないし、人も育ちません

それでもこのビジネスが成り立ってしまうのは、高度成長期にIBMと対抗するために国策として育てて来たIT産業(=今のITゼネコン)と官僚組織との強い結びつき(信頼関係+天下りなどによる癒着)があり、景気対策の意味も含めた政府による「IT投資」の大半が、ITゼネコンに流れ込むようになっているからです。

とは言え、良い仕事が行われている部分が皆無なわけではありません。「デジタル庁のサイトやばすぎるwww」という記事には、デジタル庁のウェブサイトがモダンな技術とデザインでしっかりと作られていることを指摘しており、必ずしも100%の税金が無駄に使われているわけではないことが分かります。

オープンソースを活用。理想の政府系ソフトウェア調達法

この問題を解決するのは簡単ではないと思いますが、以前にもこのメルマガに書いた「オープンソースを活用したソフトウェア調達」が解決の糸口になると感じています。

順番としては、まず最初に、「税金で調達したソフトウェアは、オープンソース化しなければならない」という法律を作ります。

特定のベンダーによるロックインを避けるのが一番の目的ですが、国民の税金で作ったものを公共の財産と残すのは当然だ、という考えに基づいています。

そして調達の際には、まずはプロトタイプのコンペを行います。大まかな要件のみ定義し、Githubのリポジトリ上にオープンな形でプロタイプを作ってもらい、その中の優秀なものを選ぶと同時に、優秀なエンジニア集団を選び出します。コンペへの参加は誰でも出来て、応募する唯一の条件は、応募する主体が、下請けを活用するゼネコンではないこと、です。

コンペに参加する開発メンバー全員のGithubアカウントとその所属を明らかにする必要があります

コンペに参加するためのプロトタイプの作成費は「持ち出し」になりますが、優秀な作品を提出したグループには賞金(プロトタイプの複雑さによりますが、100万円から500万円程度)を提供した上で、その後のプロジェクトへの参加への機会が与えられます。

こんな形のコンペをオープンな形でするだけで、日本のベンチャーやフリーランサーのコミュニティが活性化され、人材の流動性も高まります

コンペそのものをオープンな形で行うことにより、学ぶ機会やエンジニア同士の出会いも増え、本当に実力のあるエンジニアたちが活躍できる社会への第一歩が踏み出せると思います。

その後のプロジェクトの進め方についても、色々とアイデアがありますが、今日のところはこれぐらいにしておきます。

 

ちなみに、先週も書きましたが、河野デジ相との対談が実現すれば、この話(ITゼネコンの問題点と、オープンコンペの話)も是非ともしたいと思います。




 

最後までお読みいただき、有り難うございました。  ☚ LINK 

*** 皆さんからの ご意見・ご感想など BLOG』のコメントを頂きながら、双方向での 【やり取り】 が できれば、大変嬉しく思います!!   もちろん、直接メール返信でもOK ! です。 ^_^ *** 


メール・BLOG の転送厳禁です!!   よろしくお願いします。