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炙り出されたマイナンバーカード問題の深刻さ


2023.06.15

 by 冷泉彰彦のプリンストン通信

連日のように報道されている、マイナンバーカードを巡るトラブルの数々。その大きな原因のひとつとして我が国の住所表記が挙げられ、ネット上でも議論が活発化しています。米国在住作家の冷泉彰彦さんが、問題の根本は「入力データの不揃い」にあると指摘。さらにそのデータである日本の住所や氏名が、どれだけ「煩雑」なものであるかを詳しく解説。


住所ばかりか氏名もヤバい。マイナカード運用が上手くいかない当然の訳

マイナカードの運用がうまく行っていないようですが、コンピュータのシステムというのは、Aと入力したらBを返すというようなロジックを組み立てる中で、キチンとした「要件定義」を行う必要があるわけです。そのためには、入力するデータをコンピュータに使いやすいようにクリーンにしておく必要があります。

クリーンというのは、間違いがないということであり、同時にエラーを起こさないように標準化がされていることも大事です。具体的には、様々な作業を繰り返して最終的にクリーンにして行くことになります。

今回の問題は、「そもそも入力するデータがクリーンでない」ということにあると思います。

そもそも名前のデータがクリーンではありません。まず日本人の場合ですが、マイナカードに入るのは、漢字(またはカナ混じり)の戸籍名だけです。恐ろしいことに、カタカナのフリガナも、英文ローマ字表記もありません

フリガナがないということは、銀行の口座名義人との自動紐付けも、名寄せによるチェックもできないということです。

また英文ローマ字表記がないということは、パスポートの英文表記との照合は不可能です。

仮に、将来、日本円への不信感が増大して、日本人による資産の海外逃避が大規模で発生し、これを全世界対象の財産税で補足するなどという場合にも、幅広く網を張るような使い方には全く対応できません。

それ以前の問題として、現在の戸籍には名前のフリガナがないし、住民票の場合もある自治体とない自治体があるという状況があります。

恐らく今後は、住民票にはフリガナを入れる方向で統一されると思いますが、そうなった場合に「新たにフリガナを入れる」手続きをどうするのかというのは、結構難しい問題です。親の付けたキラキラネームを変えたい人、子どもの意見を無視して宗教的な理由で妙な読み方を強制したい親なども、出てきてトラブルに発展しそうです。 

問題は、日本の場合に「成人になっても、自分の戸籍名を変更するのは簡単でない」ということです。

マイナンバーができれば、履歴が追いやすくなるとは思うのですが、改名の履歴管理に対応できるようなデータのスペースを取っているのか分かりません。

いずれにしても、フリガナを運用するならするで、ピシッと対応しないとそれだけでグタグタになりそうです。

一方で外国人の場合ですが、本名と通称を併記できるようになっています。

ですが、日本語とアルファベットしか対応していないとか、通称だけではダメで、本名を書かねばならないので、国籍が入国管理業務とは関係ないあちらこちらでバレてしまい、結果的に人権が脅かされる問題などがあるようです。

それ以前の問題として、マイナカードのシステムとしては、「本名と通称がセットで1つのコメント」という運用のようで、仮にそうなると名寄せサーチなどはカオスになりそうです。

 

問題の深刻度を本当に認識しているのか怪しい河野太郎

住所になるともっと大変です。

先週ぐらいからようやく、日本の住所というのは複雑怪奇だということが話題になり始めました。

例えば、1丁目1番地1号」を「1-1-1」と書くとか、いやいや「1丁目1-1」と書く、これだけでも3通りあるわけです。

更には、同一の市町村に同じ地名が複数あって、読み方が異なるというケースもあるそうです。

地名の階層がグチャグチャということもあります。

例えば、山田町東山という土地があったとします。その山田町が平成の大合併などで、大山市と合併したとします。

その場合に、大山市の中に旧山田町があることを示すために、「大山市山田町東山」という表示をする場合があります。

では、この合併後の「山田町」というのは、地方自治体の名前かというとそうではなく、あくまで地名です。つまり、「山田町東山」というのが地名であることになります。その一方で、合併後の住所はシンプルにするということで、仮に「新しい大山市には東山という地名は一箇所しかない」のであれば、「大山市東山」でも良いわけです。

このあたりのルールにも統一性は見られません

更に言えば、「建物名」が必要な場合とそうでない場合があります。「1-1」という地番が「Aマンション」と「11対応」をしているのなら良いのです。

確かに「Aマンションは全部が1-1」というケースがほとんどだというのは、事実でしょう。

ですが、小さなマンションなどで「1-1」には「Aマンション」も「Bマンション」もあるという場合は、建物名がないと正しく届かないということはありそうです。

他にもあります。

京都の場合は欧米の「ストリートと番号」という独自システムの住所になっているとか、ごくまれですが「東野町新田」という番地で「住所はおしまい」で、その中に7軒ある各家庭は全部住所が同じなどという場合もあります。

最大の問題は、そもそも住所のルールが一定でないということです。戸籍は番地までで「号」はないという問題がまずあります

では、住民票はどうかというと、一応「号」まで入るケースが多いと思います。

問題はその先で、集合住宅の「部屋番号」を住所の枝番として入れるかどうかは「任意」という自治体が多いようです。

そう考えると、せっかく巨額の経費を投入してシステム開発をしても、そもそも基本となるデータが不揃いであり、入力ミスをほかのデータとの照合などで修正するのも難しいとなると、DXによる省力化、生産性向上には限りがありそうです。河野太郎大臣の「日本の住所はヤバい」という指摘は正しいにしても、平然と言い放っている姿勢から見ると、問題の深刻度を本当に認識しているのかは怪しいと言わざるを得ません。 

実際は日本の場合に、住所も名前もヤバいのであって、本来はシステムを作る過程で制度も変更して、相当な程度クリーンなデータにしてから登録するという運用が考慮されるべきだったと思います。


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