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AIでも半導体でもない。世界的エンジニアが日本再生のために投資すべきと提案する「5つの産業分野」

2023.06.13

 by 中島聡『週刊 Life is beautiful 

以前掲載のシリコンバレーに勝てるのは「高専」だけ。世界的エンジニアが重大提言、日本を救うIT学園都市構想の中身」等の記事で、たびたび我が国が再び立ち上がる術を考察してきた、Windows95を設計した日本人として知られる中島聡さん。そんな中島さんが近々、河野太郎デジタル大臣と対談する機会を得たといいます。そこで中島さんが、総理大臣候補としての河野氏への提案を考えているアイディアを紹介。日本再生のために力を入れるべき5つの産業分野を具体的に記しています。



私が考える日本再生計画。今やるべきは「社会のニーズ」を解決する産業を育てること

以前から是非ともやりたいと考えていた河野太郎デジタル大臣との対談ができそうな気配になってきたので、どんな話をするかを考えています。

行政のデジタル化の話だとか、マイナンバーカード関連のトラブルの話などは、他の人でも十分に出来るだろうから、私にしか出来ない話をしたいと考えています。それも、デジタル大臣である河野太郎氏に向けてではなく、総理大臣候補としての河野太郎氏に向けてのメッセージ、というかアイデアを送りたいと考えています。

アイデアは大きく分けて二つから構成されています。

一つ目は、以前、このメルマガにも書いた、日本独自の高専を活用した、日本の教育改革であり、理科系人材の育成です。

今の日本の教育は、企業による新卒一括採用とセットになり、大学受験の時点で子供達を「ふるい」にかけ、「学歴」を利用して大学卒業時に「正社員の地位」を得ることがゴールである、とても保守的なシステムになってしまっています。そのため、子どもたちは、貴重な中高の時期を過酷な受験勉強に費やし、創造性を伸ばす、さまざまな機会を通じて夢中になれるもの・得意なものを見つける、などの最も大切なことが出来なくなっています

大学は、「研究機関」でもなければ「職業訓練校」でもない、単なる「受験の時点で優秀な生徒を集めて就職まで預かっておく」だけの付加価値の低いものに成り下がってしまいました。この状況を打破するには、ソフトウェア・エンジニアを中心に、即戦力のエンジニアたちを5年間で育成する全寮制の高専を日本各地に作り、そこに理系頭を持つ子どもたちを幅広く受けた上で、英語で理数教育をし(オンラインコースとAIを使った個別指導を最大限活用します)彼らを受験勉強から解放すると同時に、世界に通用する即戦力のエンジニアを大量に育成するしかないのです。

同時に「受験により子どもたちを『ふるい』にかけるだけ」のぬるま湯大学には消えてもらい、残った大学(および大学院)には、研究の道に進みたがる一部の学生だけを受け入れて「研究者」を育てる「研究機関」としての役割を果たしてもらいます

日本政府は、私立助成金という形で莫大な税金を教育に流し込んでいますが、それは、大量の生徒を集める私立校ビジネスを補填しているだけであり、優秀な人材を生み出すことには全く繋がっていないことを反省すべきです。そのお金を、公立の高専に流し込み、そこで即戦力の理系エンジニアを大量に生み出すことこそが、日本の成長に繋がります。

二つ目は、私が自分の中では「老人Z」と呼んでいる日本のビジネスの再構築プランです(大友克洋原作のアニメのタイトルです)

日本は、半導体、パソコン、スマホ、クラウドサービスなどで欧米に敗退し、最後の頼みの綱である自動車産業においても、EVシフトの波に乗り遅れて、大幅なシェアの損失は必然的な状況です。日本政府は巨額の税金を投じて、半導体産業の国内への呼び戻しを行おうとしていますが、それは半導体のサプライチェーンの確保のためであり、日本の国際競争力の強化には繋がりませんChatGPTの成功以来、「日本でもAIに投資すべきだ」という声が聞かれますが、今からそこに投資をしたところで、OpenAIGoogleとまともに戦えるとは思えないし、オープンソースの波にも逆らえません。

そもそもAIも半導体も道具であり、ここから力を入れるべきなのは、AIや最新の半導体を活用したアプリケーションやサービスであり、そこに日本独自の競争力を持つ産業を育てるべきなのです。

産業はニーズのあるところに育つことを考えれば、注目すべきなのは、少子高齢化です。日本は、世界中で最も厳しい少子高齢化の波にさらされている国です。特にここ数年、出生数の減少率は加速しており、過去5年間の平均で、年に3.64%で減少しています。この勢いで減り続けると、2035年には出生数が50万人を切ることになります(政府の試算では2072年となっていますが、これは楽観的過ぎます)。このままでは、日本という国の存続すら危ぶまれる状況と言えます。

少子高齢化に伴う労働人口の減少は既に日本中でさまざまな歪みを生み出しています。

老人介護の職場は常に人が不足しており、自分の親の介護のために仕事を辞めてしまう人たちすらいる状況です。

高齢者ドライバーによる事故は後を絶たず、地方の交通インフラの崩壊とともに、老人たちの移動手段が失われる状況になっています。保育の場も常に人が不足しており、それを理由に子供を作らない女性が大勢います

日本政府は、介護保険制度や子供手当でこれらの問題に対処していますが、単にお金をばら撒くだけでは根本的な解決にはなりませんお金を撒けば巻くだけ、そこにそのお金を当てにしたビジネスモデルが誕生するだけで、根本的な問題の解決にはならないし、何の価値も生み出しません。

今、日本がやるべきなのは、少子高齢化に伴って起こるさまざまな問題を「社会のニーズ」と捉え、そのニーズを解決する産業を育てることです。

具体的な例をいくつか挙げると、

  1.  自動運転技術を活用した地方都市の高齢者向けの移動サービス
  2. 介護ロボット/育児ロボット
  3. 介護者を補助するウェアラブルロボット
  4. 高齢者向けのAR/VRエンターテイメント
  5. 子供にマンツーマンの教育をするロボット

などです。

「自動運転車なんて既にTeslaWaymoが開発している」と思う人もいると思いますが、汎用的なロボタクシーが実用化されるまではまだまだ時間がかかるし、そこで勝負をする必要は全くないのです。

「地方都市の高齢者向けの移動サービス」に特化することにより、今ある技術を組み合わせて素早く実用化し、失われつつある高齢者の移動手段を提供するのです。

介護ロボット/育児ロボットも同じです、TeslaOptimusのような人間型の汎用ロボットである必要はなく、床ずれ防止、入浴、歩行、リハビリ、マッサージの介護・育児業務を可能な限り、人手をかけずに安く行うことをゴールに、まずは、さまざまな専用機器を作れば良いのです。

一気に行く必要はありませんが、寝たきり老人や乳幼児が、老人介護施設や、託児所にいるよりも安全で快適な状況を作ることをビジョンとして掲げても良いと思います(「老人Z」というプロジェクト名はそこから来ています)

まずは、「DARPA Robotics Challenge」を参考にして、大学の研究者たちを支援しつつ、これらの分野への積極的な投資が行われるような環境を作るべきだと思います。

その際に一つ注意すべきなのは、投資したお金が、受託開発を主たるビジネスとする、NEC、富士通、NTTデータなどのITベンダーに流れないようにすることです。(☞ LINK)

日本に必要なのは、下請けなどを使わず、エンジニアを直接雇い技術・製品開発をするベンチャー企業であり、投資したお金がゼネコンスタイルの受託開発ビジネスに流れてしまわないように注意することが大切です。 ☞ 関連記事

 こんな形で、日本特有の少子高齢化に起因したニーズに答える製品開発を戦略的に行うことにより、どのみち投入しなければならない税・社会保障・介護保険のお金を国内産業の育成、つまり「価値の生成」へと繋げるのです。

 

 2023613日号の一部抜粋




 

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