おがわの音♪ 第1434 版の配信★


EV特許」をオープンソース化したテスラの狙い

2023.05.30 

by 中島聡『週刊 Life is beautiful』

 ディーラー向けに公表した資料「なぜトヨタは電気自動車を積極的に売らないのか」が流出し、その理由に批判が集まるなど、EVでの周回遅れが否めないトヨタ自動車。一方で、イーロン・マスク氏率いるテスラは「EV特許」をオープンソース化する余裕っぷりです。一体、どこに差があるのでしょう? 

今回、中島聡さんが、批判を浴びたトヨタの資料に言及するとともに、特許をオープンにしたマスク氏の狙いについても解説しています。



☞ 私の目に止まった記事:トヨタ自動車のディーラー向け「電気自動車を積極的に売らない理由」が流出し批判の的に

●This Is Why Toyota Isn’t Rushing to Sell You an Electric Vehicle 

  https://jalopnik.com/toyota-focusing-on-hybrids-not-electric-vehicles-1850440908 

トヨタ自動車が、ディーラーに向けて提供した「なぜトヨタは電気自動車を積極的に売らないのか」を説明したドキュメントが(当然のように)リークして、批判の対象になっています。トヨタが理由として上げたのは、

・電気自動車を大量生産するのに必要な電池(および必要な素材)が調達できない

充電インフラが整っていない

・電気自動車は高価なので、一般の人には購入できない

の三つです。

十分な電池の調達が出来ないのは、トヨタ自動車が必要な投資をしてこなかったからであり、電池のギガファクトリーを複数作っているTeslaと比べて周回遅れなことが明確です。

公共の充電インフラが整っていないのは事実ですが、だからこそTeslaは自分自身で、スーパーチャージャーのネットワークを世界中に築いて来たわけで、ここでもElon Musk「先を読む力」との差が際立ちます。

電気自動車の値段に関しては、電池の大量生産により差が縮まっており、燃料はメンテナンスコストを加えたTOC(Total Ownership Cost)で既に、ガソリン・ディーゼル車を下回っています。

Teslaは、ギガプレスなどの最新の技術でさらに製造コストを下げており、トヨタの電気自動車が高価なのは、トヨタが必要な投資をしてこなかったからです。

 

 

Teslaが「EV特許」をオープンソース化した理由

先日、Teslaが、EV(電気自動車)に関わる特許を全てオープンソース化した理由について、「会社の利益よりも、世の中に貢献することを優先した」とするコメントを目にしました。

必ずしも間違っているわけではありませんが、それだけが理由ではないので、解説したいと思います。

確かに、Teslaのビジョンは、電気自動車を通じて「地球を維持可能にする」ことなので、ライバル企業が電気自動車を作ることを歓迎していることは事実だし、Elon Muskもそれを公言しています。しかし、最も重要な理由は、ライバル企業との特許紛争を避けることにあります。

AppleSumsungの間の特許紛争を見ても分かる通り、大半の特許紛争は不毛であり、最後に笑うのは、訴訟に関わった弁護士たちだけです。

Teslaは自分たちの特許をオープンソース化して、ライバル企業に自由にそれらの特許を使わせることにより、逆に、ライバル企業が特許を申請し、それをTeslaが侵害していると裁判所に訴えることを防止しているのです。Teslaは、決して特許権を放棄したわけではなく、特許権を取得した上で、「誠実に行動する企業は、どこでも自由に無料で使って良い」と宣言しているのです。「誠実に行動する企業」とは暗に「Teslaに対して特許侵害で訴訟などを起こさない企業」のことを差し、実質的に、強引にクロスライセンス契約(双方の特許を自由に使って良い契約)を結んでいるようなものです。ちなみに、Elon Muskが何度も主張しているように、Teslaの本当の強みは自動車そのものではなく、工場にあります。

自動車のような工業製品は、プロトタイプを作るのはそれほど難しくありませんが、品質の高い製品を大量生産し、かつ、そこから継続的な粗利益を上げ続けることは簡単ではありません。

現在、TeslaBYD以外のメーカーは、どこも電気自動車で利益を上げることは出来ていないと言われており(実際、FordEVビジネスは莫大な赤字を垂れ流していることが公開されました)、そこで差別化できるのであれば、自社の特許を無料で使われても痛くも痒くもないElon Muskは考えているのだと思います。  

※ 2023530日号の一部抜粋です。




 

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