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定年後に何をしたらいいかわからない人に勧める「武士になる」選択


2023.04.11 

by 坂口昌章

仕事一筋だった人が定年を迎えると何をしていいかわからず、存在意義を感じられなくなってしまうという話はよく聞きますよね。ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、定年後に何をすべきか悩んでいるならば武士になろう、と話しています。


 定年後は武士になる

1.定年後は武士として生きよう 

会社人間が定年になると、社会とのつながりが失われ、仕事がなくなることで、自分の存在意義が感じられなくなることもあります。朝からパジャマのままダラダラと過ごし、最悪の場合は鬱に陥ってしまいます。

こういう人は、実は経済的にはある程度の余裕がある人です。経済的に余裕のない人からすれば羨ましい身分ですが、本人にとっては深刻です。

お金に困っていないから、無理に仕事をする必要はありません。自由だからこそ、何をやっていいのか分からないのです。

定年後に悩んでしまう人は、自律的に生きてこなかったのかもしれません。自分で考え、自分で行動していれば、迷いはありません。常にやるべきことを考える癖がついているからです。 進学を決める時には、親や教師の指示に従い、会社を決める時には周囲に流され、入社後は上司の命令に従う。こういう人は自分で自分の人生を考えたことがありません。

結婚すれば、今度は奥さんの指示に従うことで日常生活は安定します。スーツや靴なども奥さんに一任している人も少なくありません。自分で使う商品を自分で買ったことがない人もいます。そんな状態で定年を迎えれば、何をしていいのか分からなくなるのも当然です。

そこで、一つの目標となりそうなイメージを提供してみたいと思います。それが「武士になる」ということです。

武士の始まりは軍人ですが、平和な江戸時代においては、武士の存在意義について悩んでいたようです。そこから、武士道が生れました。

武士道とは、平和な時代になぜ武術を研鑽するのか」「平和な時代における武士の存在意義とは何か等の問題に対する一つの解決策を提示したものだと思います。

武士道では「文武両道」が提唱されています。これは「心身ともに健康を保つ」ということであり、また、「心身を鍛えることで社会秩序を守る役割を果たしていこう」という意志でもあります。

武士はあらゆる場面、あらゆる時間において、常に敵からの攻撃に備えています。

常に気を体内に充実させながら、身体はリラックスして直ぐに動けるようにしています。

起きている時間はもちろん、睡眠中でも構えは解きません。右側臥位(うそくがい)で刀を抱えて眠ったと言われています。

右側臥位は釈迦の涅槃像にみられるように、古代インドの睡眠姿勢で、それが禅の教えにつながったようです。

科学的にも、胃の形が身体の右側に向かってカーブしているため、食べ物の移動がスムーズで消化を助け、自律神経に対する負担も軽減され、睡眠の質が高まるメリットもあります。このように、現代人であっても、武士の姿勢や歩き方、礼法を学ぶメリット数多くあります。健康に良いだけでなく、若々しい動作を周囲に印象づける効果もあります。

 

2.武士が学んでいたことを学ぶ

武士道では、「文武両道」が重んじられました。江戸時代は身分社会であり、庶民と武士では全く異なる教育を受けていました。庶民の教育は、「読み書きそろばん」といわれる読書・習字、算術が中心です。

その他にも和学・漢学といった学問、裁縫のような「お稽古事」、さらには絵・華道・茶道・俳諧といった習い事なども教えられるようになったそうです。

職業教育を身につけるという意味で、帳簿記入・計算・手紙の書き方といった技能習得の面も重視され、「往来物」とよばれるそれぞれの職業に合わせた教科書を用いて学習がなされました。

実利的かつ機能的であり、お金の教育もしっかりと行っていました。庶民教育の方が資本主義的であり、この流れが現代の初等教育につながっているようです。

一方、武士の教育は、幼い頃から、礼儀・言葉遣い・挨拶・食事の作法・苦しみに耐える訓練など、武士としての体面や家名を傷つけないようにと、厳格な家庭教育、しつけが課されました。ある意味で虐待に近い厳しさだったようです。

815歳になると藩校に通います。多くの藩が江戸中期の藩政改革期に開校し、一定の身分以上の武士が義務として通学させる藩もありました。

教育内容は、四書五経といった儒学経典などの素読が中心です。「読書百遍、意自ずから通ず」といわれ、内容が理解できなくとも記憶するまで徹底的に朗読させられました。さらに国学、歴史なども加えられ、習字や作文なども取り入れられました。算術は財政などにかかわる専門的な学問の性格をもっていました。

また、武士としての心構えについても厳格に教えられました。こうした教育が原理主義的な武士を形成したのだと思います。

この部分は現代人にはあまり必要はないと思います。

定年後の男性という前提に立てば、武士の教養科目ともいえる「書道」「茶の湯」「能(謡曲・仕舞)」等を学ぶのが良いのではないでしょうか。

現代に伝わる武士の書状などを見ると、みな達筆です。江戸時代の武士は軍人から官僚へと仕事の中身が変わり、毎日、筆で文字を書いていたでしょう。

現代人においても、定年後は芳名帳などに署名する機会が増えるものです。なにより文字が上手い人はカッコイイ。

書道といっても、書き初めのように太筆で大きな文字を書くのではなく、小筆で小さな文字を書くことが重要です。

本格的に書道を習うのも良いのですが、時間がなければ筆ペン習字や写経に取り組んでみるのも良いかもしれません。

茶の湯を本格的に習うのはハードルが高いと思います。

もし、周囲に茶道を習っている人がいるようでしたら、「定年になって、茶の湯に興味が出てきた。続くかどうか分からないけど、体験させてもらえますか」と頼んでみるのが良いでしょう。茶道を習っている人は圧倒的に女性が多いので、男性が茶道に興味を持つこと自体が喜ばれると思います。

もし、しがらみがない方が良いと考えるならば、裏千家「初心者のための茶道教室」はどうでしょうか。

全国のホテル等を会場にして、半年のコースで全20回、約7万円で茶道の基本が習えます。服装も自由で良いので、気軽に習ってみると良いと思います(詳しくは、「茶道を習う」まで)。

能も初心者向けの教室があります。

宝生流能楽堂(水道橋駅徒歩3分)で2年間、月3回の稽古、費用は入学金3,000円、月6,000円(謡曲か仕舞を選択、11,000円で両方)(詳しくは、「初心者のための「謡曲・仕舞教室」のご案内」まで)。

 

3.お金儲けを副業と考える

「武士道」という倫理観では、忠義、勇気、礼儀、誠実、名誉などが重んじられていました。

この倫理観の下では、お金儲けを目的とした行為は、武士の名誉や品位を損なうものとして忌避されました。

そうは言っても、武士たちも生活のためにお金を必要としていました。

そのため、一部の武士は商売をしていましたし、報酬や年貢、禄高などの形で収入を得ていました。

但し、これらの収益活動は「副業」として行われていました。武士道を貫くことが本業だったのです。

現代人は金儲けが本業です。お金を稼ぐことが価値あることと考えています。そのために受験勉強を行い、良い大学、良い会社へと進むのです。

ところが、定年になると、突然、本業を奪われます。金儲けの手段である仕事を奪われ、会社で培ってきた人間関係も奪われます。十分な退職金を受けとったとしても、日々の充実感を失ってしまう人は少なくありません。

そこで、定年を契機に、発想の転換をお勧めしたいと思います。

お金儲けは副業だった。我々の本業は、健全な社会を維持し、その秩序を保つことであるというのはいかがでしょうか。

言い換えれば「社会貢献」ですが、正確には貢献ではありません。我々が社会を動かしている主体ですから、社会活動そのものであります。これは武士の本分と共通しています。

実は、会社の本業も金儲けではありません。会社は給料を払うことが目的ではありません。

社会の中で会社という組織を維持し、様々な産業や職業を結びつけ、社会を発展させる活動こそが会社の目的です。

会社の活動を継続するために利益が必要なのであり、利益のために会社があるのではありません。

出世とか昇給というのは、組織を維持するために社員の忠誠心とモチベーションを高めるための手段です。出世も昇給も副業の目的です。

定年になったら、副業から卒業して本業に取り組まなければなりません。お金儲けを目的とせず、より大きな目的を目指す人生が待っています。

武士も平和な時代になって、自身の存在意義について悩みました。平和な時代には武士など必要ないのではないか。

しかし、武士が天下統一したからこそ、平和が訪れたのです。

武士の仕事は平和を維持することであり、社会秩序を維持することであると考えることで自身のアイデンティティを保つことができました。

そこで、武士道は「文武両道」となりました。

現代人も自身のアイデンティティを見いだすことに苦慮しています。定年後にやる気がなくなるというのは、会社員というアイデンティティを失ったからです。定年後には、新たなアイデンティティ、存在意義が必要です。

現代に生きる武士は政治にも経済にも口を出すべきです。会社員だから会社の仕事をしていればいい、というわけではありません。

定年を迎えて、会社員を卒業して社会人になりました。だから、社会に対して主体的に関わっていくことが求められます。

我々の仕事は社会の発展と秩序の維持です。

それを本業と考え、具体的な計画を立てていきましょう。そして、計画を実現させ、よりよい社会をつくっていきましょう。


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