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東大で“交渉術”を学んだ社長が「身を守るために」書いた一冊が面白い


2023.03.09 

by 本のソムリエ『一日一冊:人生の智恵』

  日本で「起業」が身近になった昨今、実は不当な契約解除や買い叩きなど、人間不信に陥りそうな出来事が起業したての時には多いのだそうです。

今回 本のソムリエさんが紹介するのは、 東大で交渉術を学んだという著者が「対人関係」について伝授する一冊。いったいどんなことが書かれているのでしょうか。


カリスマ予備校講師を卒業し、東大で「交渉術」を学んだ著者が得たもの【一日一冊】頭のいい人の対人関係

人間関係に悩んでいる人は、多いのではないでしょうか。

著者はカリスマ予備校講師を卒業し、独立起業する中で、サービスを安く買い叩かれたり、料金の未払いや不当な契約解除に翻弄されたという。

悩んだ著者が選んだのは東京大学大学院で「交渉術」を学ぶことでした。なんと著者は「交渉」や「心理学」の文献を1,000冊以上読んだという。

著者が「交渉術」として学んだのは、交渉相手とぶつかることではなく、交渉の開始と終了を気づかせず、できれば交渉相手をファンにしてしまうのが、本当の交渉だというのです。

交渉相手は敵ではなく、その問題や悩みを一緒に解決する仲間、つまり、パートナーなのですp34

では、どうすれば交渉相手に気づかれずに交渉することができるのでしょうか。

例えば、協調性のない部下なら、「○○さんって、困っているときにいつも助けてくれますよね」とラベルを貼って自分の望む方向に誘導する。

プライドの高い年下部下なら、「実行したらどういった結果になるか、○○さんの考えを聞かせてもらえませんか?」と結論を保留して、冷静に考え直してもらう。

家庭なら、家事の苦労を子どもを介して夫に間接的に伝えて、家事を手伝ってもらうなどといった手法が紹介されています。

このような交渉のテクニックは、一般によく知られたものです。

この本の特徴は、著者の反省でもあると思いますが、「身を守るために」という項目で、相手の術中にはまらないための防御策が書いてあるところです。

例えば、相手の意見をリスペクトしたあとに自己主張する(アサーション)の項目では、勝手に自分の写真を掲載されて抗議したときに、相手が「掲載することで拡散されてメリットがあったのではないか」と反論されたケースが紹介されています。

アサーションのテクニックを知らないと、そのまま相手の意見に納得してしまいがちですが、著者は「そこまで私の気持ちを尊重していただけるなら、」と主張を押し通すことをお勧めしているのです。

身を守るために…写真などが無断で相手に掲載された…拡散することで生じる新たな価値もあるんじゃないかな…そんなに私の気持ちを尊重していただけるなら…反論を押し通すp221

内容としては、心理学の活用を説明した名著『影響力の武器』の現代版といった印象でした。

この本を読んだだけでは不十分で、実際に使ってみないと、身につかないだろうと感じました

人間関係に悩んでいる人は、学校で「交渉術」を学ぶ前に、まずはこの本で予習してみたいものです。