再び注目集まる金属3Dプリンタ


JIMTOF2022に設けられたAMエリア

2023年は国内で本格普及元年となるか

2023年01月16日 更新

[長沢正博,MONOist]

金属3DプリンタによるAMAdditive Manufacturing、積層造形技術)が製造業で存在感を増している。長い歴史を持つ金属加工を根本から変える技術なだけに、大きな可能性を秘めていると同時に導入に向けたハードルも存在する。今後、果たして普及は進むのか、日本国内の状況を占った。


  金属3Dプリンタの代表的な方式としては、敷き詰めた金属粉末にレーザーや電子ビームを照射して溶融凝固し、それを一層ずつ重ねていくパウダーベッド方式(PBFや、ノズルから噴射した金属粉末にレーザーを当てて溶かして固め造形する指向性エネルギー堆積方式(DEDがある。DEDには金属ワイヤを用いるタイプなども存在する。

また、DEDとは異なるが、金属ワイヤを使用しアーク放電を使って積層造形をする方式もある。その他、敷き詰めた金属粉末に液体のバインダー(結合剤)を噴射して所定の形状に固めた後に脱脂、焼結するバインダージェット方式、また最近では熱源を使用せずに金属粉末を超高速で吹き付けて結合、造形する超音速積層方式なども登場している。

 いずれにしても従来の加工方法とは根本的に異なることから、多くのメリットを生み出せることが注目されている。

これまでにない形状への加工を実現することができ、中空構造で軽量化が図れる他、一体造形によって部品数も削減できる。

大量生産に向かない製品でも、一品一葉の製造に対応できる。形状によっては切削に比べて使用する材料も減り、サステナビリティにも大きく貢献する。

金属3Dプリンタで自動車部品を量産?

 ただ、某工作機械メーカーの幹部は「早ければ2023年にも日本の大手自動車部品メーカーが、自動車なら必ず入っている部品をAMで製造する」と明かす。

時期的な見通しはともかく、今後装置の進化や低価格が進んでいけば、金属3Dプリンタの活用が一般的な自動車部品製造にも広まっていく可能性は高い。 

 日本AM協会の澤越俊幸氏は「装置だけで見れば追い付けないが、設計や後加工まで合わせたトータルのモノづくりならまだ海外に追い付ける可能性はある」と語る。

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金属3Dプリンタ普及に必要なものとは?

再び注目集まる金属3Dプリンタ、2023年は国内で本格普及元年となるか

 

金属3Dプリンタは以前から「モノづくりを変える」と大きな期待を背負ってきた製品ですがなかなか普及が進んでいません。

従来は切削や穴あけなど「引く」が中心だった金属加工装置に対し、溶かした金属を層状に積み上げる積層造形(Additive ManufacturingAM)により「足す」加工を新たに実現できるようになります。

 

この新たな「足す」金属加工が可能となったことで、中空形状など切削では複数部品を組み合わせなければ 実現できなかった製品を一体で造形できるようになります。

 

また、異種金属の接合や肉盛り、コーティングなども容易に行え、「引く」金属加工による材料の無駄なども削減できます。

 

こうした期待があるにもかかわらず、なかなか普及が進まない要因として、相互に関係する3つの壁があるといわれています。

 

1つ目は、コストです。主に最終製品の製造で使われるような金属3Dプリンタは、安くても数千万円、通常は1億円を大きく上回る価格となります。

 

こうした大型投資に見合う価値をなかなか見いだせないことが普及を阻んでいるというわけです。

 

2つ目は、用途です。億単位の投資に見合うだけの用途となるとどうしても、その設備で作る製品も高額な領域に絞られてきます。海外でも大きく導入が進んでいるのは、何よりも軽量であることが大きな価値を生む 航空/宇宙産業だとされています。

 

積層造形技術の普及や啓もうを進める日本AM協会の澤越俊幸氏は「航空/宇宙産業が日本ではあまり大きくないところが金属3Dプリンタ普及を難しくしているところもある」と語っていました。

 

大型投資に見合う用途をどう開拓するのかに多くの金属3Dプリンタメーカーが苦労しているといえるでしょう。

 

3つ目は、発想です。用途開拓とも関係しますが、従来の「引く」加工ベースのモノづくりの発想で製品設計していては、金属3Dプリンタの真価は発揮できず、到底採算がとれる投資にはなり得ません。

 

金属3Dプリンタが価値を生むためには、「足す」加工をベースとした全く新しい発想から生まれる製品設計や工程改革が必要になるのです。こうしたモノづくり改革になかなか踏み込むのが難しいというのが、普及を阻む要因となっています。

 

金属3Dプリンタ活用3つのハードルと日本のモノづくりの今後

 

これらの壁を破るために、国策プロジェクトなどの低価格化への取り組みや、新たな発想を生み出す金属3Dプリンタによる試作サービスの展開など、業界でもさまざまな取り組みが進められてきましたが、いまだに これらの壁を突破する決定的な動きはないといえます。

 

ただ、これらの3つは相互に深く関係しあっているのでどれか1つが突破できれば、一気に普及が進む可能性もあります。

 

そういう意味で最近取り組みとして注目しているのが、周辺作業なども含めた製造プロセス全体の生産性向上につなげて提案する動きです。金属3Dプリンタでの造形は積層するためにどうしても時間がかかります。

また、造形後の積層跡の仕上げ加工が必要だったり、サポート材の除去作業が発生したりします。

さらに、これらの作業を行うたびに、検査も必要で、出し入れや運搬などの付帯作業も発生します。 

 

設備以外にも相当の手間やコストが生じるため、これらをひっくるめて、さらに前工程や後工程との接続やライン全体なども含めて、モノづくりプロセス全体の改革を訴えようというのが新たな動きです。

 

これができれば、生産ライン全体の単位でのコスト削減を考慮できるために、金属3Dプリンタのコスト問題がある程度吸収できる可能性があります。

 

また、新たなプロセスを前提とするために、従来技術に引っ張られずに新たな発想でのモノづくりも構築しやすくなります。

さらに、こうした課題がクリアできれば、新たな用途開拓も進むかもしれません。もちろん、この動きも決して容易なものではないのですが「モノづくりのプロセスの革新」をメインとしたソリューション提案を中心とすることで、金属3Dプリンタの新たな価値が開けるのではないかと見ています。

MONOist 三島一孝)


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