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官製半導体メーカー「ラピダス」の大きな課題

製造できても収益は生めず?

2023.03.01

 by 中島聡

 経済産業省が旗振り役となり、日本の名だたる企業8社の出資で昨年11月に設立された次世代半導体メーカー「Rapidus(ラピダス)」。

2nm世代プロセス半導体を2027年までに量産する計画ですが、目指すゴールがそこになってはいないかと疑問を呈するのは、Windows95を設計した日本人として知られる世界的エンジニアの中島聡さん。日経クロステックに掲載された半導体専門のアナリストによる的確な分析を補足しながら、最も大きな課題と本当に目指すべきゴールがどこにあるかをシビアに指摘しています。



私の目に止まった記事:日本の主要企業8社の支援を受けて設立された半導体メーカー「ラピダス」が抱える問題

● 台湾アナリストが分析するラピダス、「製造できるが採算合わい」 | 日経クロステッ

事業として立ち上がるまで数兆円が必要と呼ばれるラピダスに関して、私はここまで「(日本政府が資金を提供し、関係会社からサラリーマンたちが天下りしてくる、という)座組み」の面での懸念を表明して来ましたが、この記事は、半導体専門のアナリスト目線で、ラピダスが抱える課題を的確にしているという興味深い記事です。

要約すると、
● 2027
年までに2nm世代プロセス半導体を量産するという計画は、技術的には達成可能だが、歩留まりや

    生産性を高めて収益性のあるビジネスにするのは困難
理由は、経験不足、資金不足、顧客の不在

特に心配なのは、資金です。

日本政府はラピダスに700億円を拠出すると発表しましたが、業界トップのTSMCの投資額は、年間4兆円を超えており、量産化に必要とされる資金は数兆円と言われています。巨額の財政赤字を抱え、加速する少子高齢化でますます悪化する国家の財政を考えると、2027年まで日本政府が資金を提供し続けられるとは限りません。

たとえ日本政府の資金援助が2027年まで続いたとしても、資金を提供する日本政府も、ラピダス関係者も、2027年までに2nm世代プロセス半導体を量産する」ことだけをゴールにしているように見えるのが何よりも心配です。

今の段階から量産体制を作った後、収益が上がる事業にするには、さらにどのくらいの年月と資金が必要なのかという議論をしっかりとしておき、「収益が上がる事業にする」ことをゴールにしない限り、「(税金を数兆円投入して)2nm世代プロセス半導体の量産化を達成したのに、赤字の垂れ流しで、事業を継続できないという最悪の事態にもなりかねません。

先端半導体の量産を主導する台湾TSMC(台湾積体電路製造)を擁する台湾からは、2nm世代プロセスの量産を目指すファウンドリー企業Rapidus(ラピダス、東京・千代田)はどのように見えるのか。同プロセスは、世界でも限られたトップファウンドリーが量産を目指す技術である。台湾に拠点を置くアナリスト集団Isaiah ResearchのVice PresidentであるLucy Chen氏に聞いた。

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【質問】ラピダスは2nm世代プロセス半導体を量産できるか?

【回答】技術的には可能だろう。ただし、収益性のある量産の実現はまだ難しい。

 2022年11月にラピダスの設立が発表され、2027年までに2nm世代プロセス半導体を量産する計画であることを明らかにしました。Isaiah Researchの見立てでは、量産は技術的には可能です。ただし、歩留まりや生産性を高め、利益を生み出せる水準を達成できるかにはまだ疑問があります。

 2nm世代プロセスの量産が達成可能なのは、海外企業からの支援や、日本の半導体材料・装置への強みがあるからです。

ラピダスには、最先端の技術開発拠点やイノベーションハブを持つ、米IBMやベルギーimecからの強力な技術的支援があります。

半導体材料では、同市場の半分以上を日本企業の製品が占めます。具体的には、レジスト、エッチングガスなどで日本企業がほぼ独占しています。

半導体装置では、東京エレクトロンがエッチング装置で世界最大級のベンダーです。

さらに、先端半導体に欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置向けのマスクブランクス検査やレビュー装置を手がけるのも、日本企業であるレーザーテックです。

同社はEUV露光装置市場の成長に伴い、さらなる受注を見込んでいます。 ※マスクブランクス=フォトマスクを製造するための材料。

これらの企業の支援によって2nm世代プロセスは量産可能です。

 しかしながら、われわれはスケールメリットを生み出す可能性はまだ低いとみています。

理由は主に3つ。(1)先端ノードの量産経験不足、(2)資金の不足、(3)先端ノードを必要とする顧客の確保の不透明さ――といった点からです。

 まず(1)として、ラピダスは先端ノードの量産経験が不足しています。

ラピダスにとっては、2nm世代プロセスの量産に必要な半導体装置や材料を手に入れるのは容易だとしても、一定のスケールメリットを得るにはプロセスインテグレーションや生産性の向上に向けた調整など課題が山積みです。 ※プロセスインテグレーション=製造工程を組み合わせ、互いに矛盾しないようにして製造すること。 

 2nm世代プロセストランジスタの基本構造として、GAA(Gate All Around) FETが挙げられます。

GAAは部分的には前世代のFinFETから製造します。ラピダスにとっては、GAAあるいはFinFETの量産技術ノウハウを得ることが重要になります。

 ただ、このFinFETの量産技術をどこから得るのかが問題です。日本企業の現状の最先端ノードはルネサス エレクトロニクスの40nmプロセスで、CMOSプロセスとMCU(Micro Controller Unit、マイクロコントローラー)製品の生産技術に基づいています。

10nm世代プロセス以降のノードを開発するには、GAAやFinFETのようなトランジスタの製造経験が要ります。

両技術はリーク電流やエネルギー損失を制御するカギであり、これなしに2nm世代プロセスを高い歩留まり、かつ高性能で量産することは難しいからです。

 

 TSMCも歩留まり向上に難航 

 TSMCのFinFET 3nm世代プロセスを例にとりましょう。

2022年下半期の量産開始時点では、40~50%のかなり低い歩留まりからスタートしています。

前世代となる同5nm世代プロセスは2020年上半期、50~60%の歩留まりで始まりました。

TSMCがより収益性のある75%以上の歩留まりに向上するには、最短でも、2023年下半期までかかりそうです。

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