· 

30年ぶり賃上げがもたらす最悪の格差社会


恩恵のない弱者と年金生活者は物価上昇で火の車

                              斎藤満

                           2023年1月14日

日本の賃金が30年ぶりの引き上げモードに入っています。ユニクロのファーストリテイリングは年収の最大40%増、人件費全体で15%増を打ち出しました。これは周辺企業にも影響が見込まれています。30年間なかったことが起こるだけに、多くの変化が予想されます。その光と影を追ってみます。


    ☞ 日本の年収、30年で40万円減 

日本の賃金がこの30年間まったく増えず、実質賃金は低下傾向にあることは、OECD(経済協力開発機構)の調査などで明らかにされています。主要国との比較でみると、この間賃金がまったく増えていないのは日本だけで、その異常さが浮き彫りされています。 (中略) 

企業は最大のコストにあたる人件費を抑えることで、販売価格を抑え、競争力を維持してきましたが、最近の人手不足、消費の長期低迷形でしっぺ返しを受けるようになりました。国際比較はドルベースでなされ、91年から2014年までは円金額で減少傾向にあったものの、この間の円高でドルベースではほぼ横ばいなりました。

逆に2014年から21年にかけて円ベースでは年収で14万円増えましたが、この間為替は円安となったため、ドルベスではむしろ減少、30年間ドルベースではまったく増えない形となりました。

(中略)

物価押し上げ圧力

そしてもう1つ大きな問題となるのが、賃上げさらなる物価高要因となることです。

政府や産業界は物価高を賃上げでカバーすると言いますが、生産性上昇で賃上げ余力の大きいところばかりではありません。

生産性は上がらないけれども、人手不足の中で他社が賃上げすれば、自社も上げざるを得なくなります。これは新たなコスト高要因となります。

賃金と経済の好循環は、生産性上昇内の賃上げで、物価に影響を与えない場合になりますが、実際は低い生産性上昇率の中での賃上げが労働コストの上昇で収益を圧迫する面が出てきます。これまでは値上げに慎重だった企業も、最近では「赤信号、皆で渡れば怖くない」と言って価格転嫁に出ています。

値上げへの抵抗が薄くなっている分、賃金コスト高が新たな物価押し上げ要因になります。

米国では物価圧力となる賃上げを抑制するために金融引き締めで需要を抑え、「賃金物価の悪循環」を断ち切ろうとしています。

日本は輸入コスト高に新たに人件費コスト高が加わるので、欧米に遅れてインフレ、それも今後は国産インフレを招く可能性があり、労働者の実質賃金回復は難しくなります。

そして政府は新たに所得格差の問題にも対処する必要があり、弱者支援、分配の是正にこれまで以上に注力する必要があります。


メール・BLOG の転送厳禁です!!  よろしくお願いします。