「年金が高齢化で維持できない」と信じる人の誤解
その議論は労働生産性や財源見直しを考慮したか
フアン・トーレス・ロペス : スペイン・セビリア大学応用経済学教授
2023年01月10日
「Econofakes エコノフェイクス」とはスペイン・セビリア大学応用経済学教授であるフアン・トーレス・ロペスがつくりだした「経済のウソ」という意味の造語だ。「経済学は、難解で抽象的な数式で提示されると、科学的で議論の余地のない真実のように見える。
しかし、経済学には『科学』で存在するような普遍的な『法則』が必ずしも存在していない。実際は仲間内で権威を与え合う経済学者たちのゆがんだイデオロギーによって導き出された『ウソ』に満ちあふれている。そして、この『ウソ』によって権力や富が一部に集中するシステムが正当化されているのにも関わらず、多くの人はそのことに気づいていないのだ」とトーレス教授は言う。その「ウソ」とはいったいどんなものなのか? そして「ホント」とは?
増え続ける退職者を賄うのは不可能?
★ウソ 人口の高齢化によって公的年金制度が維持できなくなる
急速に進む高齢化によって、近い将来、公的年金制度が破綻するだろうという話は、誰もが何度か聞いたことがあるのではなかろうか。
このような発言の源となる研究を行っている経済学者たちは、洗練された数式やモデルを使って同じ主張をするが、その理屈はさほど難しくない。
近代の年金システムが登場した当時、65歳まで生きられる人は3人に1人しかいなかったが、現在その数は10人中9人になった。そのため「現在の公的年金制度では増えつづける退職者を賄うこと」は不可能だというものだ。一見、明快で当然のことのように見えるが、この主張は偽りだ。
この主張を何度繰り返そうが、公的年金の未来を危うくするのは国民の高齢化という人口問題だとするのは間違っている。
公的年金制度に人口がかかわっていることは明らかであり、とても重要な点だ。直接的には、年金受給者の人数と年金を受け取る期間、間接的には、年金の財源となる社会保険料やその他の税金を収める人口だ。しかし、いかなる人口変動も「公的年金は支給ができなくなる」要因ではない。
そのことを証明する理由はいくつもある。それらの理由を大きく3つのグループに分けて説明しよう。
1つ目は、人口推移の予測の難しさである。
2つ目は、人口が年金に及ぼす影響は、市場における労働力や生産活動、さらにいえば経済全体と切り離しては考えられないという事実だ。
3つ目は、公的年金制度の収入と支出の財政バランスは保てるということだ。
人口の高齢化で将来的に年金を支えきれなくなると断言するには、総人口が時間とともにどう推移するかだけでなく、年代ごとの人口分布と、社会集団ごとの寿命の推移も考慮する必要があり、分析は非常に難しい。いまの技術では、将来の人口について科学的な予測ができないことがわかっている。
数年後の総人口や65歳以上の人口、または他の年代の人口すら正確にわからないのに、平均寿命や1人の女性から生まれる子供の数を予測するのは不可能だ。それなのに、30年か40年後には間違いなく年金の財源がなくなるほどの高齢化社会になっているなどと言い切れるだろうか?
2つ目の理由も同じように明快だ。
定年人口が多ければ多いほど年金受給者の数は増え、そのために必要な支出も増える。
しかし、年金受給者の数が増えるからといって、必ずしも彼らの年金となる分の収入を生み出す人口が減るとは限らない。 この影響を分析する際、人口の推移を、労働市場、生産、そして社会全体の動向と切り離して考えることはできない。
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