日本の20年後「医療・福祉が最大産業」という異様
ほかの産業が成長するのとは性質が大きく異なる
野口 悠紀雄 : 一橋大学名誉教授
2022年09月04日
今後、医療・福祉産業が拡大する半面で他の産業が縮小するため、日本の経済構造は大きく変わる。こうした経済を維持できるのだろうか?
「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」に基づくマンパワーのシミュレーション」(2018年5月)において、条件を変えた場合のシミュレーションが行われている。それによると、2040年度における医療・福祉分野の就業者数は、つぎのとおりだ。
「医療・介護の需要が低下した場合」には、983万人。
「生産性が向上した場合」には1012万人だ。
このように、結果は上記「計画ベース」とあまり変わらない。
将来における医療介護技術の進歩が期待されるのだが、必要な就業者数にはあまり 大きな影響を与えないことがわかる。
医療・福祉の比率は2002→2020年で2倍近くに
製造業、卸売・小売業、医療・福祉の就業者の全就業者に対する比率は、2002年には、それぞれ、19.0%、17.5%、7.5%だった。
製造業と卸売・小売業の就業者数が時系列的に減少しているため、この比率は、2020年には、それぞれ、15.7%、15.8%、12.9%となった。
医療・福祉の比率は、この間に2倍近くになったのである。
2031年には、この比率が、15.85%、16.95%、15.90%となって、医療・福祉が製造業を抜く(卸売・小売業は、就業者数は減っているのだが、全体の就業者数の減少が著しいので、比率は上昇する)。
そして、2037年には、15.96%、17.59%、17.80%となって、医療・福祉が卸売・小売を抜き、就業者数で見て、日本最大の産業となる。
2040年では、16.0%、17.9%、18.8%となり、医療・福祉は、製造業よりかなり規模の大きな産業となる。
医療・福祉以外の産業は、就業者数で見て減少を続ける。したがって、ごく少数の例外を除いて、今後は量的な拡大を期待することができない。
成長を前提とした経営戦略は成り立たないのだ。マイナス成長のビジネスモデルを確立する必要があるだろう。
医療・福祉産業においては、他の産業での売上げに相当するものが、市場を通じるのではなく、医療保険や介護保険といった公的な制度を通じて集められる。だから、資源配分の適正化について市場メカニズムを通じて行えない。医療単価の決定などの公的な決定によって、資源配分が大きく左右される。
こうした制度で資源配分の適正化を実現するのは、きわめて難しいだろう。さらに、医療・福祉制度を機能させ続けるには、医療・介護保険の財源を確保することが重要だ。今年7月の参議院選挙で、野党は、物価対策として消費税の減税政策を掲げた。
しかし、仮にそうした政策を実行すれば、将来の医療・福祉は、深刻な危機に陥る。長期的な見通しを踏まえて、責任ある経済政策が求められる。
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