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東大生が数学嫌いに伝えたい「面白さがわかる」技


「数学ができる人とできない人は、いったい何が違うんだろう?」

永田 耕作 : 現役東大生

2022年06月17日

 世の中で私たちが目や耳にする情報には、「数字」があふれています。「30分200円」と掲げられた駐車場の看板や「9時25分」と時刻を示す腕時計など、私たちはつねに数字に触れながら日常生活を送っています。

 

*「12」がよく使われているのはなぜなのか

例えば「12」という数字は、12星座、12カ月、1ダース、12時間と数多くのシチュエーションで使われています。

なぜこんなに12がありふれているのか、わかりますか。

12は約数が6個(1、2、3、4、6、12)と20までの数字の中で一番多いです。

2でも3でも4でも割れるため、12カ月を4つの季節に分ける、12個のものを3人で分けるといった、分割するのに便利な数字なんですね。

こんなふうに、1つひとつの数字にはいろんな背景が隠されています。みなさんが知らないだけで、数学は日常から学べる科目なのです。

今日は数学ができるようになる、日常に隠された数学について、3つの事例でみなさんにお話しさせていただければと思います。

 ①「勾配10%」と「10度の坂道」は違う?

1つ目は、道路の標識で険しい上り坂や下り坂によく見られる、「勾配10%」などの警戒標識に隠されている数学的な意味について説明します。

誤解されがちなのですが、実は「勾配10%」という数字の意味は、坂の角度が水平な地面から測って10度である、という意味ではないのです。

端的に言うと、1%=1度にはなっていないのです。

角度に関しては、皆さんご存じのとおり、一周を360度と定義し、直角が90度、真っ直ぐに開いた直線の角度が180度と表されています。

では、勾配の「パーセント」は何を表しているのでしょうか。

このパーセントは、「水平方向に進んだ距離の長さに対しての、垂直方向に上昇した高さの割合」を表しています。

一般的に道路標識においては、「100m進んだ際に上昇した高さ(m)」がその値になっています。つまり、角度とはそもそも測り方が異なるのです。

 

* 勾配には「タンジェント」が使われている

ちなみに、勾配10%は角度で表すとおよそ5.7度となります。勾配20%はおよそ11.3度、そして、勾配100%はピッタリ角度45度を表します。

ここまで説明してきて、ピンと来た人もいるかもしれません。

そうです、この「勾配」には、数学の三角関数の1つである「tan(タンジェント)」が使われているのです。

タンジェントを皆さん覚えていますか。「sin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)」の1つです。

高校数学で習う大きな概念の1つになります。 

このタンジェントは、「直角三角形の1つの鋭角に対する、底辺と対辺の比」であると定義づけられています。

つまり、上で説明した勾配のパーセントとまったく同じように、「進んだ距離の長さと、上昇した高さの比」であるのです。

 

そう考えると、tan45°が1であることから、45度の坂道が勾配100%と対応していることも納得できるのではないでしょうか。

「角度」を「三角関数」で数値化して、それを百分率に直したものが「勾配」。

最近使い道があるのかと議論されていた三角関数ですが、意外なところで日常に活用されていたのです。 

こういったところから学んでおくと、三角関数に対してより深い理解ができるようになるのです。

 ②「198円」の表記に隠された2つの思惑

2つ目は、スーパーマーケットや飲食店などでよく見る、「198円」や「299円」などの表記に隠された背景について考えていきましょう。

飲食店にしろ、雑貨屋などにしろ、お店にはそれぞれの商品の値段を示す「値札」が存在します。

その値札に書かれている値段は、499円、3980円というような、キリの良い値段にギリギリ数円、数十円届かないものが多いと思いませんか。

「この理由はなぜなのでしょう?」と聞かれた時、「そのほうが、値段が安く感じられるから」と答える人が多いと思います。

これは正解の1つです。

確かに、200円と2円しか値段が変わらないとしても、198円と表記することで「100円台の品物である」という印象をお客様側に与えることができます。

2万円よりも「1万9800円!」と言ったほうが安く感じるという人もいるはずです。

商品を購入するかどうかを考えるうえで、その値段が安いと思うか、高いかと思うか、という指標はとても大きな影響があります。

相手によい印象を与え、より多くの品物を購入してもらえるように店側は値札表記を工夫しているのでしょう。

 

*「ポイントカード」のカラクリ

しかし、実はもう1つ意味が隠されています。

これは「少し考えすぎでは?」と思う人もいるかもしれませんが、僕は大事な視点だと思っています。

それは、最近多くのお店が導入している「ポイントカード」です。

小売店やスーパーマーケットなどのポイントカードは、「100円で1ポイント付与」「200円で1ポイント付与」という形態のものが多いです。

そして基本的に、150円であっても180円であっても、「100円で1ポイント」なら1ポイントのみ、「200円で1ポイント」であればポイントがもらえない、というシステムになっています。つまり、「198円」であっても、100円分しかポイントがつかないということなのです。

これに対して、みなさんは「そんなの大したことじゃなくない?」と思う人も多いでしょうが、毎日のように買い物をする人にとっては、1回1ポイントの差は、何カ月、何年も経つと大きな差になります。

ここまで考えてみると、「198円」という表記の見え方がまた変わってくるのではないでしょうか。

さまざまな思惑が重なり合い、値段が決められているということです。

こうした値段に対する感度が高いと、中学の代数や高校数学のデータの分析などの分野がより違った見え方をしてくるようになります。 

 ③インターネットの暗号化には「素数」が使われている

さて最後は、インターネットのセキュリティーに用いられている数学についてみていきましょう。

「素数」を知っていますか。

素数とは、「1とその数以外を約数に持たない数」と定義づけられており、小さい順に2、3、5、7、11、13……と続いていきます。

この素数、実は皆さんが日ごろ当たり前のように利用しているインターネットの暗号化に利用されているのです。

ここでは、その仕組みについて簡単に説明したいと思います。

インターネット上に個人のクレジットカードの情報を入力したとしましょう。

その際、カードの情報は素数を使った暗号で守られます。

具体的には、269と347といった2つの素数を掛け合わせて「93343」という数を作ります。

これがインターネット上で行われる「暗号化」です。

これを解読するには、93343という数字を「269×347」という2つの素数に分解する必要があります。これが暗号の解読なのです。

 

* 素数を割り出すのは非常に難しい作業

さて、ここで考えてみてください。

「269×347」という計算は、時間はかかるとしても多くの人が筆算によって計算することができると思います。

ですが、「93343」は何と何の掛け算でしょうか?と言われたとして、計算することできるでしょうか。

まだこのくらいの数字では、計算の得意な人ならば解読できるかもしれません。

しかし、20桁や30桁、それ以上と言った膨大な数になるとどうでしょう。

人間の力ではとうてい不可能で、計算機、スーパーコンピューターを使っても非常に厳しい解読作業になります。

これが「暗号化」の仕組みなのです。つまり、この素数の暗号が、誰も解くことができないという前提で暗号化が行われているのです。

このように考えてみると、何気なく授業で習っていた「素数」も、面白みが出てくるのではないでしょうか。

素数は中学高校問わず問題に使われる非常に重要なテーマなのですが、普段の生活の中にありふれているというわけなのですね。

いかがでしょうか。

このように、数学は非常に幅広い分野で日常に応用されているのです。

東大生は、机の上だけではなく日常生活の中でも勉強しています。

数字は本当にいろんなところに存在しており、そしてその数字を追っていくと、机の上での勉強でも活かせます。

「学校で習ったことは社会では活かせない」なんて言われており、数学はその際たる例として取り沙汰されがちですが、しかし実はそんなことはないのです。

みなさん、ぜひ日常に隠れた数字を探してみてください! 

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