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地方銀行、頭痛の種となっている「3大リスク」


有価証券の含み損など個別指標をランキング化

藤原 宏成 : 東洋経済 記者

2022年06月17日

①有価証券の含み損、②保証依存度、③自己資本比率という個別指標でランキング。

経営リスクが大きい地方銀行をあぶり出す。 

 「まさに時限爆弾ですよ」。

ある地方銀行の財務担当者は、2021年度の地銀各行の決算を眺めながらそうつぶやいた。

この財務担当者が“時限爆弾”と表現したのは「その他有価証券評価損益」だ。

地銀は、金融緩和で日本国債の利回りが低迷する中、少しでも高い利回りが望める外国債券の運用を積極化してきた。

 ところが、足元で米金利が上昇し、外債の価値が急減。

2021年度の業績がよく、余裕のあるうちに損切りができた」(冒頭の財務担当者)という地銀もある一方で、収益基盤の弱い銀行は含み損を抱え込むことになってしまった。

米国の利上げは今後も続く見通し。となれば、含み損はますます拡大し、場合によっては減損処理が必要になる。

 それゆえ、時限爆弾とみられているわけだ。各行の決算を細かく見れば、そうしたリスクが如実に浮かび上がってくる。

14行が含み損抱える

ここでは、懸念される地銀の3つのリスクについて、個別のランキング形式で見ていこう。

まずは、冒頭でも触れた、その他有価証券評価損益の指標だ。

表では、2021年度決算で含み損を抱えた14行を並べた。

最も含み損が大きいのは栃木銀行。前年度から含み損を抱えていたが、それが大幅に拡大した形だ。

2位以下を見ていくと、SBIホールディングスと関係する地銀の名前が、ずらりと並んでいる。SBIを頼って拡大した外債投資が、地銀の首を絞めていることがよくわかる。


2つ目の指標は、「保証依存度」だ。

保証依存度とは、信用保証協会の保証付きの融資が貸出金に占める割合を指している。

保証付き融資は、コロナ禍で資金繰りに苦しむ企業を支えるため、無利子・無担保で貸し出す「ゼロゼロ融資」を中心に大きく拡大。

この融資は、万が一融資先企業が倒産した場合でも、保証協会が損失を全額肩代わりする。借り手企業から見れば無利子・無担保となっているが、銀行側は融資した際の利子に相当する金額を利子補給として受け取っている

つまり、地銀は目利きをすることなく、ノーリスクで収益を上げることができるわけだ。ただし、この恩恵はもうすぐ受けられなくなる。

無利子となる期間は3年、元金返済の猶予据え置き期間は最大5年に設定されているのだ。

制度が導入されたのは2020年5月で、2023年5月には借り手企業の利子返済が始まる。

 利子返済が必要となれば、手元資金が十分な企業は融資を返済する方向に動くだろう。

地銀としては、そこから得られていた収益がごそっと剥がれ落ちることになる。


* 不良債権比率が上がってきたら要注意

さらなる悲観シナリオもある。

コロナ禍が長引く中で財務が改善していない企業は、返済ができず倒産に至る可能性もあるのだ。

無利子・無担保融資自体は保証されるものの、その企業に対して過去に融資していた部分は焦げ付くリスクを抱えているわけだ。次の表を見ると、保証付き融資の比率(保証債務残高比率)が10%を超える地銀も少なくない。

 中でも福岡中央銀行は突出しており、20%を超える

全体を見ると、規模の小さい第二地銀や愛知県を地盤とする地銀が多い。

顧客企業の数やニーズに対応した結果ではあるものの、じわじわと不良債権比率が上がってきたら要注意だ。

3つ目の指標は、自己資本比率。

銀行には自己資本比率規制があり、海外営業拠点のない「国内基準行」は4%以上、海外拠点を持つ「国際基準行」は8%以上が求められている。

地銀の大半は海外営業拠点を持たない「国内基準行」だが、8%を1つの目安とみることが多い。

21年度の決算では、6%台の地銀が2行あった(表)。

前年度末時点ではどちらも7%を超えており、規制水準の4%にぐっと近づいた格好だ。

 


* 有価証券の減損ショックに耐え切れるか

足元では、コロナ禍対応で貸出残高が増えており、自己資本比率を算出する際の分母が機械的に膨らむことで、比率が低くなりやすい局面にある。

期間収益を着実に積み上げ、自己資本比率を高めていかなければ、有価証券の減損といったショックに耐え切れなくなる懸念もある。そうしたリスクの顕在化が、今後新たな地銀再編を招く可能性は否定できない。   

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