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日本から世界を驚かす会社が出ない根本的な事情

鈴木 貴博 : 経済評論家、百年コンサルティング代表

2022年06月16日

 

* 21世紀のリーダーの条件は「イカれていること」

21世紀に入って以降、グローバル企業のリーダーの資質はこれまでの常識とは大きく変わりました。

20世紀の優れた経営者といえば、GE再興の祖であるジャック・ウェルチのようなイメージが典型例でした。

厳しさと実行力、高い目標管理能力を兼ね備えた経営者です。

多数の事業を傘下に抱え、それぞれを率いる事業部長同士を競わせる。

ダメな部門は売却し、その資金で新しい会社をM&Aする。

そのようにしてGEは電機メーカーから脱却し、20世紀末には世界有数の金融コングロマリットに成長しました。

 ところが21世紀に入って20年たった段階で見れば、資本市場でのGEの存在感は地に墜ちています。

企業としてどのような未来に向かっているのかがわからない。

直近の時価総額は820億ドル(約11兆円、2022年4月末時点)とソニーやNTTよりも小さな存在です。

GEに代わって21世紀の資本市場をリードしてきたレジェンド級の企業トップの顔触れを見ると、21世紀を引っ張るリーダーの新しい共通項が見えてきます。

すでに引退したり死去した人を含めて名前を挙げていくと、・・・

 ・スティーブ・ジョブズ(アップル)

 ・ビル・ゲイツ(マイクロソフト)

 ・ジェフ・ベゾス(アマゾン)

 ・ラリー・ペイジ(グーグル、アルファベット)

 ・マーク・ザッカーバーグ(メタ、旧フェイスブック)

 ・イーロン・マスク(テスラ、スペースX)

これらの企業の共通点は2つあります。

1つはこの6社すべてが少なくとも一度は、20世紀には前人未踏だった時価総額1兆ドル(約130兆円)に近年到達した企業であること。そして、もう1つは彼ら6人全員がいい意味で「頭がイカれている」ことです。

その共通点以外は6人とも個性はさまざまで、人格者もいれば一緒に働きたくない人もいますし、老練で洞察力に優れた人もいれば若くてエネルギッシュな人もいます。

 「頭がイカれている」という言葉はきつく見えるかもしれませんが、けなす意図はまったくなく、悪い意味で言っているのでもなく、むしろ褒めています。

個性の差はあれど未来を描く発想がぶっ飛んでいるという点が共通している。

21世紀のリーダーに必要なことは、「常識人の発想を超えた未来を描くことができる」という資質なのです。

 ビル・ゲイツはマイクロソフトを世界一の企業に育て、現在ではビル&メリンダ・ゲイツ財団でイノベーションを加速する仕事をしています。主な関心としては、伝染病の撲滅や21世紀型の原子力開発の推進など誰も手をつけようとしていなかった領域に注目し、その分野の専門家を集めてリーダーシップを発揮しています。

 アマゾン創業者のジェフ・ベゾスはトヨタ方式のカイゼンをインターネット通販に導入しました。

世界最大級の注文をさばくために、当初は巨大な倉庫で低賃金の労働者に1日16キロを歩くような重労働を強いて、「ブラック企業だ」と世間から批判されていたのですが、すぐに「人が歩いて商品をピックアップするよりも、倉庫の棚が歩いてきたほうが早くピックアップできる」ことに気づいて倉庫の棚をすべてロボット化し、同時に重労働がなくなるという働き方改革も実現しました。宅配の際には再配達するよりも置きっぱなしにして盗まれた商品代金を補償したほうが安いことに気づき、置き配を導入します。

 フェイスブック(現メタ)創業者のマーク・ザッカーバーグはSNS事業以外に、仮想通貨リブラを発行することでお金の未来を変えることを構想しました。

彼の構想はイカれすぎていたために世界の中央銀行から敵だとみなされ、G20が全力でつぶしにかかりました。

計画が頓挫したことで株価が低迷しているとはいえ、現代の通貨システムの矛盾をイノベーションで変えようなどと考えるのは、いい意味で頭がぶっ飛んでいる証拠です。

 テスラのイーロン・マスクは、複数の大企業を同時に経営することで天才起業家の名をほしいままにしています。

ペイパルの母体となる企業を創業し、テスラと同時並行で立ち上げた民間宇宙会社スペースXはNASAに代わって宇宙飛行士を国際宇宙ステーションに運んでいます。

イーロン・マスクの構想の中でも発想がイカれているのが、真空列車と呼ばれるハイパーループです。

リニアモーターカーよりも理論的に速く走行できるこのハイパーループが実用化されれば、東京-大阪間とほぼ同じくらいの距離に相当するサンフランシスコ-ロサンゼルス間は35分でつながることになります。

 

*「同時多発的イネーブラー」がリーダーの条件を変えた

さて、1980年代から90年代にかけては主流ではなく傍流だったこのように頭のイカれたリーダーたちが、21世紀に入って世界の歴史を変える力を手に入れたのはなぜでしょうか。

その理由は「イネーブラー」と呼ばれるイノベーションを引き起こす新技術が、同時多発的に実用化レベルに達したことです。

これまでの歴史でもイネーブラーが出現することで世界の産業のルールが大きく変わることが何度もありました。

蒸気機関が実用化されて巨大工場、陸運、海運が一斉に近代化した19世紀の産業革命は現在の状況に近いかもしれません。

20世紀初頭の電力の普及、20世紀前半の自動車の出現、20世紀中盤のプラスチックの出現、20世紀後半の半導体の発展なども、それぞれのタイミングで歴史を変えるイネーブラーでした。

 21世紀の状況は20世紀のような単発のイネーブラー出現ではなく、19世紀型の同時多発的イネーブラー出現が引き起こした現象です。

インターネット、集積回路、人工知能、レーザー、人工衛星、5G、ドローン、3Dプリンタなどの技術が同時かつ急速に進化することで、それまで不可能だったイノベーションが日常的に起きるようになる。

そのような時代だからこそ、ぶっ飛んだ頭のリーダーの発想がビジネスとして実現してしまう。

結果として、「他のリーダーが思いつかないようなイノベーション戦略を手がけた企業が、世界の時価総額のかなりの分け前を手に入れる」時代、言い換えれば100兆円企業時代が到来したわけです。

 

* ベンチャーに期待をかける日本復活戦略は間違っている

 日本の経済界にはGAFAMのトップのようなリーダーはいないのでしょうか。

実はこのような新しいタイプの経営者は、ベンチャー企業のトップにはよくいらっしゃいます。

そして、私はここが良くも悪くも、日本経済の課題を示していると考えています。

 政府や財界が思い描く日本経済復活戦略は、ベンチャー企業の育成に主眼を置く考え主流です。

メルカリやZOZO、DeNAや楽天といったベンチャー出身の大企業が100社できるようになれば、合計して時価総額が100兆円とGAFAMに比肩しうる一大勢力が誕生するという考え方です。

キーエンス、日本電産、ファーストリテイリング、ソフトバンク、Zホールディングス(ヤフー、LINE、ZOZO)、ニトリなどオーナー系企業で日本のトップ100に入る企業群も、もともとは起業家だった創業者が成功し、ここまでの規模に育った企業群です。ですから、ベンチャーを育成しその裾野を広げることで日本経済の成長を狙うというのが正攻法だと考えるのは、間違ってはいないかもしれません。

 しかし、私はこの考え方にあえて異を唱えたいと思います。

確かに若手ベンチャー経営者は日本の未来を変えられるほどの発想を持っています。

しかし、ベンチャーの現場では常に資金が枯渇しています。

そもそも日本はベンチャー資金が集まりにくい国です。

2021年に日本で集まったスタートアップ企業の資金調達額は7800億円ほどだったのに対して、アメリカは約40兆円。

資金力で50倍の格差があります。

ものすごく優れた発想を持った起業家が構想した筋のいいビジネスモデルが、わずか数億円の資金の枯渇で成長できずに消えていく。それがベンチャーというものだといえばその通りなのですが、千尋の谷に突き落とされたライオンの仔たちが数匹しか上ってこられない仕組みになっている日本のベンチャー市場は非効率そのものです。

 

* 日本の強みである人材を使わないのはもったいない

それに、ベンチャーが資金を武器に戦うというのは、そもそもアメリカ的な資本主義に向いた仕組みです。

日本企業の最大の強みよりも人材にあります。そして日本の優秀な人材時価総額トップ500社に集中している。

そのリソースを使わない競争でアメリカに勝とうというのはもったいない。

つまり世界経済に対してイネーブラーを武器に戦いを仕かけようと考えるのであれば、日本の場合はベンチャー経営者が持つ発想と、大企業が持つ資金力・社員力をプラスして投入したほうがずっと勝ち目があります。

ソニー・コンピュータエンタテインメントは、その一番の成功例です。

 

それが大企業にできないから、日本の財界はベンチャーを育てようとします。そして、それはアメリカや中国ほどはうまくいっていません

しかし、実は日本経済にはベンチャーに頼る以外のもう一つの魔改造オプションがあります。

ここからは私の個人的な考えです。

もし、時価総額が1兆円を超えている大企業の次期社長は、頭のイカれたぶっとんだ人物を選ばなければならないと法律で決めたらどうなるのか?  東芝、住友化学、三井物産といった社員力の高い伝統企業のトップに、社内ないしは外部から発想のぶっ飛んだ30代・40代のCEOを登用したら革命が起きるかもしれない。

「そんなおかしな法律が成立するのか?」というツッコミはよくわかりますが、考えてみましょう。

 上場企業は社外取締役を置かなければいけないとか、女性の幹部起用比率を高めなければいけないとか、すでに法律やルールで幹部人事についての指導が入り、大企業はそれを実践しています。

だったら「大企業はイノベーションにのめり込むイカれた人物を社長に指名しなければならない」というルールもあってもいいと思いませんか。

出所 : 東洋経済オンライン


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