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司馬遼太郎が見抜いていたロシアという国の本質


『ロシアについて 北方の原形』司馬遼太郎 著/文藝春秋

何も変わらない強欲な素顔

2022.05.27 

 by 本のソムリエ『1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』

 ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始から3か月が経過しましたが、事態は好転する気配すら見えていません。そんなロシアについて、小説家・司馬遼太郎は何十年も前に国としての本質を見抜いていたようです。

そこで今回は、『坂の上の雲』を書いた際にロシアについて考えてたことをまとめた一冊を紹介します。


 【一日一冊】ロシアについて 北方の原形

1986年に『坂の上の雲』という大作を書いた司馬遼太郎が、ロシアについて考えてきたことをまとめた一冊です。

司馬のロシア感は、ロシアとは16世紀頃に成立した若い国家であるということです。

16世紀末にはイェルマークが、コザックに銃と大砲を持たせてシベリアに進出しました。

ロシアは大砲と銃によって原住民を抑圧し、毛皮をとりあげ、17世紀中には東端のカムチャッカ半島にまで到達するのです。

ロシアではシベリアとアラスカで毛皮を集め、販売する露米会社が存在しました。

この会社が事実上シベリアとアラスカを所有していたのです。当時の露米会社の課題は、シベリアで毛皮を集めて運ぶ商人の食料と野菜不足でした。

そこで南方の日本に毛皮を売り、食糧を買うことができれば、ロシアにとって一石二鳥。

ところが日本は鎖国政策をとっており、いかに日本を開国させるのか。

それは捕鯨をしていたアメリカと同じ問題意識を持っていたということなのでしょう。

 ロシア人によるロシア国家の決定的な成立は、わずか15、16世紀にすぎないのです。

若いぶんだけ、国家としてたけだけしい野性をもっている(p10)

ロシアの対外行動には、一つの法則があります。

それは、弱い国や地域には侵攻するものの、防衛力が整っている国に軍隊を派遣しようとはしないということです。

そして近隣地域で内乱がおきたときは、救援を求めてくるグループを支援し、そのグループを守るためという理由で派兵し、その地域をロシア領にしてしまうのです。

現在のロシアのウクライナ侵攻も、まったく同じように2014年に独立を宣言したドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国をネオナチの虐殺から救うということを名目としているのです。

銃と大砲こそがロシア人を象徴するものであると司馬さんは喝破していますが、現在は核とミサイルがロシアを象徴するものなのでしょう。

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ロシアの対外行動には、一つの法則がある…異民族地帯に乱がおこったときに、救援をもとめてくる一派の勢力に加担し、その一派から出兵を要請されたとして出兵し、そのあと「法を改め政を匡す」(ロシア領にする)(p220)

司馬さんはロシア人個人としては人が好いということもわかっているし、ロシア人は役人となると別人になるということもわかっているといいます。

私には、イヴァン4世(雷帝)の時代から、力による恐怖こそが支配者がロシアを統治する秘訣であるということも変わらないのだと感じました。

日本人を見ていても、江戸時代の鎖国の時代から防衛力としては貧弱であったし、明治維新や敗戦で体制が変わると、素早く変身してしまう。

国民性というものは、そんなに簡単に変わらないのかもしれないと感じました。


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