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NFTの見落としがちな本質


「8億円のドット絵」を生むNFT売買のカラクリ

大塚 雄介 : コインチェック執行役員

2022年05月21日

ビットコイン、ブロックチェーン、NFT(非代替性トークン)ーー。

これらの名称を、ニュースなどで目や耳にしない日はないほど、世の中への認知は広がりました。

ですが、どれだけの人がその内情を理解しているかというと、それほど多くないように思われます。

とはいえ、今さら誰かに聞くのはなかなか難しいでしょう。

かといって、自分で調べてみても、情報が多すぎて何が正しいのかさえわからなかった、という声も少なくありません。そこで、投資を考えている人にはもちろん、ビジネスパーソンの基礎知識として、話題が沸騰中のNFTについてお届けします。



  ビットコインから始まったブロックチェーン技術は、スマートコントラクトを実装したイーサリアムのプラットフォームの登場によって、

いよいよその対象を、暗号資産(仮想通貨)からクリエイティブの領域にまで拡大しつつあります。

デジタルコンテンツ・デジタルアート界の救世主ともウワサされる NFT(非代替性トークン)とは何なのか。

話題のNFTをくわしく解説します。

 

* NFTの「唯一無二性」とはどこにあるのか

NFT(Non-Fungible Token)は、イーサリアム・プラットフォーム上で、唯一無二の「一点物」を生み出せるトークンです。

NFT非代替性トークンと呼ぶのは、それが他では代わりが効かない「一点物」だからです。

NFTがこの世にはじめて登場したのは2017年のことでした。

「クリプトパンク(CryptoPunks)」には、24×24ピクセルの目の粗い「ドット絵」が1万点もあり、それぞれ異なるキャラクターが描かれています。

これがただのドット絵コレクションと違ったのは、その1つ1つの画像の「所有者」が、イーサリアムのブロックチェーン上に明記されていたことです。

これらの画像は一般のユーザーに売りに出され、それを買った人が転売する二次流通市場(マーケットプレイス)も用意されました。

画像は1つ1つ異なる「一点物」であり、全部で1万点しかないという希少性もあって、これらの画像を買って自分のコレクションとする人もいれば、買った画像をマーケットプレイスで売って儲けようとする人も現れました。

ほかの誰のものでもない、自分だけのデジタル作品という目新しさと、ブロックチェーン (「参加者の中に不正を働く者や正常に動作しない者がいたとしても正しい取引ができ、改ざんが非常に困難で、停止しない多数の参加者に同一のデータを分散保持させる仕組み」)がついにアートの世界に進出したという話題性もあって、マーケットプレイスでやりとりされる市場価格はどんどん跳ね上がります。

2021年4月にはついに、ただのドット絵1点に4200ETH(当時のレートでおよそ8億2000万円!)もの値がつき、大ニュースになったのです。

NFTをさらにメジャーにしたのは、育成ゲームの「クリプトキティーズ(Cryptokitties)」です。

ユーザーが「デジタルにゃんこ」を育成・繁殖させると、次々と新しいにゃんこが誕生します。そうして生まれた新種のにゃんこはどれも、ほかのにゃんこたちとは微妙に異なる、唯一無二の存在です。

 最大の特徴は、繁殖を決める遺伝アルゴリズムを、イーサリアムの スマートコントラクト (取引における契約を自動で行う仕組み)で自動化したところです。

ランダムな組み合わせで生まれてくるにゃんこたちは、ほかと被らないようにあらかじめ設計されているわけです。

自分だけの「一点物」のにゃんこたちの存在は、折しも2017年の ICOバブルに殺到していたユーザーたちのコレクター魂に火をつけました。

大量のユーザーが大量の取引を一斉に行った結果、売買に使われるイーサ(ETH)の処理能力が追いつかず、マーケットに大混乱を巻き起こしたのです。

クリプトキティーズは順調に成長を続け、世界的なブロックチェーンゲームの先駆けとなりました。

クリプトキティーズの運営元であるダッパーラボ(Dapper Labs)は、NBA公認のNFTトレーディングカードゲーム「NBAトップショット」も手がけていて、ブロックチェーンゲーム業界の注目のプレイヤーです。

 

* 唯一無二のトークン、とは?

ところで、NFTの「唯一無二のトークン」とはどういう意味なのでしょうか。

ビットコインからその他のアルトコイン、イーサリアム・プラットフォーム上で発行されるトークンに至るまで、ブロックチェーン上で扱われるあらゆるコインは、「このコインは自分のもの」といって取り出せるものではありません。

ブロックチェーン「誰から誰へいくら移動した」という取引(トランザクション)が記録された「台帳」にすぎないからで、Aさんが1コイン持っているといっても、そのコイン全体のうちの「1コイン分」を移動する権利を持っているにすぎず、その1コインにAさんの名前が記されているわけでもありません。

しかし、NFTは、この世にたった1つしかない唯一無二の「一点物」のトークンなので、「この画像は自分のもの」と宣言することができます。この画像とあの画像が「別の画像」であることは見ればわかるので、1つ1つの画像の持ち主が決まっていても、別に不思議でもなんでもないからです。

考えてみれば、暗号資産としてのトークンも、NFTとしてのトークンも、元をたどれば、0と1で表現されるデジタルデータにすぎません。違うのは、暗号資産が「人間にとって意味のない文字列」であるのに対して、NFTは「人間が目で見て認識できる画像に変換できる文字列」であるという点です。そして、「人間が目で見て認識できる画像」であれば、ちょっとした違いを「人間が目で見て識別できる」ようになります。

このコインとあのコインが「別のコイン」だと見分けられないのとは違って、この画像とあの画像は「別の画像」だと見分けられる。それによって、NFTは同じトークンでありながら、ほかのものとは代替できない「一意性(ユニークネス)」を獲得できたのです。

しかし、NFTを買った人がいくら「この画像は自分のもの」だと主張しても、その画像をほかの誰かが見ることを止めることはできません。

画像はデジタルデータなのでいくらでもコピーできるし、そもそも買った人しか見られないとしたら、その画像をインターネット上で販売することはできないからです。

そのため、唯一無二のNFT画像であっても、見る分には、ほとんどの場合「タダ(無料)」なのです。

 

* タダで見られるものにお金を払う心理

では、なぜタダで見られるものにお金を払うのか。

そこに疑問を感じるとしたら、その人はコレクター心理をわかっていないのかもしれません。

コレクターは「それを自分が持っている」ことに最大の喜びを感じるのであって、別の人が持っていて、頼めばいつでも見せてくれるからといって、「自分はいらない」「ほしくない」と思うようなら、そもそもその人はコレクターではないわけです。

高価な美術品のコレクターも、大枚はたいて購入した美術品を美術館に貸し出したりして、一般の人に公開するケースも少なくありません。

なかには自分の屋敷の奥に秘匿して、誰の目にも触れさせたくないというマニアックな愛好家もいるかもしれませんが、せっかく買った自分の貴重なコレクションを多くの人に見てもらいたい、と考える人もいるということです。

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