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日本人が英語会議で「使い物にならない」根本原因

リモート会議ならではの効率アップの方法がある

安藤 益代 : 株式会社プロゴス取締役会長

2022年05月07日

グローバルビジネスでは、コミュニケーションのスピードが価値を生みます。 

世界で英語を話す人は20億人と推定されています。そのなかで英語を母語とするネイティブは4億人に過ぎません。

ビジネスで英語を話す相手の圧倒的多くは、日本人と同じく外国語として英語を習得した人たちということになります。



 * どうにも英語のスピードについていけない

ただ、英語を母語としないという条件は同じなのに、彼らと仕事をするときにコミュニケーションの速さに差を感じることはありませんか。

仕事をする際、簡単なことであればメールやチャットでやりとりをし、包括的なことや複雑なこと、合意形成が必要な場合はリモート会議を開きます。

リモートのウェブ会議では、関係者同士で画面を共有して資料を確認し、お互いにアイデアを書き込んだり、編集し合ったりしながらものごとを決めていくというスタイルが増えてきています。

 パートナー企業と新規取引の契約条件を詰めるという事案を例に取りましょう。

個別の条件面をメールでやりとりして詰めていき、リモート会議でそれらを反映した契約書面を共有し、駆け引きをしながらその変更記録やコメントを書き込んでいきます。そして、合意形成ができたら「このドラフトをもとに、互いにリーガルチェックを1週間以内にやりましょう」といって打ち合わせを終える、といった流れです。このやりとりは、グローバルビジネスの世界でも同じです。 

 では、このやりとりを英語で行うことになったとしたら、あなたは問題なくできるでしょうか。

かなりハードルが高いと感じる方も多いのではないでしょうか。

先の事案を言語活動という観点からみると、ここでは、

 ・画面で契約書案を読む

 ・参加者の意見を聞く

 ・自分の見解を話す

 ・コメントや資料の変更点を入力する

 ・合意形成に向けてのやりとりをする

など、「聞く・読む・話す・書く」の4技能を同時にフルに使っています。

これを母語と同じようなスピードで英語で行うことは、容易ではありません。

そのため、こうした英語のリモート会議では日本人参加者によくこうした “ 困った事態 ” が起こります。

 ・英語が得意なメンバー同士がテンポの速いやりとりをし、話の流れについていけない

     結果、間髪を入れずに意見をいうことができなかったり、確認したいことを気後れして聞けなかったりする。

 ・メンバーのアクセント・発音・イントネーションが聞き取りにくかったり、使う語彙が日本人とは若干異なって

 いたりして、話がかみ合わない。結局、もやもやしたまま会議が終わってしまう。

 ・会議中にわからなかったことは後で詳しくメールで確認すればいいと思っていたら、ウェブ会議の間に結論を出す

  ことになり、慌てた

 ・駆け引きで譲れない点について「今この場では決められない」はっきり言えないまま曖昧な態度で会議が終わり、

     あとからあの時はOKだったんじゃなかったの?と言われてしまう。

 ・使い慣れているはずのビデオ会議システムなのに、英語で会議をしているというだけでチャットツールなどを使うのに

     まごついてしまう。

 

* 「日本人が相手だと生産性が下がる」と批判も

こうした日本のビジネスパーソンの様子を見て、会議の参加者からは「日本人が相手だと、意思決定に時間がかかるうえ、英語が不得手なので仕事を進めるのに時間がかかり生産性が下がる」という手厳しい声もあります。

いったい、どのように対処していけばいいのでしょうか。具体的に、4つの方法をあげます。

 

  1.スピードを意識する

自分の言語処理のスピ―トについて意識してみましょう。

まず リーディング について。資料が大量にあっても、必要かつ重要な点だけを把握する速読力が求められます。

1分間あたりに英語を読むスピードとしては、200~250字程度は欲しいものです。

逐一単語や語句の意味を理解していくだけではなく、文章の構成段落の構造を理解し、効率的に要点を探し出すことが、速読力の向上には欠かせません。

次に、話す力 についてです。英語を母語とする人の会話速度はだいたい、1分あたり150~200字程度です。

日本人の英語初学者の話すスピードが同100字くらいといわれているので、150字くらいをめざすとかなり会話についていける感じがしてきます。ただし、必ずしも常に話す速度が速ければよいわけではなく、実際には内容によってゆっくりと話して強調したり、速めたりとペースを変えることも重要です。

実際のビジネスシーンでスピードを上げていくために、学習や仕事の準備をするときには自分が現在できるレベルよりも少しハードルを上げることを習慣づけましょう。

リスニング については、聞き取りやすい、わかりやすいと感じるレベルにとどまらず、複雑な内容、なじみがないテーマ、訛りがある英語、早口の英語などに挑戦してみましょう。

また 話す力 については、あるテーマについての意見を、1分以上論理立てて一定の量を話すトレーニングが有効でしょう。

もちろん、こうした練習をしても一朝一夕で差が縮まるわけではありません。

こうした努力に加えて、会議前に入念に準備をするのが会議の生産性を高める手段としては即効性があるといえるでしょう。

 

  2.リモート会議ならではのコツをわきまえる

リモート会議では、相手の目に映る情報は画面でわかる範囲に限られます。

よって、カメラで映る範囲の表情と手振りを、いつもよりも大げさにするといいでしょう。

目線は、アイコンタクトではなく “ カメラコンタクト ” することになります。これは、慣れるまで結構難しいものです。

 

* 聴覚情報を有効に活用

さらに、聴覚情報については次のような点をより意識することが有効です。

・意識してはっきりと話し、語尾を曖昧にしない

結論を最初に言い、その理由や裏づけをあとから論理的に説明するという手法を徹底する。

聞いてほしいこと「これから大事なことを言う」と表明し、少しポーズをおいて注目を集めてからいう。

・前提知識や共有情報がないことを前提に、相手が理解できるようなローコンテクスト*1で話す。

始めに会議のゴール、つまり限られた時間内で出すアウトプットのイメージを参加者が共有する。

・会議に時間よりも早めに入っておき、雑談して信頼関係の構築をしやすくする。

・チャット機能をうまく使って、いいたいことの文字化参考情報の提示議論の流れを変えるコメントなどを差し込む。

こうしたコツをわきまえておけば、生産性を高める一助になるでしょう。

     *1:ローコンテクストとは、伝えるべきことを言語化することに重きを置くコミュニケーションで、文化等の共有性が低い場合に用いられる。

 

  3.根本的な解決策は、今までよりも高い英語力をつけること

リモートで業務を行い、オンライン会議が増えるなかで、ビジネスパーソンはリモートならではのやりにくさを感じているようです。

私たちが実施したアンケートで「業務上、リモートで英語コミュニケーションを取るうえで難しいことは何か」と聞いたところ、約6割の人が自分の意図が伝わったかどうかわかりにくい、次いで約半数の人が相手の意図を理解しづらい*2と答えています。 

前者を解決するためには、より精度の高いスピーキング力が求められ、後者はより高いリスニング力が必要となります。

実際、オンライン会議で必要な力として、8割強の人たちがスピーキング力とリスニング力*2を挙げています。

 コロナ禍はビジネス英語のコミュニケーションスタイルを大きく変えました。その意思疎通の難しさゆえ、英語力が高いほど、上級者のなんと半数近くが「リモートで信頼関係を築きにくい*2と感じています。 

 このアンケートからは、リスニング力とスピーキング力はこれまで以上に高いレベルが求められることがわかり、これまでの目標設定を改めて見直す必要があると言えます。

*2:英語を使ったリモート会議に関する調査(2021年8月調査)。


 

* 「CEFR」とは何か?

  4.「どのくらい英語を話せるか」は国際基準で測る

 日本人の英語力が国際比較で決して高くはないことは、いくつかの調査で示されてきましたが、汎用的な基準で何がどれだけ低いのかを把握できる有効な手立てがなかなかありませんでした。

そこで、これからの英語力の基準としてお勧めしたいのが CEFR (Common European Framework of Reference:ヨーロッパ言語共通参照枠、セファール)です。

CEFRは多言語多文化のヨーロッパで言語能力を示す共通参照枠として開発されましたが、日本の英語教育をはじめ多くの国で広く使われていますし、OECDは2025年の PISA (学習到達度調査)に CEFR に基づいた英語能力試験を実施することを決めています。CEFRでは、英語の総合力ならびに「聞く・読む・話す・書く」という4技能のレベルの定義と、各レベルでできることを記しています。 

 ここでは語学力をpre-A1からC2までのレベルに分け、下から基礎段階の言語使用者、自立した言語使用者、熟達した言語使用者と呼んでいます。約5,000人のビジネスパーソンを対象に行った当社調査では、英語スピーキング力においてはもっとも多い約4割がA2であることがわかりました。

一方、海外の大手グローバル企業の求人情報では、英語力要件は C1以上がほとんどで、まれに職種によって B2 があります。

CEFR準拠でないテストも今は換算表を出しているので、おおよそのレベルがわかります。

 これは、世界で4人に1人が英語を話す時代に、ビジネスでどのレベルを目指すべきかを示すわかりやすい指標です。

もちろん、英語で業務を完結させるには一定以上の英語力を有することが必要で本稿はその前提に立っています。

コミュニケーションの生産性で引けをとらないためには、・・・

日本のビジネスパーソンは、リスニングはCEFRでC1レベル、スピーキングB2レベル以上を目標にするとよいでしょう。

こうした国際比較を通して、ビジネス英語のゴール設定の目線もおのずと上がっていきます。 

これが英語コミュニケーションのスピードの問題の解決になるのです。 




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