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多摩川低地の地下に分布する「軟弱層」を可視化

図は、1923年の大正関東地震による木造家屋の被害率分布の対比。黒線は10 m間隔の沖積層の等深度線を示す。沖積層が深く分布する地域で被害率が高い傾向が見られる。

発表・掲載日:2022/04/27

 

-過去の地盤沈下・地震被害と地下構造との関係が明らかに-

 全国の主要な都市は、国土の約10%の面積を占める沖積低地と呼ばれる平野に立地する。

この沖積低地には人口の約50%と資産の約75%が集中する。

沖積低地は平坦な地形であることから、住宅や工場、交通網などの整備に適している。

一方、沖積低地は、低い土地に分布することから水害の影響を受けやすく、また未固結な地盤の存在が一因となって、地震被害地盤沈下などの地質災害が顕在化しやすい場所でもある。

そのため、沖積層の地下構造と地質災害との関連に基づいて、防災対策や産業立地に活用できる地質情報の整備が求められている。 



 2007年より産総研では、地質情報の空白域であった沿岸域における地質と活断層の実態を解明する目的で、「沿岸域の地質・活断層調査(以下「沿岸域プロジェクト」とする)」を開始した。このプロジェクトでは、これまでに能登半島北部、新潟、福岡、石狩低地帯南部、駿河湾北部、房総半島北部、相模湾、伊勢湾 において調査を行ってきた。これらの多くの地域では、沖積層の基礎的な情報として、深度分布図を作成してきた。

しかし、沖積層を成り立ち物性で区分した分布を示すまでには至っていなかった。 

「多摩川低地の沖積層アトラス」は、沿岸域プロジェクトの一環として、調査を進めてきた成果のひとつである。

 多摩川は東京湾に流入する河川で最大の流量を持つ。この川に沿って分布する多摩川低地には、京浜工業地帯羽田空港のみならず、行政区分としての神奈川県川崎市横浜市東京都大田区が含まれ、首都圏の中でも特に多くの人口と資産が集中する。

多摩川低地の沖積層を対象として、1980年代に多数の放射性炭素年代値を用いて、先駆的な研究がなされた。その際は、73点の年代値の得られた5本の基準コアと800本のボーリング柱状図資料から、沖積層の分布と成り立ちのアウトラインが解明された。 

多摩川低地における沖積層の深度分布(左)とN値5以下の軟弱層の層厚分布(右)。低地の地下には、深度70 mまで沖積層が分布し、軟弱層が沿岸部に広く、内陸部にも点在する。灰色は台地と丘陵の分布を示す。

 今回の沖積層アトラスでは、これらのデータに加え、新たに123点の年代値の得られた基準コア9本と8700本のボーリング柱状図資料を用いることで、沖積低地全体を捉えたものとしては、世界に類を見ない精度と密度でのデータ整備が実現した(図)。 

国内の沖積低地を対象に、このように精密な空間データを構築したのは初めてである。このような多量のデータは、沖積層の地質構造や成り立ちの詳細化を可能にし、新たな科学的な発見を生み出す。

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  ☞「多摩川低地の沖積層アトラス」(令和4年4月27日出版)   ☞  詳細は、こちら LINK 

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地質調査総合センター 田邉晋 主任研究員、同研究所企画本部 中島 礼 総括企画主幹、福岡大学 石原与四郎 助教は、「多摩川低地の沖積層アトラス」を公開した。

東京都と神奈川県の県境を流れる多摩川流域の地下には、沖積層と呼ばれる過去2万年間に形成された未固結な地層が厚く分布する。

今回、多摩川低地の沖積層の中に、含水率が高い軟弱層が広域的に存在することを解明し、沖積層アトラスとして、その分布を可視化した。この沖積層アトラスは、住宅や工業地帯、主要交通網が集中する多摩川低地全体を俯瞰した沖積層の地下構造と成り立ちを示す軟弱層の分布この地域における過去の地盤沈下の範囲はよく一致し、沖積層が厚く分布する地域大正関東地震による地震被害が大きいことがわかった。

沖積層アトラスは、国・自治体や産業界による災害対策やインフラ整備へ活用が期待できる。

 この沖積層アトラスでは、8745本のボーリング柱状図資料と9本の基準コア、196点の放射性炭素年代値に基づき、多摩川低地における沖積層の分布と層序、物性、応用地質を解明した。

多摩川低地の地下には、現河口付近において標高約 −70 mに達する多摩川開析谷が分布しており、その枝谷として鶴見川開析谷が存在する。

これらの開析谷は、海洋酸素同位体ステージ(MIS)5aのT1(武蔵野)面とMIS 3のT2(立川)面、MIS 2前半のT3面によって取り囲まれている。

多摩川開析谷を充填する沖積層は、12の堆積相から構成され、その組み合わせに基づいて、礫層から構成される網状河川システム、河川チャネル砂層と氾濫原泥層の互層から構成される蛇行河川システム、上方深海化する砂泥層から構成されるエスチュアリーシステム、上方浅海化する砂泥層から構成されるデルタシステムに区分される。エスチュアリー・デルタシステム境界は最大海氾濫面に相当し、7.9~7.8 kaの年代値を有する。

エスチュアリーシステムの最上部を構成する堆積相EF(エスチュアリーフロント堆積物)とデルタシステムの最下部を構成する堆積相PD(プロデルタ堆積物)は、含水率と含泥率の高い、いわゆる軟弱な内湾泥層を形成しており、そのN値は5以下である。

横浜市における地盤沈下量の分布は、このN値5以下の泥層の層厚分布とよく一致する

その一方で、大正関東地震による木造家屋の被害率分布は、内湾泥層の層厚とは相関が見られず沖積層の層厚40~50 mの地域で高い傾向が見られる。




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