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米国の「いじめ」とプーチンの危険な賭け


202231

日本のメディアの報道では、自由主義と専制国家との戦いというような、分かりやすい図式での解説が用意されている。そして、事実と、「かつての帝国復活をめざすロシア」というような観測とが混在しているために、かえって実情が見えにくくなってしまっている。米国内では、ロシアに同情する声も出ているという。

ロシア制裁により欧州の天然ガス供給のロシア依存を下げることで、確実に潤うところがあるという見方もある。


* 米国ではロシアをかばう声が出ている?

ロシア軍がウクライナに侵攻、戦闘は26日までに首都キエフに及んだ。

この侵攻は、ロシアのこれまでの“大義名分”だった「クリミアはソ連時代に同じ国だったウクライナに移管したもの。住民の大半はロシア人」というものや、「東部ウクライナの住民の大半はロシア人。ロシアへの帰属を望んでいる」というものを大きく逸脱するものだ。これは一歩間違えば、ロシアの西側への拡大の布石とも見なされかねず、世界大戦にもつながりかねない危険な賭けだとも言える。にもかかわらず、米国には「責任はわたしたちにある」という見方や、「プーチンの対応は自然な反応だ」だとの理解を示す有力者たちがいるという。

 

* 東側に拡大してロシアを追い詰めた「NATO」の歴史

ロシアに敵対している米国にいながら、どうしてこのような見方が出てくるのだろうか?

そこで、ソ連崩壊後のNATOとロシアを巡る主な出来事を、ウキペディアを参照に時系列的に並べてみる。

1991年3月:NATOに対抗するワルシャワ条約機構解散。

加盟国:ソ連、ブルガリア、ルーマニア、東ドイツ、ハンガリー、ポーランド、チェコスロバキア、

    アルバニア(1968年脱退)。

オブザーバー:モンゴル、北朝鮮

1991年3月:NATOにポーランド、ハンガリー、チェコ加盟

1991年12月:ソビエト連邦崩壊により、ロシア連邦が成立

1999年12月:ロシア・ベラルーシ連盟国創設条約が調印

2004年3月:NATOにエストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア加盟

2008年5月:南オセチア紛争が発生。ソ連崩壊後、ロシア初めての対外軍事行動

2009年4月:NATOにクロアチア、アルバニア加盟

2014年2月:ウクライナで親米派による武装クーデター(ウクライナ革命)

2014年3月:ロシア、クリミアを併合

2015年9月:ロシア連邦軍がシリア・アサド政権を支援する直接的な軍事介入

2017年6月:NATOにモンテネグロ加盟

2020年3月:NATOに北マケドニア加盟

 

NATOは軍事同盟なので、仮想敵国がいる。

1991年3月まではワルシャワ条約機構加盟国だったが、以降はソ連、そしてロシアとなった。

時系列で整理するとよく分かるのは、プーチン大統領が対外的な野望を形に移すはるか以前から、NATOが東側に拡大していったことだ。

上記に付け加えるならば、2014年2月の親米政権成立後の2014年5月にバイデン大統領(当時は副大統領)の息子、ハンター・バイデン氏が、ウクライナ最大のガス会社プリスマの役員に就任した。

欧州は天然ガスの供給の4割ほどをロシアに依存している。

2014年まではロシアから欧州への供給は、ウクライナのパイプラインを経由し、ロシアは親ロ政権支援もあって、ウクライナに巨額の使用料を支払っていた

 ところが、親米政権成立後は、黒海経由の海底パイプライン、バルト海経由のノルドストリーム・パイプラインを設置してウクライナを迂回、ウクライナの天然ガス収入は大きく低下した。

 バルト海経由ではノルドストリーム2が設置されたが、経済制裁のため使用許可は降りない見通しとなった。

つまり、ウクライナのガス利権は辛うじて守られることになる。

天然ガス供給のロシア依存度の高い国々

(出典:ニューヨークタイムズ)

 天然ガスのパイプラインと拠点(出典:ニューヨークタイムズ)


* 経済制裁でロシア財政に大ダメージ

以下、CNNの記事を日本語に訳して紹介する。

 最も効果的なロシアへの制裁。ドイツは火曜日に、ノルドストリーム2パイプラインの認定を停止した。

これは、ウラジーミル・プーチン大統領が東部ウクライナの2つの地域の独立を認め、この分離した領域に軍隊を派遣する命令を下してから、ロシアにこれまでに課せられた経済的、財政的な罰則で最も強力な措置となる。 

米国と欧州連合、及び他の西側の同盟諸国もまた限定的な経済制裁を発表した。西側諸国が彼ら自身の軍隊をウクライナに派遣する見込みは少なく、経済制裁がロシア政府を罰し、更なる攻勢を抑止するための最良の手段となっている。

 ノルドストリーム2は年間550億立方メートルのガスを供給することができる。これはドイツの年間消費量の50%以上に相当し、パイプラインを管理するロシアの国営企業ガスプロムに150億ドルの利益をもたらすものだ。

 SWIFTから排除された国の前例がある。イランの銀行が2012年に、同国の核開発プログラムに関して、欧州連合によって制裁を受け、接続を外された。

 ロシアがSWIFTから排除されると、ロシアの経済は5%落ち込むと、2014年にアレクセイ・クドリン前財務相が試算した。前回、この制裁が検討されたのは、ロシアのクリミア併合に対応してのものだった。

 ※参考:The sanctions that could really hurt Russia – CNN(2022年2月23日配信)

 親ロシア派による、ロシアはいつか欧州のパートナーになれるという30年越しの期待は、ロシアのウクライナ侵攻で最初に犠牲になったものの1つだともされている。

 

NATOに追い詰められていたロシアの現実

一方で、2016年にはルーマニアに米軍のミサイルがモスクワに向けて配備された。2018年にはポーランドにも計画され、2022年中には配備される予定だ。 

下記の日経新聞の図解は、今回のロシアの侵攻を、それなりに歴史的な背景を含めて解説している。

 

 


 上記の図解でよく分かるが、旧ソ連の構成国だったエストニア、ラトビア、リトアニアも加盟したことで、ポーランド駐在のNATO軍がロシア国境に達することを阻むのはベラルーシとウクライナだけとなった。

 ベラルーシはここ何年間か、親ロ政権の腐敗が取り沙汰されているが、ウクライナでも武装クーデター以前には、親ロ政権の腐敗がさかんに取り沙汰されていた。そして、親米派の政権奪取後にはすぐに米欧が新政権を承認した。

 プーチン大統領は、安全保障を巡る状況を変えるロシアの試みがすべて無に帰したとして、ウクライナに対する特別軍事作戦を命じる以外に選択肢はなかったと述べた。

 また、ウクライナがNATOに加盟すれば、ルーマニアやポーランドで行ったように米軍の最新兵器がロシア国境に並べられるとの危機感も示した。

 確かに、クリミア併合に関しては、私もプーチン大統領に選択肢はなかったと見ている。クリミアは1954年まではロシアの領土、今も6割がロシア人で、後の4割はウクライナ人とコサック人だというだけではない。ロシア黒海艦隊の基地があるからだ。

 ロシアを仮想敵国とするNATOへの加盟を考えるウクライナ親米政権に、安全保障の要だともいえる海軍基地を残すという選択肢は考えられない。

また、2014年のウクライナ革命は武装クーデターだったので、クリミア自治政府の武力制圧もまた正当化されるとしたのだ。

しかし、キエフまでの侵攻は、他に選択肢がなかったとは思えないでいる。

 

* 儲かるのは米国?ロシアのガス供給が止まればどうなるか

日本のメディアの報道では、自由主義と専制国家との戦いというような、分かりやすい図式での解説が用意されている。そして、事実と、「かつての帝国復活をめざすロシア」というような観測とが混在しているために、かえって実情が見えにくくなってしまっている。 

しかし、上記のように、欧米の要人たちはどっぷりとロシア企業に、言い換えれば、ロシア利権に関わっている。しかし、ここで旧リーダーたちだけがやり玉に挙げられているのは、現リーダーたちと利害が対立している可能性すらあるのだ。

ハンター・バイデン氏を追求したのが、選挙戦当時のトランプ大統領だったように。

 これが示唆しているのは、例えば、ロシア制裁により欧州の天然ガス供給のロシア依存を下げることで、確実に潤うところがあるという可能性だ。

 

※参考:‘We are a gas superpower.’ Ex-Trump regulator says US natural gas can help Europe – CNN(2022年2月23日配信)


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