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ウクライナ侵攻で世界経済暗雲!


 ロシアの動向に対し、ロシアが取りうる3つのシナリオと、それぞれのリスクを述べて分析するのが、大和総研ロンドンリサーチセンター・シニアエコノミストの菅野泰夫氏だ(ロンドン駐在)。

菅野氏のリポート「ロシアはウクライナに全面侵攻するのか?急転直下の展開を見せるウクライナ情勢」(2月22日付)の中で、ロシアはウクライナの征服を望んでいるわけではなく、その主権を損ない、西側への傾斜を食い止めたいだけとして、3つのシナリオを分かりやすいチャート(=図表1)に提示した。

 

長距離砲やロケット、巡航ミサイルを利用すれば、首都キエフ陥落には3日もかからないが、全面侵攻した場合のロシア側のデメリットをこう説明する。

「歴史的に反ロシア感情の強いキエフ周辺を中心に、反対勢力によるゲリラ戦が展開される可能性が高い。これら反対勢力と戦いながら、広大なウクライナの制圧を続けるには相当のコストがかかる」「(2014年の)クリミア併合時には莫大な財政負担に苦しんだ経験があり、さらに広大なウクライナ全土を占領・併合するメリットはほぼゼロ」「(ウクライナ東部の)ドンバス地方のみを併合した場合でも、ロシア政府の追加の想定予算は約200億ドル(中略)既に同地方の公務員給与や年金、インフラといった財政負担をしているロシアがさらなる支出を受け入れる可能性は低い」

ただし、菅野氏は「西側諸国は制裁で対抗するものの効果は薄い」と指摘する。

それは、「プーチン大統領は長年にわたってこれら考えられうる制裁への準備を進めてきたため」だ。

そのため、プーチン大統領が実際に全面進軍に踏み切るか、今後の一挙一動が注目されるという。

したたかなプーチン大統領が、西側諸国からの最悪の制裁を想定して準備してきたものとは何か。

 

 ロシアに「強腰」に出られない欧米諸国のジレンマ について、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏も、リポート「第1弾の対ロ制裁よりも追加措置が世界経済・金融市場に大きな打撃に」(2月24日付)の中で、「経済制裁の第一弾は先進国への打撃が小さい措置に限定された」と指摘した。

「制裁措置はいずれもロシアに決定的な打撃を与えるものではない」「ロシアの原油、天然ガスの輸出、あるいはそれに関わるロシアの銀行を制裁対象とはしていない」「それを行えば、一段の原油、天然ガスの価格高騰が生じ、先進国経済にも大きな打撃となって跳ね返ってくる(中略)。いわゆる『ブーメラン効果』だ」

もっとも、今後ウクライナでのロシアの軍事行動が激化すれば、欧米諸国の制裁措置も厳しさを増さざるを得ない、と木内氏は分析する。

では、どんな追加の経済制裁が出てくるだろうか。

「半導体などのハイテク製品を人工知能(AI)ロボットなど特定分野のロシア企業に輸出するのを事実上禁じることだ。それを通じて、ロシア経済の近代化、多様化を妨げる」「この措置は、先進国側には大きな打撃とはならない」

ただし、逆風が襲ってくる可能性もある。

木内氏は、・・・

「ロシアの 原油、天然ガスの輸出は滞り、エネルギー価格の高騰が先進国経済に逆風となる。また、小麦パラジウム供給減少や価格上昇が先進国経済に打撃となる」「ロシアとウクライナの小麦の輸出量は合計で2019年に世界全体の4分の1以上を占めていた」「産出量の4割をロシアが占めているパラジウムは(中略)自動車の排ガス浄化や携帯電話などに使われている」

と指摘する。 

 だから、今後の追加制裁の内容次第では、「金融市場がかなりの動揺を見せることも覚悟しておく必要がある」と木内氏。

しかもその場合、厄介なのは米FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)が金融引締めを優先するあまり、ウクライナ情勢に関する株式市場の混乱に対する「配慮」が期待できないことだ。


「冷戦ではない」この戦いが世界へ与える真の衝撃

アメリカ国務省でロシア及びウクライナ担当の政策立案スタッフとしても勤務した経験をもつキマゲ教授は、「ロシアのウクライナへの軍事侵攻を冷戦時のフレームワークで読み解こうとする向きも多いが、それは多くの点において間違っている」と指摘。

特に「冷戦は核戦争も伴わず西側の勝利に終わったが、この戦いは冷戦に似ていないことからこそ脅威である」と述べています。

キマゲ教授は、「この戦いは冷戦ではない」とする論拠として、「鉄のカーテン」「核抑止力の低下」「外交とデタント」「秘密工作」という4つの観点から理由を挙げています。 

1つ目は「鉄のカーテン」

「冷戦時」においては、東西間で物理的・精神的な分断線があり、明確に「超えることのできない境界線」が存在していた。

しかし、「今回の戦い」においては、「鉄のカーテン」のような物理的・精神的な分断線はない一方、欧州や中東などに緊張をもたらす「不安定な渦」となっていると指摘。

2つ目かつ、より脅威的な内容なのは、「核抑止力の低下」

「冷戦時」には核兵器は戦争への抑止力として作用し、それを前提とした軍事管理が発展した。

しかし、「今回の戦い」においては、ロシアのプーチン大統領は核攻撃も辞さないことを明言しており、それを前提とした「新たな種類の戦争」の可能性があると指摘。

3つ目は「外交とデタント」という観点。

「冷戦時」には同時に外交や緊張緩和のための話し合いや努力が行われていたのに対して、「今回の戦い」ではロシアとの外交は近年ほとんど進展しておらずプーチンは自身への信頼を裏切る行動を続けてきている。外交やデタントは期待できないと述べています。

4つ目の観点としては、冷戦時より数段テクノロジーが進化していることが「秘密工作」の精度を大きく変化させていると主張。

「冷戦時」には諜報活動、情報操作、世論操作等が積極的に行われていたが、それらの精度は低いものにとどまっていたのに対し、「今回の戦い」では現在の秘密工作はサイバー攻撃やSNS等を駆使して行われており、アメリカ大統領選にも影響を与えるほど強力になってきていると指摘しています。


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